2018年スンダ海峡津波2018年アナック・クラカタウ噴火と津波1883年クラカタウ噴火島原大変肥後迷惑桜島安永噴火と津波桜島海底噴火津波予測余談:出エジプト Exodus

 火山噴火と津波

 2018年スンダ海峡津波 Tsunami Selat Sunda 2018

インドネシア地質図(赤丸:Anak Krakatau)津波被災地(青色:BNPBによる)
SAR強度画像の比較アニメーション(国土地理院)旧クラカタウ島と現在(Wikipediaから引用)
 インドネシア気象気候地球物理庁(Agency for Meteorology, Climatology and Geophysics BMKG)によると、2018年12月22日(土)現地時間21:30、インドネシアのジャワ島西部のアニェールAnyerの付近で津波がありました。津波高は最大90cmだそうです。その後、5m以上との報道もあります。国家防災庁(National Agency for Disaster Management BNPB)では23日現在、死者が222人になったと発表しました。この津波は近くのクラカタウ火山の噴火と関連づけて考えられているようです。噴火後24分で津波が到達したとか。クラカタウでは6月以来活発な火山活動が続き、航空路火山灰情報センター(VAAC)によると、噴煙が火口から約16,000mにも達しているそうです。
 25日18時現在では死者429人、行方不明154人、けが人1,485人、被災家屋880棟になり、被災者は16,000人を超えているそうです。生存率が急激に下がる72時間を目前にして、現地では懸命の救助作業が行われています。ジャワ島側の被害が報じられていますが、スマトラ島側の被害があまり伝わってきません。27日現在では、死者430人、行方不明159人、負傷者1,495人、避難者21,000人超、被災家屋約920棟と報じられています。28日、国家防災庁は、津波被害を修正し、死者数426人、行方不明23人、負傷者7,202人、被災家屋1,296棟と発表しました。2019年12月22日、1周年現在の人的被害は、国家防災庁によると、死者少なくとも437人、行方不明者10人、負傷者約3万2千人とのことです。
 当初、津波の原因がよくわかりませんでしたが、エネルギー鉱物資源省地質局Badan Geologiは、この津波は地震ではなく、アナック・クラカタウ火山の噴火に伴う海底地すべりによって引き起こされたと発表しました。アナック・クラカタウは、かつてのクラカタウ島が1883年崩壊水没した跡に、1927年誕生したきわめて新しい火山島で、現在では海抜400m程度に成長しています。アナックanakは子供・息子の意です。何しろ近づけないので詳細はわかりませんが、そのうちに観測データなどが発表されることでしょう。25日、国土地理院から噴火前後の合成開口レーダー(SAR)解析データが発表されました。Anak Krakatauの南西半分が山体崩壊を起こしたことが明瞭にわかります。28日、火山地質災害減災センターCVGHMは、標高338mのAnak Krakatauが標高110mになり、1億5000万m3が失われたと発表しました。29日共同通信によると、今村東北大教授が現地調査を行い、遡上高が13mに達したところもあること、波と次の波との時間間隔が短いためスピードが上がり破壊力を増したこと、などを指摘したそうです。

 メディア報道ほか

 2018年アナック・クラカタウ噴火と津波

複雑な一連のハザード(Walter et al.,2019)
 1年経って研究論文も公表され出し、全体像が明らかになりつつあります。桜島にとっても参考となると思いますので、末尾に主な参考文献を挙げておきました。ここではWalter et al.(2019)によって一連のストーリーをご紹介します。
 前述のように6月以来活発な噴火活動があり、干渉合成開口レーダー(InSAR)や分光放射計Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer(MODIS)などにより衛星から観測が続けられていました。(a)数ヶ月前から山体の側方移動が認められましたので、地下ではデコルマdécollement(潜在すべり面)が形成されていたのでしょう。崩壊の2分前に地震が観測されます。(b)すべり面に沿って地すべりが発生し、1~2分の低周波信号が出ました。赤外線計器が津波発生前に崩壊を計測しています。火山体は崩壊し、津波が発生して沿岸部に被害を引き起こしました。(c)山体崩壊による除荷unloadingのため脱ガスが増加、崩壊後火山爆発postcollapse volcanic explosionsが発生しました。現在では急速な波浪浸食により新しい堆積物が失われつつあります。

 1883年クラカタウ噴火

1883年噴火のリトグラフ
(Wikipediaによる)
東アジア地域地震火山災害情報図(産総研)
1883年火砕流による津波シミュレーション(Maeno & Imamura, 2011 一部改変)
 クラカタウでは、1883年19世紀最大の火山災害がありました。火山噴火(VEI=6)の直接の犠牲者2,000人、火山噴火に伴う津波による犠牲者34,417人と伝えられています。右図のピンクに塗色した海岸線が津波被災海岸です。今回の被災地と比べるとより広範囲にわたっています。なお、1815年の同じくインドネシア・タンボラ火山の噴火(VEI=7)では、9万人とも12万人とも伝えられている犠牲者が出ましたが、火砕流や津波による犠牲者は1万人程度で大部分飢饉と疫病によるものでした。
 さて、その津波の原因ですが、諸説言われていました。Maeno & Imamura(2011)は、①火砕流の流入、②カルデラ崩壊、③マグマ水蒸気爆発の3ケースについて、数値シミュレーションを行った結果、火砕流が急激に海に突入したケースが、被害記録と一番良く合うと結論づけました。

