薩摩硫黄島口永良部島口之島中之島諏訪之瀬島悪石島宝島北方横当島硫黄鳥島

 鹿児島の海域火山

 「鹿児島の活火山」でお示ししたように、霧島からトカラ列島まで火山が直線状に並んでいます。ここでは海域の火山にスポットを当ててみましょう。霧島山韓国岳は標高1700m、高千穂峰1578m、桜島1117m、開聞岳924mとさまざまですが、基盤からの標高はいずれも約1000mです。海域の火山島は小さなものばかりですが、海底地形図を見ればわかるように、海底の麓から見れば、いずれも1000m級の火山で、陸上火山に引けを取りません。

 薩摩硫黄島

薩摩硫黄島昭和硫黄島(新硫黄島)
鬼界カルデラ壁産総研20万分の1日本火山図
鬼界カルデラ海底地形図(海上保安庁)
 薩摩硫黄島の硫黄岳(流紋岩)は約5000年前に海面上に出現した「鬼界カルデラ」の後カルデラ火山です。鬼界カルデラは新旧二重カルデラからなり、新期カルデラを形成した7300年前のアカホヤ噴火は、日本で一番新しいカルデラ噴火です。これにより南九州の縄文文化が一時途絶えました。薩摩硫黄島の矢筈岳や竹島は鬼界カルデラの外輪山に当たります。硫黄島港では垂直に切り立った見事なカルデラ壁が見られます。約3000年前には主に稲村岳(玄武岩)が活動しています。その後硫黄岳は崩壊したり溶岩を流したりしましたが、約500年前には収まり、昭和まで硫黄の採掘が行われていました。1934~1935年には、北東2kmの沖合で海底火山活動があり、溶岩ドームが形成されました。昭和硫黄島(新硫黄島)です。1988年以降、小規模な活動が続いています。また、周辺海域では至るところに温泉が湧出しており、海水が茶褐色からエメラルドグリーンまでさまざまな色に変色しています(「硫黄島の赤い海」「鹿児島のジオパーク」参照)。

 口永良部島

新岳(2014/8/6 海上保安庁)海底地形図(海上保安庁)産総研20万分の1日本火山図
 口之永良島火山がいつ頃誕生したのか不明ですが、少なくとも50万年前には海上に姿を現していたらしいとのことです(下司・小林,2007)。島の北西部がその古い火山体です。完新世(約10000年前以降)に入ってからの活動は、もっぱら島の東部で起こっています。古岳・鉢窪・新岳がそれです。記録に残る最も古い噴火は新岳の1841年噴火です。この噴火で、当時の中心地元村が被災し、現在の本村に移転したのだそうです。昭和になっても時々ごく小規模な噴火を繰り返してきましたが、2014年と2015年に爆発的な噴火があり、全島避難の事態になりました。これについては「2015年口永良部島噴火災害」をご覧ください。なお、岩石学的にはほとんど全て輝石安山岩です。

 口之島

口之島海底地形図(海上保安庁)産総研20万分の1日本火山図
 口之島も複合火山体です。南東端にある約50万年前に形成されたタナギ山や北端にある約30万年前に形成されたフリイ岳などの古期火山体の上に角閃石安山岩~デイサイト質の溶岩ドームがいくつも重なっています。約4万年前、ウエウラ火山が大勝火砕流を噴出し大勝カルデラを形成しました。その後、横岳・南横岳・北横岳などのドーム群が形成されます。7,900年前頃、これらが馬蹄形崩壊し、崩壊地の中に前岳火山が生長しました。現在の最高峰です。この前岳とタナギ山との間に12~13世紀頃、燃岳という溶岩ドームが誕生します。現在でも弱い噴気が認められています。

 中之島

中之島御岳海底地形図(海上保安庁)産総研20万分の1日本火山図
 中之島も口之島と同じく、約50万年前の古い火山体の上に新しい火山御岳火山が生長しました。いずれも輝石安山岩の成層火山です。御岳火山の活動年代は不明ですが、新鮮な溶岩地形が残っていること、7300年前のアカホヤを覆っていることなどから、それより新しいことは確かです。歴史時代の記録としては、桜島大正噴火に連動するかのように1914年に小規模な水蒸気噴火をしたことが知られています。現在でも噴気が認められます。

