災害について

 鹿児島の地学的位置

 「地質概説」でも述べたように、九州島はフィリピン海プレートと相対峙する変動帯に位置していますから、地震・火山活動が活発なところです。鹿児島には北から加久藤・姶良阿多鬼界のカルデラが南北に連なり、活火山も多く、気象庁の認定では11個もあります。霧島山とか池田・山川などとひとくくりにしていますから、鰻池など別々に数えれば日本一かも知れません。
 また、アジアモンスーン地帯にも位置していますので、梅雨前線が停滞しやすく、とくに鹿児島は黒潮の洗うところ、台風常襲地帯でもあります。梅雨末期の前線が停滞し集中豪雨をもたらしますから、昔、鹿児島には「人が死なないと梅雨が明けない」という悲しい言葉がありました。しかし、最近は温暖化のためか、梅雨末期の前線は北部九州~中国地方~紀伊半島と停滞する場所がやや北上しているようです。
 さらに、鹿児島は、温帯の出水から亜熱帯の与論島まで南北600kmもあり、気候条件も変化に富んでいます。屋久島には、九州一高い標高1,935mの宮之浦岳もあります。
 地質的には白亜紀の四万十層群を基盤とし、それに1,500万年前の花崗岩が貫入しています。それらを新第三紀~第四紀の火山岩類が不整合に覆っています。とくにシラスが県本土の約6割を覆い、大小のシラス台地が発達しているのが特徴です(横田修一郞原図)。

 HazardとDisaster

 Hazardとdisasterは、両方とも災害と訳されますが、意味合いが異なります。前者は危険な自然現象で、後者は、社会的脆弱性に起因して人命や財産が失われて被害が生じる社会現象を指します。Geo-hazard(地質災害)やbio-hazard(疫病の蔓延など生物災害)のように接頭語を付けることもあります。無人島でがけ崩れが起きても、単なる地質現象で、土砂災害とは言いません。たとえば、「東北地方太平洋沖地震」がhazardであり、「東日本大震災」がdisasterです。ところが、両者を混同して使われていることが多いようです。以下の文では、一応慣例に従いますが、本来は峻別が必要です。寺田寅彦(1935)は『災難雜考』で次のように述べています。
「地震の現象」と「地震による災害」とは区別して考えなければならない。現象のほうは人間の力でどうにもならなくても「災害」のほうは注意次第でどんなにでも軽減されうる可能性があるのである
 つまり、天災だからと諦めるのではなく、日頃から防災に力を入れれば、被害は軽減できると主張したのです。

 素因・誘因・拡大要因

喘息と地すべりのアナロジー災害の構造(高橋,1977)
 地すべり学分野では、昔から「素因」と「誘因」という言葉が使われてきました。モンモリロナイトなど粘土鉱物を多量に含む泥岩が分布しているなどの地質条件のところに、降雨が続いたり、融雪水がしみ込んだりすると地すべりを起こすというわけです。軟弱な地質が素因で、水の供給が誘因です。誘因が地震の場合もあります。小出(1955)は、地すべりを喘息のような慢性病に例えました。アレルギー体質が素因で、花粉・大気汚染などが誘因です。これに対して元気象庁長官だった高橋浩一郎(1977)は、「拡大要因」も付け加えました。喘息の例で言えば、普通なら鼻風邪で済むところ、過労や精神的不安などの要因が重なると、重症の発作を起こします。最近は都市化に伴って、拡大要因も大きな問題になっています。広島の土砂災害で見るように、マサ土という地質的悪条件のところに、大規模宅地造成を行ったために、災害を大きくしてしまいました。数十年前のように自然の状態のままだったら、あのような甚大な災害にはならなかったでしょう。もちろん、温暖化による極端気象のように、誘因もまた時代と共に変わってきています。

文献:

  1. 小出 博(1955), 日本の地辷り : その予知と対策. 東洋経済新報社, 259, 7pp.
  2. 高橋浩一郎(1977), 災害論 : 天災から人災へ. 東京堂出版, 261pp.
  3. 寺田寅彦(1935), 災難雜考. 中央公論, 1935(昭和10)年7月号, 寺田寅彦随筆集第五巻(岩波書店, 1948)


更新日:2015/05/30
更新日:2016/10/07