 島原大変肥後迷惑

寛政津波の遡上高(都司・日野,1993)寛政津波の死者数(都司・日野,1993)
肥後国嶋原津波之絵図(熊大永青文庫蔵)
 わが国で最大の火山災害と言われているのは、寛政4年(1792)の島原大変肥後迷惑でしょう。雲仙岳噴火に伴う眉山大崩壊によって津波が発生し、熊本側で多くの犠牲者を出しました。眉山の山体崩壊については「 火山災害」をご覧ください。この眉山崩壊の原因に関しては、大正時代から火山爆発説・地震崩壊説など、いろいろありましたが、これに関しては参考文献をご覧ください。津波の状況については堀川(1987)や都司・日野(1993)らが、史料や記念碑・津波石等の実地踏査に基づき、詳細を明らかにしています。以下、都司・日野(1993)の研究成果を抜粋紹介します。
 1792年5月21日夕刻、島原城下を震央とするやや強い地震が発生、南西方にある溶岩円頂丘の眉山東斜面が山体崩壊して、城下市街地を埋めるとともに、流れ山は有明海にも流入、現在の九十九島(つくもじま)を形成しました。これにより島原の住民約7,000人が犠牲になりましたが、それだけにとどまらず、流れ山の流入に伴って引き起こされた津波によって、対岸の熊本側や天草で約5,200人の犠牲者を出しています。肥後迷惑と言われる所以です。同じ有明海でも当然のことながら島原の対岸部分が津波高も被害も大きくなっていますが、詳しく見ると、海底地形が遠浅で干潟の発達したところで、被害が小さく、大きな河川に沿ったところでは被害が比較的大きくなっています。浸水高も10~15m以上に達するところもあります。三角町大田尾では22.5mにも達しました。

 桜島安永噴火と津波

木下逸雲「桜島爆発絵図」(部分)(井村,1998)安永諸島(三国名勝図絵)
 桜島安永噴火は1779年(安永8年)11月8日に始まり、1782年1月18日に終息した一連の火山噴火ですが、井村(1998)は、史料解析の結果、次のような噴火活動史を編んでいます。11月8日夕刻から翌朝にかけて激しいプリニー式噴火をした後、9日には溶岩を流出し、溶岩流は9日~10日には海岸線にまで到達しています。12日には最初の島が形成され、以後1年間に9つの島が誕生しました。合体浸食の結果、現在は4島残っています(天保14年(1843)にまとめられた「三國名勝圖繪」には6島記されています)。
 1780年8月6日には海底噴火があり、津波が発生しています。以後、翌1781年4月11日まで5回の津波が記録されています。その4月11日には最大の海底噴火がありました。6回の津波記録のうち、1780年9月9日の津波について、『年代記』では、「初め燃出ると同時に浪あがること三丈許り、小池浜辺二丈許り白浜村の者共、相迦し可申処、間もなく静に相成るにより無其儀砂島大きく相成候」と書かれています。三丈ですから、約9mにも達する津波高でした。絵図は安永噴火の高免方面の様子ですが、津波を示しているのでしょうか。

 桜島海底噴火に伴う津波予測

鹿児島県津波想定(地域防災計画)津波シミュレーション(坂井ほか,2014)
桜島北方沖海底噴火津波シミュレーション
(鹿児島県地震等災害被害予測調査)
 桜島の噴火は、山頂噴火だけでなく、山腹の割れ目噴火が多いですから、今後も海底噴火がありえます。そこで、さまざまなシミュレーションも行われていますし、鹿児島県の地域防災計画にも桜島海底噴火に伴う津波のハザードマップが示されています。姶良カルデラから桜島へのマグマ火道が想定されている桜島北方で海底噴火が起こった場合、島内では2~数分で最大10mを超す津波が来ると予想されています。姶良市・霧島市方面でも数分後に数mの津波に襲われます。鹿児島湾奥部は洗面器状の閉ざされた海域ですから、反射波が繰り返し繰り返し襲ってくるという特性があります。要注意です。なお、鹿児島市内側も無縁ではありません。坂井ほか(2014)によると、若尊カルデラのような深い海域で噴火が発生すると、津波高は高くなるようです。

余談:出エジプト Exodus
サントリーニの火山活動(Dominey-Howes,2004)サントリーニ島(地質図はOneGeologyによる)
 旧約聖書によれば、モーセがユダヤの民を率いてエジプトを脱出するとき、火と雲の柱が導いてくれ、紅海(葦の海)では一行の前の海が割れて渡渉することができたそうです。追跡してきたエジプト軍は、その直後に閉じた海で溺死してしまったとか。この伝説をエーゲ海にあるサントリーニSantorini火山の爆発とそれに伴う津波の引き波と押し波で解釈するまことしやかな面白い説があります。もちろん、浅瀬説など異説もたくさんありますし、出エジプト自体についてもいろいろ議論があるようです。右図でStage 5が3.6kaのMinoan eruption、つまりミノア文明(クレタ文明)を滅ぼしたテラThera島(サントリーニ島)の火山噴火です。なお、出エジプトの時期については、紀元前15世紀半ばとする説と、紀元前13世紀とする説などあります。火山活動の時期と微妙です。
 蛇足ながら、このクレタ文明を崩壊させた火山活動に関連しては、有名なアトランティス大陸の海中水没伝説のモデルとも言われています。

文献:

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参考サイト:



初出日:2018/12/22
更新日:2021/03/08