お酒の分類鹿児島と焼酎醸造用水美味しい飲み方余談1:薩摩焼酎の起源余談2:薩摩焼酎の恩人余談3:鹿児島県人は酒が強い?PR:鹿大ブランドの焼酎

 鹿児島の焼酎

 お酒の分類

分類
醸造酒日本酒・ビール・ワイン
蒸留酒焼酎・ウイスキー・ブランデー・ウオッカ・ジン・ラム
混成酒リキュール・甘味果実酒・みりん・合成清酒
 お酒は酒税法によって細かく厳密に分類されていますが、ここでは日本酒造組合中央会による簡単な分類を紹介しておきます。焼酎はウイスキーなどと同様蒸留酒です。焼酎はさらに単式蒸留焼酎(旧焼酎乙類)と連続式蒸留焼酎(旧焼酎甲類)に大別されます。前者は「本格焼酎」と呼ばれ、鹿児島県で造られる焼酎のほとんどはこれです。用いる原料によって、米焼酎・麦焼酎・ソバ焼酎などと冠を付けますが、鹿児島県内では、薩南諸島以北は芋焼酎、奄美諸島は黒糖焼酎が主流です。甘藷については「シラス文化」をご覧ください。なお、沖縄の泡盛も単式蒸留ですが、黒麹を用いる点が焼酎と異なります。

 鹿児島と焼酎

地域ブランド商標鹿児島焼酎マップ(鹿児島県酒造組合)鹿児島焼酎の代表的銘柄(自治会館展示)
 それでは、なぜ鹿児島が焼酎王国になったのでしょうか。清酒(日本酒)はもろみが腐らないよう低温発酵させますので、寒冷期に仕込みを開始します。越後杜氏のように、雪国から冬の出稼ぎに伏見や灘に行くのが慣わしでした。鹿児島の温暖な気候では、もろみが腐敗してしまいます。焼酎は高温発酵(30度前後)なのです。それが第一の理由です。第二は、大昔からカライモ(甘藷)がシラス地帯に適した作物として作付けされていたことです。第三は、琉球を通じて蒸留法がシャムや中国から伝わる地理的位置にありました。最後に、焼酎醸造に適した美味しい水があったからでしょう。なお、薩摩焼酎はWTO認定の地域ブランドになっています。奄美黒糖焼酎は特許庁の地域団体商標です。

 醸造用水

 シラスとカライモについては「シラス文化」で述べましたので、焼酎成分の7~8割を占める水について考えてみましょう。
 酒造用水には、洗浄に使う水もありますが、仕込みに使う仕込水と、原酒から出荷用にアルコール濃度を調節するための割水が重要です。両者とも直接口に入るからです。とくに仕込水は、もろみの発酵と深く関わります。どの蔵元も名酒を造るための名水にこだわってきました。焼酎をお湯割りで飲む場合には、本当は蔵元の仕込水を使うほうが理想だそうです。清酒は酵母の増殖に必要なミネラルを含む硬水を使いますが、焼酎の場合、逆にミネラル分が焼酎の旨み成分と結合して旨みを少なくしてしまうので、軟水が使われます。鹿児島は火山性土壌で軟水が多いのです。なお、黒糖焼酎や泡盛の造られる奄美群島~沖縄は琉球石灰岩地帯ですから、硬水が使われています。ちなみに灘の生一本で有名な六甲の宮水はドイツ硬度で8°dH、アメリカ硬度で143mg/Lの中硬水です。硬度については「鹿児島のミネラルウォーター」をご参照ください。
地域Ca(ppm)Mg(ppm)Fe(ppm)SiO2(ppm)
宮崎県西南部15.14.20.04655.8
沖縄76.012.30.003 
清酒全国平均29.06.80.006 
宮水37.05.60.002 
醸造用水の化学成分(工藤ほか,1981;西谷・新里,1975による)
 さて、醸造用水の化学成分ですが、水質検査表を公開している蔵元でも、有害物質が入っていないという保健所等の証明書程度ばかりで、なかなか全体のデータが入手できません。表に示すように、沖縄は琉球石灰岩地帯ですから、Caが飛び抜けて多いのはわかります。宮崎県西南部はシラス地帯ですので、シリカに富んでいますが、他地域のデータが入手できませんでした。なお、鉄分は、酒の色や味の仕上がりを損なうので、日本酒の醸造では嫌われます。一般的に日本の水の鉄分含有量はだいたい0.002ppm程度だそうですが、シラス地帯はその点でも日本酒醸造には向いていません。
 以下の地図は鹿児島県酒造組合加盟の蔵元の位置図です。本社位置や工場位置が多く、必ずしも取水地ではないことにご留意ください。したがって、この図から地質との関係を論ずるのは無理があるでしょう。しかし、日本酒の銘酒は花崗岩地帯に多いのに、鹿児島では花崗岩地帯に蔵元がないのが目に付きます。単に辺鄙なところというだけかも知れませんが。
凡 例


