鹿児島のミネラルウォーター

 はじめに

 日本列島はアジアモンスーン地帯に位置しているため水には恵まれています。世界の平均年降水量が807mmに対して、日本は1,718mmもあるのです(1971~2000年の平均値)。したがって、地下水も豊富です。しかも狭長で急峻な地形をしていますから、地下水の地層滞留時間が短くミネラル分をあまり含まない軟水になります。その上、火山国のため火山性土壌が多く、やはり軟水になります。
 それに対して、ヨーロッパは地質学的には安定大陸cratonですから、広い平野を流れてくるので、地下水の地層滞留時間が長いため、ミネラル分を多く含み、硬水になります。しかも石灰岩地帯が多いので、ますます硬水になります。軟水になれた日本人の中にはお腹をこわす人もいますので、要注意です。
地層名特徴
堆積岩地域カルシウムもマグネシウムも比較的多めに入っている
石灰岩地域特にカルシウムが豊富
玄武岩地域カルシウムに対してマグネシウム比率が高め
花崗岩地域カルシウムに対してマグネシウム比率が低め
 それでは、硬水・軟水はどのようにして決めているのでしょうか。WHO基準では、炭酸カルシウム(CaCO3)換算で120mg/Lを境として、それよりも硬度が高い水を「硬水」、それよりも低い水を「軟水」と定義しています。計算式は次のとおりです。
硬度=(カルシウム量 mg/L×2.5)+(マグネシウム量 mg/L×4.1)
 既に地質の話が出てきましたが、「ジオ多様性」でも述べたように、地下水と地質は密接な関係があります。藤田紘一郎(2014)によれば、上表に示すような傾向があるとのことです。

 ミネラルウォーター

ナチュラルウォーター特定水源から採水された地下水を原水として、沈殿・濾過・加熱殺菌以外の化学的・物理的な処理を行わないもの
ナチュラルミネラルウォーター上記のうち地層中に含まれるミネラル(無機塩類)が溶け込んだ地下水を原水としたもの
ミネラルウォーター上記のうち、品質を安定させる事などを目的として、複数の原水を混ぜ合わせたり、ばっ気・ミネラル分の調整・紫外線やオゾンによる殺菌・除菌などの処理を行っているもの
ボトルドウォーター(飲用水)食品製造用水の基準に適合している飲用水
 ミネラルウォーターとは、わが国では、地下水等のうち、飲用適(水道法第4条に適合する水)を容器に詰めたもので、農水省告示に規定する炭酸飲料を除いたもの、ということになっています。それを細分したのが右表です。
 なお、日本では安心安全のために殺菌することが前提になっていますが、ヨーロッパでは殺菌が禁止され、その代わり採水地周辺の厳しい環境保護が義務付けられているのだそうです。したがって、ヨーロッパの基準では、日本のミネラルウォーターはナチュラルミネラルウォーターにはならないことになります。

 鹿児島のミネラルウォーター

ミネラルウォーター生産量ランキング(2015年)鹿児島空港に設置された水の自販機シラス台地による濾過
 日本ミネラルウォター協会によれば、2015年のミネラルウォーター生産量は、1位山梨県、2位静岡県、3位鳥取県、4位兵庫県に次いで鹿児島県は第5位です。言うまでもなく山梨・静岡両県は富士山の、鳥取県は大山の地下水を使っています。火山の恵みです。兵庫県は六甲花崗岩の水です。
 鹿児島県は温泉が多いようです。たとえば、自治体が水商売を始めたとして有名になった旧牧園町(現霧島市)の関平鉱泉があります。もっともこれは、お年寄りが谷底まで汲みに行くのが大変なので住民福祉のために始めたのがきっかけだったそうですが。通販売上日本一の財宝温泉も垂水市の温泉です。もちろん、霧島山麓の湧水やシラス台地下からの湧水も使われています。シラス台地で濾過したから美味しいと地質断面図らしき図を添えてPRしているものもあります。
 鹿児島はシラス地帯ですから、恐らくシリカの量は他の産地に比して多いだろうと思いますが、あまりデータが公表されていません。正確な採水地や取水深度は、企業秘密なのか公表されていませんので、以下の地図は工場の位置を示すものが多く、中にはこの辺といった大雑把な代物もあります。地質との相関を議論するには不十分です。
凡 例

 硬水
 軟水(中性)
 軟水(アルカリ性)
 軟水(PH不明)


マーカーをクリックすると、名称・硬度・PHが表示されます。


地質図は産総研シームレス地質図ver.2です。任意の点をクリックすると、当該地点の地質解説がポップアップします。

 鹿児島の湧水

丸池湧水清水の湧水甲突池
市町村別Ca/Mg比平均値(本村,2014)
 鹿児島は降水量の多いところですし、火山もたくさんありますから、湧水も各地に存在します。環境省では1985年(当時は環境庁)と2006年の2度、名水百選を選定しました。その中に鹿児島県で百選入りしたのは次の通りです。
★ 昭和の名水百選
 屋久島宮之浦岳流水(屋久島町)
 霧島山麓丸池湧水(湧水町)
 清水の湧水(南九州市)
★ 平成の名水百選
 甲突池(鹿児島市)
 唐船峡京田湧水(指宿市)
 普現堂湧水源(志布志市)
 ジッキョヌホー(知名町)
 一方、本村(2014)は、水環境保全の立場から、鹿児島県内の湧水を精力的に調べました。関心が上記の点にありましたから、pH、EC(電気伝導度)、NO3-N(硝酸性窒素)、COD(化学的酸素要求量)等々の値は報告していますが、全分析が載っていませんので、シリカ量などはわかりません。ミネラルウォーターの硬度に直接関係するCaとMgの値は載っていました。琉球石灰岩の多い離島はCaもMgも多く硬水ですが、他は大部分軟水です。上の図はCa/Mg比です。この値が2前後だと美味しい水なのだそうです。

文献:

  1. 中馬克巳(1994), 鹿児島の水. かごしま文庫(春苑堂出版), 228pp.
  2. 藤田紘一郎(2014), 体をつくる水、壊す水~10年後に差がつく「水飲み"腸"健康法」30の秘訣~. ワニブックスPLUS新書, 191pp.
  3. 梶原佑介・坂元隼雄・冨安卓滋・穴澤活郎(2003), 鹿児島市地下水中の化学成分の挙動. 2003年度日本地球化学会第50回年会講演要旨集, セッション, ID: 1P24.
  4. 黒川達爾雄・箕輪迪夫(1960), 鹿児島市周辺の地下水の水質について. 鹿児島県工業試験場研究報告, No.7, p.11-17.
  5. 箕輪迪夫(1963), 鹿児島市周辺地下水の水質. 鹿児島県工業試験場研究報告, No.10, p.19-26.
  6. 箕輪迪夫・田畑一郎(1966), 鹿児島市周辺地下水の水質(3). 鹿児島県工業試験場研究報告, No.13, p.24-29.
  7. 本村輝正(2014), 鹿児島湧水百科―かごしま水物語―. 志布志新生社印刷, 494pp.
  8. WHO/HSE/WSH(2011), Hardness in Drinking-water. 11pp.
  9. (), . , Vol., No., p..
  10. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2016/11/04
更新日:2019/01/16