火山災害
火山災害の種類
Hazardによる | Disasterによる | ||
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噴火災害 | 溶岩流出 | 山地荒廃 | 植生破壊 |
火砕流・火砕サージ | 斜面崩壊 | ||
噴石 | 土石流 | ||
降灰 | 平野部の洪水 | ||
火山ガス | 農業被害 | 耕作土埋没 | |
空振 | 灌漑用水路破壊 | ||
山体崩壊 | 岩屑なだれ | ライフライン災害 | 通信断絶 |
天然ダム・堰止め湖 | 停電 | ||
津波 | 断水 | ||
火山性地震 | 地震動 | 交通断絶(道路・航空・港湾) | |
地殻変動・地盤沈下 | 住宅災害 | 埋没・倒壊・炎上 | |
津波 | 健康被害 | 病院の機能麻痺・呼吸器疾患増 | |
二次災害 | 泥流・ラハール | 島嶼部への波及 (桜島特有の問題) | 港湾機能停止に伴う二次被害 (フェリー欠航による物資欠乏など) |
土石流 |
御嶽山2014年噴火時の救助活動 (総務省フォトギャラリー) |
新燃岳2011年噴火(霧島ジオパーク提供) |
このように噴火の規模によって、災害の様相も変わってきますが、列挙してみれば、表のようになるでしょう。
噴火災害
溶岩流出による災害
溶岩に埋まった阿古小学校 | |
溶岩に埋まった自動車 | 桜島大正溶岩で埋まった集落 |
桜島大正噴火はもっと甚大な被害が出ました。西桜島村の横山・赤水、東桜島村の脇・有村・瀬戸集落が熔岩の下になりました。横山・有村はそれぞれ西桜島村・東桜島村の役場所在地で中心集落だったのです。沖合にあった烏島が埋まったのも有名です。
火砕流による災害
1991年6月3日の雲仙火砕流(当時鹿大院生尾関氏提供) | 火砕サージで焼けた大野木場小学校(1991/9/15) |
ポンペイ遺跡 | 犠牲者の石膏体 |
火砕流には、噴煙柱崩壊型や溶岩崩落型などいろいろありますが、火山ガスや空気と、軽石・火山灰・岩片などの火砕物が一体となって高速で流下する現象です。温度は600~700℃、時速100km程度と言われています。Flowですから基本的には低い方に流れますが、スピードがあるので、斜面を駆け上ることもあります。とくに、随伴する高温熱風の火砕サージpyroclastic surgeはガス分が多いだけに高速で危険です。
大規模な例としてはシラスを形成した入戸火砕流のようなものが挙げられますが、雲仙普賢岳の火砕流は「地質学的には」極々小規模です。この小規模という語が一般の方たちに火砕流軽視の風潮を生んでしまったようです。しかし、車で逃げても追いつかれるスピードですから、恐ろしい現象です。恐ろしい代表例が「ポンペイ最後の日」です。ヴェスヴィオ火山A.D.79年噴火の火砕流・火砕サージによって、ポンペイは死の街になりました。今に残る石膏体は、神様に祈っていたのでしょうか。
噴石による災害
有村集落の噴石被害(1984/7/21;鹿児島県による) | 新燃岳噴石(宮崎県小林市内)(2011/2/14) |
降灰による災害
2011年新燃岳噴火による軽石(御池小学校) | 2011年新燃岳噴火による畑の被害(都城市浜之段) |
火山ガスによる災害
これについては、「桜島の噴煙」をご覧ください。水蒸気やSO2ガスだけでなく、1986年のカメルーン・ニオス湖では多量のCO2ガスによって死者1746人を出しています。家畜も多数犠牲になりました。空振による災害
2011年新燃岳噴火による空振被害(霧島支所) |
山体崩壊・岩屑なだれ・津波
肥後国嶋原津波之絵図(熊大永青文庫蔵)(九地整HPより) | 1792年眉山崩壊(雲仙復興だよりNo.3) | 1888年磐梯山岩屑なだれ(見祢の大石) |
桜島北岳(小林,2011) |
火山性地震
地震動災害
鹿児島市内の震害(大正噴火誌,1927) | 鹿児島市内の震度分布(今村,1920) |
地殻変動・地盤沈下
