高度成長期のウオーターフロント造成旧版1:25,000地形図阪神大震災におけるウォータフロントの液状化災害千葉県浦安市の3.11液状化災害

 鹿児島の埋立地2

 高度成長期のウオーターフロント造成

七ツ島メガソーラー発電所
(重工業誘致の夢の跡)
マリンポートの埋立工事
水搬工管路系統図(平松.1968)埋め立て中の与次郎ヶ浜(鹿児島県,2013)
 日本の高度経済成長期は、一般に昭和29年(1954年)~昭和48年(1973年)の19年間と言われています。「もはや戦後ではない」と言われ、好景気に沸き、日本中が活気に満ちていました。その象徴が1964年の東京オリンピックでした。昭和37年(1962年)には新産業都市建設促進法が制定され、地方にコンビナートを分散立地する方針が提起されました。鹿児島市は指定から漏れましたが、公有水面を埋め立てるなどして沿岸部に広大な敷地を確保し、工場誘致を図りました。
 造成順に列挙すると下記の通りです(鹿児島市史による)。
 • 昭和40年(1965年):四号用地・東開町工業用地
 • 昭和46年(1971年):二号用地
 • 昭和47年(1972年):三号用地・与次郎ヶ浜
 • 昭和52年(1977年):一号用地B区・祇園之洲
 • 昭和54年(1979年):一号用地A区
 埋立方法はいろいろありましたが、一番有名なものは与次郎地区を造成した水搬送工法です。城山団地を造成する際に出た13,000,000m3の土砂を利用して与次郎ヶ浜660,000m2の埋め立てを行う一石二鳥を狙ったものでした。本港区から海水をポップアップして、冷水地区(現城山団地)に送り、掘削土とこの海水を混合して懸濁液とし、3連のサンドポンプで与次郎ヶ浜まで水搬送を行いました。管路の延長は6,500~7,600mにも達しました。水搬路線には排水溝や甲突川河川敷を用いました。騒音・砂塵・交通妨害などの公害が全くない最新工法としてもてはやされました。
 その後も昭和61年(1986)~平成3年(1991)のバブル景気などもありましたが、計画通りに重工業はやって来ませんでした。しかし、埋立地だけは残りました。東日本大震災の時の千葉県浦安市のように、地震時の液状化が心配です。
 以下、国土地理院の旧版2万5千分の1地形図で海岸線の変遷をたどってみましょう。とくに高度成長期とそれ以降に埋立が急速に進んだことが分かります。
<注1> 旧版地形図は紙の伸縮などで多少ゆがんでいます。ジオレファレンスの際、誤差が出ていますが、ご容赦ください。
<注2> 海岸線の変遷を示すKMLファイルは鹿児島大学地域防災教育研究センターのサイトからダウンロードできるようにしてあります。

赤:1918年茶:1935年橙:1970年緑:1983年青:1998年紫:2004年 塗りつぶした部分はその前の地図との差分、つまり、その間の埋立地。
:江戸期の跡地,:戦後の構造物 クリックすると写真がポップアップします。)

 旧版1:25,000地形図

1918年1935年1970年
鹿兒島北部大正5年測図、大正7年発行鹿兒島北部大正4年測図、昭和7年修正測図、昭和10年発行鹿児島北部大正4年測量、昭和41年改測、昭和45年発行
鹿兒島南部大正5年測図、大正7年発行鹿兒島南部大正4年測図、昭和7年修正測図、昭和10年発行鹿児島南部大正4年測量、昭和41年改測、昭和44年発行
瀬々串 瀬々串 瀬々串昭和41年測量、昭和44年発行
1983年1998年2004年
鹿児島北部大正4年測量、昭和41年改測、昭和57年修正測量、昭和58年発行鹿児島北部大正4年測量、昭和41年改測、平成2年修正測量、平成9年部分修正、平成10年発行鹿児島北部昭和41年改測、平成16年更新、平成16年発行
鹿児島南部大正4年測量、昭和41年改測、昭和57年修正測量、昭和59年発行鹿児島南部大正4年測量、昭和41年改測、平成2年修正測量、平成9年発行鹿児島南部昭和41年改測、平成16年更新、平成16年発行
瀬々串昭和41年測量、昭和57年修正測量、昭和59年発行瀬々串昭和41年測量、平成5年修正測量、平成6年発行瀬々串昭和41年測量、平成13年修正測量、平成15年発行
<注> 鹿児島には戦前海軍基地がありましたから、地図作製は許されませんでした。昭和29年(1954)発行の「鹿兒島北部」や昭和23年(1948)年発行の「鹿兒島南部」は、いずれも大正4年(1915)測図、昭和7年(1932)修正測図のものを、行政区画だけ資料修正したものです。よって、ここでは割愛しました。

