鹿児島市国土強靱化地域計画

 国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)

国土強靱化の基本目標

1.人命の保護が最大限図られること

2.国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を
  受けず維持されること

3.国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化

4.迅速な復旧復興

国土強靱化の基本目標(内閣官房)PDCAサイクル(内閣官房)
 2011年の東日本大震災を受け、「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」が2013年成立し、また「国土強靱化政策大綱」も示されました。従来の防災は、インフラ整備と発災後の緊急対応に主眼が置かれていましたが、東日本大震災では「未曽有」「想定外」という言葉が使われ、抜本的な発想転換が求められました。「国土強靱化」という言葉自体にはハード万能・公共工事優先の臭いもしますが、右の基本目標に掲げているように、とにかく人命を守り、また経済社会への被害が致命的なものにならず迅速に回復する、「強さとしなやかさ」を備えた国土、経済社会システムを平時から構築するという発想になったようで、一歩前進と評価できると思います。翌2014年には、「国土強靱化基本計画」も閣議決定されました。右のフローチャートに示すように、リスク評価→脆弱性評価→対策実施→結果評価のPDCAサイクルを回して改善していこうというものです。この基本計画は2018年北海道胆振東部地震や台風・豪雨等の相次ぐ災害を受けて、2018年12月には見直しも行われています。今後は極端気象など新しい事態も考慮されていくでしょう。

 鹿児島市国土強靱化地域計画

 上記基本法において、地方自治体は国土強靱化地域計画を定めることができるとしています。鹿児島市ではこれに応じて、2019年鹿児島市国土強靱化地域計画を策定しました。起きてはならない最悪の事態を想定するのですから、漏れのないようにするのは当然ですので、どの地方の地域計画も総花的で似たり寄ったりになるのはやむを得ません。鹿児島市独自のところを紹介します。

災害想定

•風水害
 1993年の鹿児島豪雨災害(いわゆる8・6水害から同年9月の台風13号災害までの一連の災害)を既往最大の風水害として、同規模の災害を想定災害としています。しかし、地球温暖化に伴い極端気象も頻発していますから、既往最大だけで良いかどうか再考の余地がありそうです。実際、いわゆる8・6水害では鹿児島市の日雨量は259mmで当時観測史上第1位と言われましたが、2019年7月3日の鹿児島市の日雨量は375mmで、大幅に上回っています。
•火山災害
 1914年の桜島大正噴火を災害想定と位置づけています。桜島大正噴火は山腹の割れ目噴火でしたが、割れ目が海岸付近に開口した場合には、マグマ水蒸気爆発をすることもありますし、それが袴腰付近なら、市街地の直近です。安永噴火のように海底噴火もあり得ます。現在、南岳の山頂噴火が続いていますので、火道が開いていますから、そのまま山頂噴火になるかも知れません。最悪のシナリオとしては山体崩壊だってあり得ます。
•地震災害
 鹿児島湾直下の地震(最大震度7)を災害想定としています。
•津波災害
 桜島安永噴火時に海底噴火に伴って津波が発生しましたが(「火山噴火と津波」参照)、このような火山噴火に起因する津波を災害想定としています。

起きてはならない最悪の事態(リスクシナリオ)