マグマが上昇してきて火山が噴火するのですから、必ず地殻変動を伴います。昭和新山は畑が山になったとして有名です。溶岩円頂丘lava domeです。有珠山2000年噴火でも西山方面でドーム状の隆起が起きました。そのため、国道230号は寸断されました。有珠山は溶岩ドームをつくるような粘性の強いマグマ(デイサイト~流紋岩)ですが、桜島は爆発的な噴火をする安山岩質マグマです。桜島大正噴火では大爆発を起こしたため、マグマの供給源だった姶良カルデラを中心に円弧状に陥没しました。姶良市・霧島市の湾岸で60~70cm地盤沈下、鹿児島市街地でも40cm程度地盤沈下しました。国分にあった江戸時代の干拓地や帖佐の塩田が水没してしまいました。姶良市塩釜の「塩田の碑」には「大津波が襲い」とありますが、地盤のほうが沈下したのです。
昭和新山 | 霧島市「堤塘竣工記念碑」 | |
有珠山2000年噴火による国道の段差 | 桜島大正噴火時の地盤沈下(小藤,1916) | 姶良市塩釜「塩田の碑」 |
二次災害
火山泥流(ラハール)・土石流
雲仙普賢岳1991年土石流被害家屋 | 有珠2000年噴火金比羅川泥流 |
一番有名な火山泥流は1926年の十勝岳火山泥流でしょう。三浦綾子が小説『泥流地帯』を書き、一躍有名になりました。水蒸気爆発が山頂付近の残雪を溶かして、一気に泥流化したのです(融雪型泥流)。スピードは極めて速く、美瑛川と富良野川を一気に流下して、上富良野町を襲いました。死者・行方不明者144名という大災害になりました。
このように火山活動が直接泥流を引き起こすこともありますが、多くは、噴火によって堆積した火山砕屑物が、その後の降雨によって水を含み、泥流化するケースが多いようです。したがって、長期間にわたって続きます。桜島大正噴火では、上述のように、10年以上続きました。
破局的噴火・カルデラ形成
川内原発の再稼働に関連して姶良カルデラの活動をどう評価するか議論されています。姶良カルデラは、上述のように約3万年前に入戸火砕流を噴出する破局的噴火をしました。最近では7,300年前、鬼界カルデラ(薩摩硫黄島の南東にある海底カルデラ:図は産総研)が幸屋火砕流とアカホヤ火山灰を噴く破局的噴火をしました。火砕流はガス・サポート(高温の気体に浮いて流れる状態)ですから、海も渡ります。火砕流は鹿屋周辺にまで到達しました。アカホヤ火山灰は遠く東北地方にも到達しています。この噴火により、南九州の先進的な南方系縄文文化は途絶えました。千年近く経過して照葉樹林が回復した後に文明度が低い北方系縄文文化が侵入してきました。わが国でカルデラを形成するような破局噴火が起こる確率は1万年に1回と言われています。詳しくは「鬼界カルデラ」をご覧ください。2018年草津白根山噴火の教訓
火山地質図(マーカー:2018/1/23の火口) |
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水蒸気爆発phreatic explosionは、地下水がマグマからの熱により急激に気化・膨張して発生します。したがって、噴石は山体を構成していた岩塊で、マグマ由来のものは含まれていません。マグマ物質が含まれている場合にはマグマ水蒸気爆発phreatomagmatic explosionと言います。今回の本白根山の噴火がどちらなのか、現地調査ができるようになれば、やがて分かるでしょう。
桜島は地下水位が低くドライな山ですので、あまり水蒸気爆発の可能性はなさそうですが、低標高のところでは起こり得ます。実際、桜島天平宝字噴火(764)はマグマ水蒸気噴火です。また、既存火道を必ず利用するとは限りません。1997年鹿児島県北西部地震では、2ヶ月後にごく近傍に新しい断層を作りました(「1997年鹿児島県北西部地震」参照)。山頂噴火だけを想定していると、白根山のような不意打ちを食らう恐れがあります。心したいものです。(2018/01/24)
その後、産総研・防災科研合同チームが現地調査に出かけて、噴出物を調査した結果、既存の山体の構成物と考えられる変質粒子が約8割を占めていたそうで、水蒸気噴火の可能性が高いとしています。(2018/01/25)
文献:
- 今村明恒(1920), 九州地震帯. 震災豫防調査會報告, No.92, p.1-94.
