桜島の地形地質と農業

桜島火山地質図第2版(f:火山麓扇状地堆積物,砂及び泥)桜島大根
桜島小ミカン(島ミカン)ビワ(遠景は沖小島)
武貝塚トレンチ断面図(泉ほか,1991)
 桜島は南北に長い鹿児島湾の中央部に位置し、暖流が洗って気候温暖、日照もよく、縄文の昔から人が住み着いていました。溶岩分布域は農耕に適していませんので、火山扇状地とくに北西部に多く住んでいました。土壌は火山灰土ないしボラ土で、排水性・保水性ともに良く、空気を含むことで保温性もあります。表流水はありませんが、地下水は豊富です。当然、稲作には向きませんが、世界一大きな桜島大根、世界一小さな桜島小ミカン、それにビワなどの特産品が穫れます。南岳が活発な活動を始める昭和50年代までは「宝の島」と呼ばれ、農家所得県下一二を争っていました。

 桜島大根

 大根は弥生時代に伝わったとされていますが、桜島大根の起源については諸説あるようです。江戸時代初期には大型の大根として記載があります。写真のように丸形の30~40kgもある大きなものです。晩生系で葉色が濃く、根の肥大期間が長いなどの特長があります。この晩生で生育期間の長いことから、火山灰土壌や温暖な気候条件に適しているのだそうです(冨永,2012)。雄大根(おでこん)と雌大根(めでこん)とあり、両者を交配して種子を採取します。

 桜島小ミカン

 桜島小ミカンは、島ミカンとも呼ばれ、世界一小さなミカンですが、紀伊国屋文左衛門で有名な紀州ミカンと同じものです(冨永,2012)。鹿児島に導入された時期については、秀吉の朝鮮出兵や関ヶ原の戦いなど諸説あるようですが、慶長8年(1603)島津義久から「桜島蜜柑」として徳川家康に献上された記録があるそうです。桜島小ミカンには、ダイエット効果のあるシネフリンや、発がん抑制効果のあるβ-クリプトキサンチンなどの機能性成分が他の柑橘類に比し多量に含まれており、機能性食品として注目を集めています(冨永,2012)。
 なお、現在一般に食されている温州ミカンは、原産地が鹿児島県の長島にも関わらず、種なしは、お世継ぎが出来ないとして、江戸時代には嫌われ、普及しませんでした。
素朴な疑問:
 種なしの温州ミカンは江戸時代末期から明治以降、急速に普及していったようです。長島が温州ミカンの本家なのに、どうしてミカンの三大産地が和歌山・愛媛・静岡になったのでしょう? 鹿児島はマーケティングが不得手だったのでしょうか。

 降灰被害

 昭和50年代以降、南岳の活発な噴煙活動は農業に多大な悪影響を与えています。積もった火山灰は湿り気を帯びるとモルタル状になり、植物の生長を阻害します。ビニールハウスで覆っても、屋根に積もった灰が日照不足の原因になります。また、火山ガスも新芽や花芽を痛めますし、ガスを含んだ火山灰が付着すると、葉焼けや裂果を引き起こします。

文献:
  1. 細野重雄(1955), 鹿兒島縣の農業とその条件. 農業総合研究, Vol.9, No.3, p.235-291.
  2. 泉 拓良・小林哲夫・松井 章・諏訪 浩・江頭庸夫・加茂幸介(1991), 桜島における縄文人の生活と火山災害-桜島・武貝塚の発掘調査-. 京大防災研究所年報, No.34A, p.81-190.
  3. 石村満宏(1985), 桜島の降灰被害に伴う地域農業の変化. 地学雑誌, Vol.94, No.4, p.256-265.
  4. 岩松 暉・小林哲夫(1984), 桜島火山の有史軽石の分布と浸食作用. 桜島地域学術調査協議会調査研究報告 第2集, 鹿児島県, p.149-158.
  5. 鹿兒島縣立農事試檢塲(1915), 櫻島噴火ト農業 第一輯. 鹿兒島縣立農事試檢塲, 275pp.
  6. 小林哲夫(1982), 桜島火山の地質 : これまでの研究の成果と今後の課題. 火山第2集, Vol.27, No.4, p.277-292.
  7. 小林哲夫・味喜大介・佐々木 寿・井口正人・山元孝広・宇都浩三(2013), 桜島火山地質図(第2版), 産総研, 1葉.
  8. 冨永茂人(2012), 火山の恵み、桜島の農作物. Civil Engineering Consultant, No.256, p.20-23.
  9. 米谷静二(1980), 桜島における土地利用と人口動態. 桜島地域学術調査協議会調査研究報告, 鹿児島県, p.270-274.
  10. 米谷静二・石村満宏(1983), 桜島の土地利用. 桜島地域学術調査協議会調査研究報告 第2集, 鹿児島県, p.215-220.
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参考サイト:


初出日:2015/12/22
更新日:2019/03/11