甑島の地質

 鹿児島県本土は広義の四万十帯(白亜紀および古第三紀付加体)を基盤としていますが、県北部長島町の獅子島・諸浦島・長島の一部および薩摩川内市甑島に白亜紀~古第三紀の正常堆積物が局部的に分布します。これらと同じ地層は熊本県の天草や御所浦島にも分布しています。恐らく広義の四万十層群(白亜紀付加体や古第三紀付加体)が沈み込んでいた頃の前弧海盆堆積物なのでしょう。地体構造上の位置づけについては「鹿児島の地質概説」を参照してください。獅子島の地質については「化石の島獅子島」で述べましたので、ここでは甑島の地質を見てみましょう。
天草~甑島地域の地質構造(井上ほか,1979)シームレス地質図ver.2(クリックで地質解説ポップアップ)
変成岩類(双子島)中甑層(中甑島)中甑層(甑大明神)
甑島層序総括表(井上ほか,1982)姫浦層群(中甑島弁慶鼻)姫浦層群(下甑島熊ヶ瀬鼻)姫浦層群(下甑島)
 上甑島の北東沖合にある双子島や沖の島など無人島には、恐らく肥後変成岩類に対比される角閃岩や片麻状石英閃緑岩が露出し、中新世の石英閃緑岩に貫入されているそうです。
 下甑島・中甑島および上甑島の一部には後期白亜紀の姫浦層群が広く分布します。砂岩・シルト岩・泥岩などからなりますが、岩相により、井上ほか(1982)はA層~G層に、利光ほか(2004)はU-Ⅰ~U-Ⅳ層に区分しています。化石も多産し、トリゴニア・イノセラムス・ウミユリなどが見つかります。自生の化石カキ礁もありますし、中甑島では恐竜化石も発見されました。生痕化石もありますし、斜交葉理が発達している部分もありますから、全体としてみると、浅海~潮間帯~汽水の環境だったのでしょう。
 上甑島と中甑島北部には古第三系も分布しています。井上ほか(1979)は古第三系を上甑島層群と命名し、下位より中甑層・小島層・瀬上層に分けました。それぞれ天草の赤崎層・福連木層・志岐山層に対比されます(高井ほか,1997)。中甑層は薄い基底礫岩層を持つ、砂岩・泥岩・凝灰岩からなり、赤紫色泥岩を夾むのが特徴です。この赤色の成因について、塩基性凝灰岩説、陸成層説、変質説などがありました。赤色の正体は赤鉄鉱だそうです(田代・中川,1996)。中甑層は主として河成と言われています。その上にデルタ成の小島層が載り、さらに海成の瀬上層が載ります。なお、下甑島南西部に、局部的ですが、古第三系が白亜紀層を不整合に覆うところもあります。なお、天草の古第三系からは良質な無煙炭が産出していました。
 下甑島主部には、15Maの花崗岩が広く分布します。鹿児島県に分布する紫尾山花崗岩・高隈山花崗岩・大隅花崗岩・屋久島花崗岩など、いわゆる西南日本外帯花崗岩と同じ年代ですが、臼杵―八代構造線を中央構造線の延長と考えると、ここは内帯に当たります。やはり、斎藤・宮崎(2016)が言うように、九州には中央構造線は存在しないのでしょうか。ナウマンの地質構造区分から、そろそろ脱却しなければならないのかも知れません。恐らく同時代と思われる岩脈群が褶曲軸NE-SWと平行な方向と直交する方向に無数に貫入しています。
 なお、上甑島里の遠見山は典型的な陸繋島で、里地区は陸繋砂州tomboloに当たります。小規模なものは指宿市の知林ヶ島でも見ることができます。

文献

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参考サイト:



初出日:2018/02/03
更新日:2020/11/27