- Koto, B.(1916), The great eruption of Sakura-jima in 1914. Jour. Coll. Sci., Imperial Univ. Tokyo, Vol.38, Art.3, p.1-237.
- Open University(2016), Volcanic hazards Kindle版. 39pp.(Free)
- Mackie, S. & Cashman, K.(2016), Volcanic Ash: Hazard Observation. Elsevier, 298pp.
- Blong, R. J.(2013), Volcanic Hazards: A Sourcebook on the Effects of Eruptions. Academic Press, 424pp.
- Shroder, J. F. & Papale, P.(ed.)(2014), Volcanic Hazards, Risks and Disasters. Elsevier, 532pp.
- Loughlin, S. C., Sparks, S., Brown, S. K., Jenkins, S. F. & Vye-Brown, C.(ed.)(2015), Global Volcanic Hazards and Risk, Cambridge University Press, 408pp.
- Latter, J. H.(ed.)(2011), Volcanic Hazards: Assessment and Monitoring (IAVCEI Proceedings in Volcanology). Springer, 625pp.
- American Geological Institute & Furman, T.(2004), Monitoring And Mitigating Volcanic Hazards (Earth Inquiry). W H Freeman & Co, 15pp.
- McCoy, F. W. & Heiken, G.(ed.)(2000), Volcanic Hazards and Disasters in Human Antiquity. Geological Society of America, 99pp.
- Watson, M. & Rust, A.(2016), Volcanic Ash: Hazard Observation. Elsevier, 298pp.
- 池谷 浩(2003), 火山災害―人と火山の共存をめざして. 中公新書, 208pp.
- 日本火山学会(2015), Q&A 火山噴火 127の疑問 噴火の仕組みを理解し災害に備える. 講談社ブルーバックス, 256pp.
- 饒村 曜(2015), 火山―噴火のしくみ・災害・身の守り方. 成山堂書店, 153pp.
- 宇井忠英(1997), 火山噴火と災害. 東京大学出版会, 219pp.
- 井田喜明・谷口宏充(編)(2009), 火山爆発に迫る―噴火メカニズムの解明と火山災害の軽減. 東京大学出版会, 225pp.
- 高橋和雄・木村拓郎(2009), 火山災害復興と社会―平成の雲仙普賢岳噴火. 古今書院, 189pp.
- 石 弘之(2012), 歴史を変えた火山噴火―自然災害の環境史. 刀水書房, 181pp.
- 宇都浩三・早川由紀夫・荒牧重雄・小坂丈予(1983), 火山地質図 No. 3 「草津白根火山地質図」.
- 濁川 暁・石崎泰男・亀谷伸子・吉本充宏・寺田暁彦・上木賢太・中村賢太郎(2016), 草津白根火山本白根火砕丘群の完新世の噴火履歴. 日本地球惑星科学連合2016年大会予稿,SVC48-11.
- 産総研・防災科研(2018), 2018年1月23日の草津白根山噴出物構成粒子の特徴. 火山噴火予知連絡会資料, 2pp.
- 新東晃一(2006), 南九州に栄えた縄文文化・上野原遺跡. 新泉社, 93pp.
- 新東晃一(1994), 縄文文化と鬼界アカホヤ火山灰. 町田 洋・森脇 広・梅原 猛編「火山噴火と環境・文明」, 思文閣出版, p.163-178.
- 杉山真二(2002), 鬼界アカホヤ噴火が南九州の植生に与えた影響―植物珪酸体分析による検討―. 第四紀研究, Vol.41, No.4, p.311-316.
- (), . , Vol., No., p..
- (), . , Vol., No., p..
参考サイト:
- フォトギャラリー:緊急消防援助隊の活動(2014年)(総務省)
- 災害教訓の継承に関する専門調査会報告書「1914 桜島噴火」(内閣府)
- 桜島大正噴火100周年記念誌(鹿児島県)
- 平成30年草津白根山1月23日噴火(2018年1月)(アジア航測)
- 平成30年1月 草津白根山噴火(国際航業)
初出日:2015/05/30
更新日:2020/11/29