 芋焼酎

 黒糖焼酎


マーカーをクリックすると、酒造メーカーの名称が表示されます。ホームページのURLも入れてありますが、ホームページのない会社もあります。


地質図は産総研シームレス地質図ver.2です。任意の点をクリックすると、当該地点の地質解説がポップアップします。

 美味しい飲み方

黒ぢょか
 鹿児島県内で販売されている焼酎は25度がほとんどです。同じ薩摩藩でも、宮崎県は20度が多いようです。これを生(ストレート)で飲む人はあまりいないでしょう。お湯割りかオンザロックが普通です。本来は「前割」といって、焼酎6:水4、もしくは焼酎5:水5ぐらいの割合で、あらかじめ割水をしておくのが正式だそうです。焼酎と水がなじむため、まろやかな味になります。これを黒ぢょかで燗をするのが通です。ただし、炭火で静かに暖めるために作られた器ですから、ガスの強火は禁物です。
 しかし、せわしない現代、普通はその場でお湯で割ります。この時、70度くらいのお湯を先にグラスに注ぎ、後から焼酎をソーッと注ぎます。これで自然な対流が起き、まろやかな味が楽しめます。水割りの場合はこの逆で、水が後です。これで対流が起きます。
 なお、割水には、上述のように、蔵元の仕込水を用いるのが理想ですが、硬水ではなく軟水のミネラルウオーターを使用するのがベターです。カルキの多い水道水は不可です。お湯の割り方で25度の焼酎を6:4に割ると、アルコール分がちょうど清酒と同じ15度程度になります。

郡山八幡神社社殿(国指定有形文化財)棟木札
余談1:薩摩焼酎の起源
 伊佐市の郡山八幡神社は国指定の有形文化財です。一説には1194年(建久5年)建立と言われていますが、1507年(永正4年)の墨書銘が残っていますから、少なくとも室町時代には既にあったことは確かです。いずれにせよ大変古い創建です。1954年(昭和29年)に国の手により解体修理されたのですが、その時に、下記のような大工の落書が書かれた棟木札(県指定有形文化財)が発見されています(写真は鹿児島県文化財課HPより引用)
永禄二歳八月十一日 作次郎・靏田助太郎
其時座主ハ大キナこすてをちやりて一度も焼酎ヲ不被下候 何共めいわくな事哉
 「こす」とは、「けち」という意味だそうです。永禄2年は1559年ですから、少なくとも16世紀頃から薩摩人は焼酎を好んで呑んでいたことがわかります。それで焼酎神社とも言われています。なお、甘藷が薩摩に伝わったのは、それから100年以上後のことですから、ここで言う焼酎は、芋焼酎ではなく雑穀か米の焼酎だったのでしょう。
余談2:薩摩焼酎の恩人
蟹江松雄先生像(鹿大)鹿大焼酎学講座研究棟
 元鹿大学長の故蟹江松雄先生は、醸造学がご専門でした。臭みの強い芋焼酎から悪臭を取り除く研究をされ、今日の焼酎ブームを招いた恩人です。たとえば、蟹江・松村(1969)は、 甘藷を洗滌後丸のまま60~65℃の温水に1時間程度浸漬した後、浸漬水を捨て蒸煮した甘藷を用いるといった、簡便な脱臭法を提案しました。もっとも、あの強烈な臭いこそ本物の薩摩焼酎であって、蟹江は薩摩焼酎をダメにした男だという人もいます。
 なお、現在鹿児島大学には焼酎・発酵学教育研究センターが設けられています。
余談3:鹿児島県人は酒が強い?
各地方ごとのALDH2*1遺伝子型頻度と飲酒量(原田,2001)
 アルコールをアセトアルデヒドに分解する酵素ADH(アルコール脱水素酵素)は、通説に反して日本人は欧米人より高いのだそうですが、そのアセトアルデヒドを酢酸に分解するのがALDH(アルデヒド脱水素酵素)です。これにはALDH1型とALDH2型とあり、主としてALDH2型が分解に深く関わります。このALDH2型はさらに活性型(A)と不活性型(B)に分けられます。DNAの2本鎖のうち、一方がAで他方がBです。つまり、AA遺伝子型は酒に強く、BB遺伝子型は酒に弱いのです。AB型はその中間で飲める程度です。ところで、原田(1988)によれば、縄文人はAAタイプで弥生人はBBタイプ、現代人は中間型のABタイプだそうです。一方、九州と東北の人は遺伝的に酒に強いことが分かってきました。つまり、鹿児島県人には縄文人タイプの人が多く、そのため酒豪が多いのでしょう(以上、鹿児島県本格焼酎技術研究会,2004による)。
 右図は原田(2001)の図です。幕藩体制崩壊後は藩を超えて移動が自由になったので、県別ではなく地方別にしたとのことですが、ALDH2*1遺伝子型頻度は、県別では第1位秋田県、第2位が鹿児島県と岩手県です。