1 直接死を最大限防ぐ
 1-1 建物・交通施設等の大規模倒壊等による多数の死傷者 の発生
 1-2 密集市街地や不特定多数が集まる施設における大規模火災による多数の死傷者の発生
 1-3 大規模津波等による多数の死者の発生
 1-4 異常気象等による広域かつ長期的な市街地等の浸水
 1-5 桜島の大規模な噴火・土砂災害等による多数の死傷者の発生
2 救助・救急、医療活 動等が迅速に行われる とともに被災者等の健 康・避難生活環境を確 実に確保する
 2-1 食料・飲料水等、生命に関わる物資供給の長期停止
 2-2 多数かつ長期にわたる孤立集落等の同時発生
 2-3 消防等の被災による救助・救急活動等の絶対的不足
 2-4 帰宅困難者への水・食料等の供給不足
 2-5 医療施設及び関係者の絶対的不足・被災、支援ルートの途絶、エネルギー供給の途絶による医療機能
    の麻痺
 2-6 疫病・感染症等の大規模発生、劣悪な避難生活環境等による被災者の健康状態の悪化
3 必要不可欠な行政機能は確保する
 3-1 市職員・施設等の被災による機能の大幅な低下
4 必要不可欠な情報通信機能・情報サービスは確保する
 4-1 電力供給停止等による情報通信の麻痺・長期停止
 4-2 情報の収集・伝達ができず、避難行動や救助・支援が遅れる事態
5 経済活動を機能不全に陥らせない
 5-1 経済活動が再開できないことによる企業の生産力低下
 5-2 石油備蓄基地・重要な産業施設の損壊、火災、爆発等
 5-3 物流機能等の大幅な低下
 5-4 食料等の安定供給の停滞
6 必要最低限の電気、ガス、上下水道等を確保するとともに、これらを早期に復旧させる
 6-1 電気、ガス等の長期間にわたる機能停止
 6-2 上下水道等の長期間にわたる機能停止
 6-3 地域交通ネットワークの長期間にわたる機能停止
7 制御不能な複合災害・二次災害を発生させない
 7-1 市街地での大規模火災の発生
 7-2 海上・臨海部の広域複合災害の発生
 7-3 沿線・沿道の建物倒壊による直接的な被害及び交通麻痺
 7-4 ダム等の損壊・機能不全による二次災害の発生
 7-5 有害物質の大規模拡散・流出
 7-6 農地・森林等の荒廃による被害の拡大
8 社会・経済が迅速かつ従前より強靭な姿で復興できる条件を整備する
 8-1 災害廃棄物処理の停滞により復旧・復興が大幅に遅れ る事態
 8-2 道路啓開等を担う人材等の不足により復旧・復興が大 幅に遅れる事態
 8-3 広域地盤沈下等による浸水被害の発生により復旧・復 興が大幅に遅れる事態
 8-4 地域コミュニティの崩壊、治安の悪化等により復旧・ 復興が大幅に遅れる事態
 右のような事態が想定されています。前述のように総花的になるのは仕方ありませんが、赤字の部分が鹿児島市独自です。活火山桜島と喜入の石油備蓄基地を抱えている実態を反映しています。喜入基地が爆発事故を起こしても、従業員はともかく、喜入町住民の直接死に結びつく事態は想定しにくいでしょうから、5の経済活動の項目に入れておくのは妥当と思いますが、桜島大規模噴火は、1の直接死だけでなく、他の全てに関わります。桜島大正噴火を見ても、火山活動そのものに起因する直接死はごく僅かだったようです。それ以上に、長期にわたって、社会生活の広範囲に甚大な影響を与えました。右表のような分類も一法でしょうが、別な網をかぶせ、縦糸横糸両方から総合的に考慮することも大切だと思います。当然、考慮しておられるとは思いますが…。

市地域計画の推進

 この強靱化地域計画は危機管理局で策定したのでしょうが、災害は、消防局・建設局・市民局・保健福祉局等々すべての部局に関わります。例えば、市民局が担当している町内会活動は、即、災害関連死の問題と密接に関わっています。それぞれの部局における日常業務や将来計画にぜひ防災の視点を入れていただきたいと思います。基本計画でも下図のように強靱化計画を他の諸計画の指針、つまり、アンブレラ(傘)と位置づけています。
アンブレラ計画(内閣官房)


文献:
  1. 出口光一郎(2017),東日本大震災からの復興に見る国土の強靭化について. 横幹, Vol.11, No.2, p.84-89.
  2. 五十嵐敬喜(2013),「国土強靭化」批判 : 公共事業のあるべき「未来モデル」とは. 岩波ブックレット, 63pp.
  3. 岩原廣彦・ 白木 渡・井面仁志・高橋亨輔・磯打千雅子(2015),地方都市再生の成功モデル街の防災力評価-地方創生と国土強靱化地域計画理念が融合した地方都市再生事例. 土木学会論文集F6(安全問題), Vol.71, No.2, p.I_117-I_124.
  4. 根津佳樹・神田佑亮・小池淳司・白水靖郎・藤井 聡(2013),西日本における国土強靱化インフラ整備による総合的マクロ効果予測研究. 土木学会論文集F4(建設マネジメント), Vol.69, No.4, p.I_57- I_68.
  5. 寺尾和彦(2017),国土強靭化の基本概念と国の施策─強くて,しなやかなニッポンへ─. 農村計画学会誌, Vol.36, No.3, p.398-401.
  6. (),. , Vol., No., p..
  7. (),. , Vol., No., p..
  8. (),. , Vol., No., p..

参考サイト:


初出日:2019/11/16
更新日:2019/11/19