口永良部島新岳2015年噴火

産総研火山地質図と2015年火砕流流下方向(矢印)産総研口永良部島火山地質図

 口永良部島火山形成史

 活動開始期の詳細は不明ですが、50万年前頃には海上に姿を現していたようです。それが、後境(ごきょう)火山や城ヶ鼻火山です。現在、避難所に指定されている番屋ヶ峰(ばんやがみね)火山は約20万年前以前に形成されたと考えられています。こうした古期火山の形成後、高堂森(たかどうもり)・カシ峯・野池・鉢窪・古岳(ふるだけ)新岳(しんだけ)の火山体が次々に形成されました。最近1万年間では、主に古岳・鉢窪・新岳が溶岩流出と爆発的噴火とを繰り返しています。19世紀以降の噴火はすべて新岳山頂火口および周辺からの爆発的噴火です。今回の噴火は1980年以来の噴火です(以上、産総研火山地質図による)。

 2014年噴火

 2015年全島避難につながった噴火の前に2014年にも小規模な噴火がありました。2014年8月3日12時52分頃、34年ぶりに噴火し、小規模な火砕流も発生しました。島民は直ちに古期火山体である番屋ヶ峰に避難します。気象庁は噴火警報レベルを3に引き上げました。折から台風が接近中であったため、一部島民は台風による孤立を恐れて、自主的に島外避難を行いました。こうした経験が翌年の大噴火に生かされたのだそうです。

 2015年の活動

5月29日の噴火(気象庁)火砕流堆積物などの分布(産総研)
 2015年5月29日9時59分爆発的噴火が発生し、黒灰色の噴煙が9,000m以上に上がりました。この噴火に伴い火砕流が発生、新岳の2km北西側の向江浜海岸にまで達しました(右図参照)。気象庁では10時7分噴火警戒レベル(避難)を5に引き上げました。10時20分、屋久町は全員避難を指示、当時の滞在者は島民118名、旅行者等19名、計137名でした。その人達は町営フェリーや海上保安庁の巡視船などによって、全員屋久町に避難しました。
 実は、年が明けてから、二酸化硫黄放出量の増加、山体膨張、地震数の増加、高温化を示す火映現象が段階的に進行していました。5月23日にはM2.3の有感地震も発生します。この時点で、京大火山活動研究センターの井口センター長は警報レベルを5へ上げるように助言したそうですが、受け入れられず29日を迎えたのだそうです(井口,2016)。

 全島避難

 屋久町では、29日当日、次の3個所の避難所を開設しました。  その他の人は、屋久島の親戚や知人宅あるいはホテル等に避難しました。
 火山災害は避難が長期化するのが通例ですから、屋久町は仮設住宅の建設や見なし仮設などの施策を進めます。11月14日現在85世帯136名が避難していましたが、内訳は次の通りです。  この間、口永良部島では大雨の影響もあり、道路決壊や停電などがあり、その修復のための作業員の一時入島、家畜の搬出、帰宅準備のための一時帰島などさまざまな動きがありました。同時に、避難先では医師や保健師による健康相談など手厚いケアが行われました。これは、東日本大震災や熊本地震のように避難先も被災地で行政も麻痺していたのと異なり、避難先がまったく正常に機能している屋久島であったことが、大いに幸いしています。

 帰島と復興

 屋久町では12月25日午前10時、前田・向江浜・寝待地区を除く地区について、避難指示を解除し、島民は帰島しつつあります。次の緊急事態に備えて、番屋ヶ峰の旧NTT中継所に施設の完備した避難所も落成しました。気象庁も2016年6月14日18時00分、火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)に切り替えました。今後は主たる産業である農業や観光業の復興が課題となります。
 2016年6月25日、前田・向江浜等も含めて、全島の避難指示が解除されました。

文献:

  1. 下司信夫・小林哲夫(2007), 口永良部島火山地質図, 産総研地質調査総合センター, 1葉.
  2. 下司信夫(2016), 口永良部島2014 年・2015 年噴火の特徴:地質調査によって明らかにされた過去の噴火特性との比較. 地質と調査, No.145, p.18-25.
  3. 佐藤宏之(2016), 歴史災害を防災に活かす―口永良部島新岳の噴火を事例に―. 「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書, 鹿児島大学地域防災教育研究センター, p.119-126.
  4. 福満博隆・長岡良治・川畑和也(2016), 口永良部島新岳噴火避難者への運動及びレクリエーション活動による健康づくり支援の効果についての研究. 「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書, 鹿児島大学地域防災教育研究センター, p.203-209.
  5. 岩船昌起(2016), 口永良部島新岳噴火災害の応急対策・復旧策にかかわる実践的総合研究. 「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書, 鹿児島大学地域防災教育研究センター, p.237-243.
  6. 丸谷美紀・兒玉慎平・日隈利香・森 隆子・稲留直子(2016), 口永良部島新岳噴火の被災者支援における保健師の役割. 「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書, 鹿児島大学地域防災教育研究センター, p.263-270.
  7. 井口正人(2016), 口永良部島2014年および2015年噴火に至る火山活動過程と意思決定. 西部地区自然災害資料センターニュース, No.54, p.13-17.
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参考サイト:



初出日:2016/06/26
更新日:2018/11/17