 阪神大震災におけるウォータフロントの液状化災害

神戸港の液状化被害(谷本,1998)地盤改良工法と液状化被害(谷本,1998)
 こうした人工的なウオーターフロントの液状化災害については、阪神大震災でよく調べられています。神戸市には六甲アイランド(1988年竣工)とポートアイランド(1981年北部竣工)という2つの巨大な人工島が作られていました。よく知られているように、1995年の兵庫県南部地震では液状化の被害を受けましたが、ポートアイランドのほうがが甚大でした。谷本(1998)によれば、両島とも地震動の大きさも埋立工法にも大差はないが、埋立材料に大きな差があることが主因としています。六甲アイランドは主として神戸層群由来の破砕土を、ポートアイランドは六甲花崗岩由来のマサ土が用いられていたのです。前者は粘質土も含みますから液状化しにくかったのに対し、後者は間隙の大きい粗粒砂ですから、地震には弱かったのでしょう。鹿児島の場合には、乱したシラスが用いられています。「鹿児島市の地盤」でも述べたように、乱したシラスは普通砂よりも液状化しやすいといわれていますから心配です(山内ほか,1976)。
 被害の大きかったポートアイランドを見ると、更に興味深いことが分かります。ここでは部分的ではありますが、各種の地盤改良工事も行われていたのです。非改良の地区に被害が集中していることが一目瞭然ですが、改良工事が行われたところでは、プレロード工法(PL)のところに部分的に見られるものの、サンドドレン工法(SD)、サンドコンパクションパイル工法(SCP)およびロッドコンパクション工法(RC)などが実施されたところでは、ほとんど被害が出なかったそうです。
 なお、ポートアイランドと本土を結ぶ唯一の橋神戸大橋の三之宮側取り付け部が地震で損壊、全面復旧に1年半を要しました。こうした人工島では取付橋梁もリスク要因となります。
 鹿児島の場合もいろいろな時期にいろいろな工法で埋立が行われましたから、その資料を収集し、液状化危険度判定を行い、問題のあるところには補強を行うことが喫緊の課題だと思います。

 千葉県浦安市の3.11液状化災害

工学的基盤上面標高と液状化(安田,2012)地下水位面下FS層層厚と液状化(安田,2012)
 浦安市の埋立地は、他の東京湾岸と違って臨海工業地帯ではなく、遊園地や宅地として開発されました。工事開始は1964年、完工は1980年のことです。その工法は、先ずコンクリート防壁で囲い、前面の海底泥を浚渫して内部を埋め立て、さらに盛土するやり方でした。こうした方法ですから、東日本大震災では甚大な液状化被害に遭いました。土地・道路等における地盤の隆起と沈下、噴砂・噴水現象、大規模陥没、地割れなどです。被災者96,473人、被災世帯37,023世帯、液状化面積約1,455haと言われています(浦安市,2011)。
 浦安市液状化対策技術検討調査委員会(2012)によれば、とくに被害が大きかったところは、工学的基盤(洪積層上面)の図が示すように埋没谷の部分に当たり、そこはまた、埋立造成に用いた細粒分を多く含む埋立砂層(Fs層)が厚いところでもあります。また、地下水位が浅いほど被害が大きくなる傾向があるそうです。
 しかし、神戸と同様、SCP工法やPL工法などにより地盤改良されたところでは被害がないか軽微だったそうです。やはり、事前の対策が重要です。

文献:

  1. 平松頼夫(1968), 水搬送工法 鹿児島市中部地区宅地造成工事および与次郎ヶ浜公有水面埋立工事. 土木技術, Vol.23, No.2, p.87-94.
  2. 本間 勝(2013), 浦安市における液状化被害・復旧状況と不動産取引における地質情報の活用策. GSJ地質ニュース, Vol.2, No.12, p.357-360.
  3. 鹿児島県広報課(2013), 与次郎ヶ浜埋め立て~水搬送工法~. グラフかごしま, No.494, p.27-28.
  4. 鹿児島市地盤図編集委員会(1995), 鹿児島市地盤図. 鹿児島大学地域共同センター・(社)鹿児島県地質調査業協会, 132pp.
  5. 南日本新聞社編(1990), 鹿児島市史 第4巻. 鹿児島市, 1037pp.
  6. 谷本喜一(1998), 阪神大震災ウォータフロントの地盤災害. 建設工学研究所, 103pp.
  7. 山内豊聡・松田 滋・一瀬久光(1976), 沖積シラスの液状化について. 土木学会西部支部1976年研究発表会講演概要集, p.235-236.
  8. 浦安市液状化対策技術検討調査委員会(2012), 浦安市液状化対策技術検討調査報告書. 浦安市, pp.
  9. 安田 進(2012), 地盤WGの調査結果. 土木学会, Vol., No., p..
  10. (), . , Vol., No., p..
  11. (), . , Vol., No., p..
  12. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2017/10/05
更新日:2020/12/01