桜島の噴煙

 桜島上空の風

桜島上空1500mの風配図桜島噴煙の月別卓越方向(内容は左と同じ)1985年の降灰分布図
(上:8月,下:2月)
 桜島は1955年以来2006年頃まで南岳が活発に活動し、ほぼ毎日のように噴煙を上げ続けていました。2006年頃から昭和火口の方に活動の中心が移動し、規模は小さくなりましたが、活発に噴煙を上げています。降灰は市民生活に多大な影響を与えますので、気象庁では昭和60年(1985)から桜島上空の風向きを毎日予報していました。最近では、噴煙が3000m上空まで噴き上げた場合の降灰予想を毎日発表しています。テレビのニュースで毎日降灰予報をしている街は世界でもそうないでしょう。
 右図は2001-2010年の10年間を平均した桜島上空1500mの風配図です。冬に北西の風が多く、梅雨時は西南西の風、夏は南東の風が多いようです。日本列島上空には偏西風が常に吹いているわけですから、当然ではありますが、垂水方面が降灰の被害をまともに受けます。夏、鹿児島市街地に飛んでくる場合もあります。1985年の降灰分布図をご覧ください(中村,2002)。

 降灰被害

車を覆う火山灰
鹿児島市街地を襲う降灰ロードスィーパー降灰置き場
 現在は小康状態ですが、かつては鹿児島市街地もしばしば豪灰に見舞われました。道路のセンターラインが見えなくなる、スリップをするなどが相次ぎ、鹿児島市では他の都市にはないロードスィーパーなる巨大な掃除機を走らせていました。住民も降灰袋(克灰袋)に敷地内の灰を詰めて、町内の指定場所に出していました。後で清掃車が収集するシステムです。1973年活動火山対策特別措置法(活火山法)が制定され、学校の冷房や窓の二重化、プールに屋根をつけるなどの対策が行われました。大学でも、機械が傷むとの理由で理系の実験室にだけ冷房が認められていたものが、この法律により、文系学部でも冷房が設置されました。
 火山灰(火山ガラス)が目に入って眼を痛める、呼吸器疾患を誘発するといった健康問題については「火山灰の健康影響」を、桜島島内における農業被害については「桜島の地形地質と農業」をご覧ください。

 火山ガス

高濃度事象の主因と副因(木下,2013)
 降灰が街を襲うとき、少し臭いのすることがあります。火山ガスが含まれているのです。火山ガスというと、八甲田温泉や霧島硫黄谷温泉であった、火山山麓の窪地や割れ目で発生するH2Sガス事故のことを想い出す方が多いでしょう。H2Sは空気より重いですから、風の弱いときに窪地に溜まりやすいのですが、ごく稀ですし、局所的です。
 問題は、三宅島で帰島が遅れる原因となった、山頂噴火口からの高温SO2ガスです。木下紀生鹿大名誉教授を中心とする鹿児島大学/熊本大学噴煙研究グループは、永年にわたって桜島の噴煙と火山ガスを研究してきました。その結果、次のような結論を得ました(木下,2013)。山麓でSO2が高濃度になる主因は強風による吹き降ろしで、あまり拡散せず遠方まで届きます。強風でない場合には、日射による対流により、麓で高濃度になることがあります。桜島島内では、農作物の花芽が火山ガスでダメになり、多大な損害を出すことがあります。
文献:
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  2. 大倉光志・金丸正将(1998), 南九州地域におけるSO2高濃度事象と桜島プルーム. ながれ, Vol.18, No., p.37-46.
  3. 中村政道(2002), 桜島の総降灰量の推移. 験震時報, Vol.65, No., p.135-143.
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  5. 木下紀正(2013), 最近の桜島爆発噴煙と火山ガス・エアロゾル. 東大地震研共同利用研究集会スライド.
  6. 木下紀正・西之園雅靖・瓜生洋一朗・金柿主税(1999), 桜島火山周辺におけるエアロゾルと火山ガスの高濃度事象の解析. 鹿大教育学部紀要(自然科学編), Vol.50, No., p.11-27.
  7. 木下紀正(2015), 山噴火と大気環境 —第1講 火山活動と噴出物の動態. 大気環境学会誌, Vol.50, No.4, p..
  8. 古江広治・上村幸広・宇田川義夫(1987), 桜島火山ガス降下の実態. 鹿児島県農業試験場研究報告, Vol., No.15, p.23-34.
  9. 鵜野伊津志・若松伸司(1996), 桜島からの火山ガスプリュームの輸送・拡散過程の解析. 土木学会論文集, Vol.1996, No.552, p.53-63.
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  11. Kinoshita, K., Iino, N. Uno, I.(2001), Satellite Analysis of Volcanic Clouds and Transport of Acidic Substances from Mt. Aso and Mt. Sakurajima. Water, Air, and Soil Pollution, Vol.130, No.1, p.385-390.
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参考サイト:



更新日:2017/07/08
更新日:2017/07/09