火山灰の健康影響



呼吸器疾患
径100μm以下の火山灰の吸入<100μm:上気道の刺激
<10μm:既往肺疾患(喘息・気管支炎など)の悪化
結晶質シリカの吸入長期間の暴露は珪肺や他の慢性肺疾患のリスク上昇につながる
眼科疾患
目に異物が入る角膜剥離・結膜炎
火山灰の電顕写真(IVHHNによる)アメリカ地質調査所(USGS)による
 桜島は世界でも有数の活動的火山、長期にわたって火山灰をまき散らしています。火山灰は火山ガラスを主体としていますから、目がチクチクしたりすることがあります。鹿児島の人たちは慣れっこになって、その程度と考えているようですが、本当に健康影響はないのでしょうか。USGSは右のようにまとめています。
 それでは実際に桜島でどうなのでしょうか。脇阪ほか(1987)は、旧桜島町と南へ50kmほど離れた旧大浦町の国保受診者を比較した結果、気管支炎様疾患・喘息様疾患および肺炎については、桜島町のほうが有意に高く、SO2濃度と相関があると述べています。また、垂水市内の調査でも、桜島からの距離が近い地域では呼吸器系疾患の受診率・受診者率が高い傾向があり、火山性大気汚染の暴露レベルが高い地域では、急性の呼吸器症状を訴える者が多いとしています(脇坂ほか,1989)。患者アンケートでも、桜島の降灰は喘息患者に少なからず身体的心理的影響を及ぼしている可能性が示唆されるそうです(栃木ほか,2011)。また、実験的研究もあります。Shirakawa et al.(1984)は家兎に火山灰粉塵を気管内注入したり、粉塵を吸入させたりしたところ、X線所見として粒状陰影も認められ、塵肺症が発生したとしています。これに対し、化学物質の暴露が過剰であれば、本来障害性の少ないものでも線維化を起こすなどとの反論もあるようです。気管支喘息などは季節的・気象学的・心理的要因もありますし、統計学的検証に耐えるほどの症例数を集められないことなどから、一概には言えない難しい問題のようです。

余談:
 雪国に住む国家公務員には寒冷地手当が支給されます。これは元々薪炭手当と呼ばれていたもので、暖房費の支給でした。桜島南岳の活動が活発だったころ、鹿大人事課長が、鹿児島は降灰のため窓を開けられなくて冷房が必要なのだから、降灰手当を人事院に要求しようと、私に資料を求めてきました。数年分の爆発回数・降灰量などの資料を差し上げました。ついでに、農学部の鹿大家畜病院の助手の方に、犬は人間より地面に近いところを歩いているのだから、野良犬でも捕まえて解剖し、肺の写真をくれとお願いしました。結果は、意外にも大変きれいで、人間の煙草飲みの肺のほうがずっと汚いです、との返事でした。火山灰の粒子が大きいと鼻毛や鼻汁でブロックされるためでしょうか。そうなると、桜島より遠いほうが、肺疾患が多いはず?? 今はやりのPM2.5はどうなのでしょうか。
余談その後:
 人事院の返答は、「雪は毎年降りますが、桜島も毎年必ず噴火しますか」とのことでした。人事課長から、「毎年必ず噴火するとの証明書を書いてくれ」と言われましたが、それは書けません。「昨年の降灰量に応じて出す、実績主義にしては」と提案しましたけれど、結局、降灰手当はおじゃんになりました。官僚にも頭の良いヤツがいるものです。


文献:
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参考サイト:



初出日:2016/08/17
更新日:2019/10/21