 諏訪之瀬島

諏訪之瀬島御岳海底地形図(海上保安庁)産総研20万分の1日本火山図
 諏訪之瀬島は現在トカラ列島でもっとも活動的な火山です。北方の富立(とんだち)岳、中央部の御岳、南方の根上岳と3つの火山体が連結した形をしています。富立岳火山と根上岳火山は約10万年前~約6万年前とやや古く、火山地形もやや開析されていますが、御岳火山がもっとも新しく現在も活動中です。御岳火山体では東に開いた馬蹄型カルデラ(作地カルデラ)が存在し、その外側西南方に旧火口が、カルデラ内には新火口(御岳)があります。
 最古の噴火記録は1813年(文化10年)の文化噴火です。旧火口が活動して、文化溶岩を流出しました。スコリアが流動したとの説もあるようです。当時数百人いたと言われる住民が一時南端の海岸洞窟に隠れた後、悪石島や中之島などに避難、無人島になりました。今でも江戸時代のお墓や祠が残ってます。その後70年、活動も静穏になったので、住民たちが帰島した頃、1884年(明治17年)、作地カルデラ内で新火口が活動して御岳火砕丘を形成、明治溶岩を流出しました。岩石は安山岩質ですが、玄武岩溶岩に似た縄状~ロープ状の表面構造を持っているそうです。ここ数十年、ストロンボリ式~ブルカノ式噴火を繰り返しており、時に沖縄便の航空機に影響を与えています。

 悪石島

悪石島(海上保安庁)海底地形図(海上保安庁)産総研20万分の1日本火山図
 悪石島は後期更新世の複合火山で、南東から北西に噴出中心が移動しています。もっとも新しい噴出物は、北側山麓の平坦面を構成する大峰溶岩ですが、3万年前のAT火山灰に覆われていますので、数万年前に活動したものと思われます。なお、悪石島の岩石は主に輝石安山岩ですが、この大峰溶岩だけ角閃石デイサイト質です。

 宝島北方

2013年に発見された海底カルデラ地形(海上保安庁)
 海上保安庁では2013年にマルチビーム音響測深機でトカラ列島の海底地形を調査したところ、宝島の北方約25kmのところに、直径1.6kmの小型カルデラ地形を発見しました。最浅水深282mの中央火口丘を有し、カルデラ内外に10個ほどの火口を伴っているそうです。なお、海水の変色など火山活動の兆候は認められておらず、活動状況は不明です。

 横当島

横当島(海上保安庁)海底地形図(海上保安庁)産総研20万分の1日本火山図
 横当島および上ノ根島の周辺には、海底地形図で分かるように、カルデラ地形が認められますから、これらの島は後カルデラ火山と考えられます。横当島は東峰火山と西峰火山が接合しており、とくに東峰は明瞭な山頂火口を持つ成層火山です。噴火年代を示すデータはありませんが、地形の新しさから判断して、活火山に認定される最有力候補だそうです(小林,2016)。なお、岩石は全て輝石安山岩です。

 硫黄鳥島

硫黄鳥島(海上保安庁)海底地形図(海上保安庁)産総研20万分の1日本火山図
 硫黄鳥島は沖縄県ですが、上記の諸火山島の延長線上にありますから、取り上げることにします。硫黄鳥島は、主として北側の硫黄岳、南側のグスク火山からなり、南東端に前岳と呼ばれる古い火山体の残骸がくっついています。硫黄岳は全体としては溶岩ドームの形態をしており、かつては硫黄を産出していましたが、1967年の噴火で無人島となりました。従来、硫黄岳のほうが新しい火山体と考えられてきましたが、古期グスク火山のテフラに覆われているため、地質的にはグスク火山のほうが新しいそうです(小林,2016)。

文献
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参考サイト:



初出日:2018/01/26
更新日:2020/03/28