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進取の氣風(38度)天翔宙(篤姫酵母使用)天翔宙(希望の空)きばいやんせ春秋謳歌
(36度のきばいやんせ)
北辰蔵だより10
薩摩熱徒
(篤姫酵母使用)
明治維新150年
鹿大・山大コラボ

 お問い合わせ先:鹿児島大学インフォメーションセンター


文献:

  1. 原田勝二(1993), 縄文人と酒―下戸は存在したかを推理する―. 日本醸造協会誌, Vol.88, No.12, p.938-942.
  2. 原田勝二(1997), アルコール代謝の遺伝的個人差. 生物物理化学, Vol.41, No.3, p.111-116.
  3. 原田勝二(1999), 飲酒の遺伝生態学 (特集 飲酒と遺伝) . 遺伝, Vol.53, No.10, p.57-61.
  4. 原田勝二(1999), 飲酒行動と遺伝子 (特集 飲酒の行動医学) . 公衆衛生, Vol.63, No.4, p.234-237.
  5. 原田勝二(2001), 飲酒様態に関与する遺伝子情報. 日本醸造協会誌, Vol.96, No.4, p.210-220.
  6. 鹿児島県本格焼酎技術研究会(2000), 鹿児島の本格焼酎. かごしま文庫(春苑堂出版), 228pp.
  7. 鹿児島県本格焼酎技術研究会(2004), 鹿児島の本格焼酎―鹿児島の文化とロマンに触れる. 醸界タイムス社, 232pp.
  8. 神戸健輔(1942), 鹿兒島縣に於ける甘藷燒酎製造法. 日本釀造協會雜誌, Vol.37, No.8, p.671-679.
  9. 蟹江松雄・松村悦男(1969), 甘藷皮層部に由来する異臭を伴わない甘藷焼酎製造について. 日本釀造協會雜誌, Vol.64, No.12, p.1089-1091.
  10. 蟹江松雄・岡嵜信一(1986), 薩摩における焼酎造り五百年の歩み. 鹿児島:蟹江松雄, 228pp.
  11. 嘉納成三(1953), 清酒釀造用水に関する研究 (第1報)清酒醸造用水の化学的組成. 日本農芸化学会誌, Vol.27, No.12, p.881-887.
  12. 嘉納成三(1961), 清酒醸造用水に関する研究(第2報) 清酒醸造用水の化学的組成及び群別(続報) . 日本農芸化学会誌, Vol.35, No.13, p.1304-1308.
  13. 嘉納成三(1961), 清酒醸造用水に関する研究(第3報) 清酒醸造用水の成分間の関係. 日本農芸化学会誌, Vol.35, No.13, p.1309-1311.
  14. 古在豊樹・久保田智惠利・北宅善昭(1979), サツマイモ技術と21世紀の食糧, エネルギー・資源および環境問題. 農業気象, Vol.34, No.2, p.105-114.
  15. 工藤哲三・日高照利・浜川 悟・中山貫三・日高輝夫・金丸一平(1981), 宮崎県の醸造用水の水質. 日本釀造協會雜誌, Vol.76, No.8, p.545-548.
  16. 西谷尚道・新里朝雄(1975), 沖縄県における醸造用水の調査結果について. 日本釀造協會雜誌, Vol.70, No.10, p.753-755.
  17. 野白喜久雄(1960), 泡盛と焼酎―その比較醸造学的考察. 日本釀造協會雜誌 , Vol.55, No.9, p.562-568.
  18. 佐治恒二(1946), 甘藷焼酎談議. 日本釀造協會雜誌, Vol.41, No.3-6, p.57-65.
  19. (), . , Vol., No., p..
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参考サイト:



初出日:2016/11/20
更新日:2020/11/28