シラスシラスコンクリートシラスタイルシラスバルーンシラス多孔質ガラス

 シラスの工業利用

 シラス

シラス活用の発展可能性(鹿児島県工業技術センター,2013)
 シラスとは、火山性の砂質堆積物を指す鹿児島の方言でしたが、近年では火砕流堆積物の非溶結部に限って使われるようになりました(「1976年災害」参照)。とくに狭義には、約3万年前に姶良カルデラから噴出した入戸火砕流堆積物の非溶結部を指します。入戸火砕流堆積物の総量は約200km3と言われ、鹿児島県本土の約6割を覆っています。比高最大で約150mにも達するシラス台地を形成していることでも有名です。しかし、しばしばシラス災害が発生し、甚大な被害を出します。甚だ迷惑な存在ですが、量的には無尽蔵にあるわけですから、何とか工業利用できないものでしょうか。古くから鹿児島県や宮崎県の工業技術センターなどで利用法が研究されてきました。
 シラスは流紋岩質~デイサイト質ですから、化学組成(wt%)は下表の通りです(岩松ほか,1989)。
SiO2Al2O3FeOFe2O3CaOMgONa2OK2O
68~7113~15151~3.52~3.52~3.53~42~4
 一方、平均的な鉱物組成としては火山ガラスが75~80wt%を占め、その他に斜長石・紫蘇輝石なども含みます。また、火砕流ですので、噴出源からの距離によって、淘汰度や粒径等も大きく異なりますが、一般には粒度でいうと砂質に当たる部分が大半を占め、中央粒径値は1.4~0.5mmです。2mmを超すものは軽石が多く、時に岩片を含みます。
 それでは、このような性質を持ったシラスをどのように活用できるでしょうか。火山ガラスが主体ですから、当然、ガラスの製造が考えられます。普通ガラスは珪砂を輸入してきて使っています。シラスもSiO2が大部分ですから、珪砂の代用品になるでしょうか。しかし、確かにガラスはできますが、不純物(とくに鉄分)が含まれるので、色が付いてしまいます。民芸品にはなっても板ガラスにならないようでは、産業につながりません。淘汰が悪いことも難点です。選鉱にコストがかかるからです。鹿児島県工業技術センターでは、上図のような展望を描いているようです。少量でも高付加価値のものと、安くても大量に使うものと、両方の道がありそうです。

 素材のままの活用

 自然状態のシラスを埋立に使ったものとしては、城山団地造成で出たシラスを水搬工法で与次郎に運んだ例が有名です。しかし、乱したシラスは普通砂よりも液状化しやすいという実験結果がありますから、若干問題です(山内ほか,1976)。昭和30年代には軽量コンクリートの細骨材として使われたこともありました。ただ、強度的に問題があり、その後のコンクリート高強度化の流れに乗れませんでした。先に淘汰が悪いのも難点と述べましたが、古加久藤湖に突入した入戸火砕流のように、水で淘汰されたものもあります。かつてはブラウン管の研磨材として使われました。しかし、今でも細粒部を研磨剤やクレンザーとして使ったり、軽石をジーンズのストーンウォッシュに使ったりしています。

 シラスコンクリート

シラスコンクリートの長期的強度シラスコンクリート製落蓋側溝(インフラテック社)
 シラスは火砕流起源のため淘汰が悪く、コンクリート骨材としては、粒度・吸水率・密度などでJIS規格を満足していません。径5mmのフルイでふるったものを細骨材としていますが、0.15mm以下の微細成分が含まれるため、コンクリートの流動性を阻害し、単位水量の増大を招きます。一方で、この微細成分はポゾランpozzolan活性を有します。水酸化カルシウム Ca(OH)2と常温で反応して不溶性の化合物を作り硬化するのです。硬化コンクリートの品質改善への寄与が期待できます。この点に着目した研究が鹿児島大学等で行われ、シラスコンクリートが実用化されました。グラフに示すように、同一水セメント比の場合、最初は普通砂を用いたコンクリートより強度が劣るのですが、材齢1年以上経つと、普通砂コンクリートよりも強度が若干高くなります。ただし、材齢に関わらずヤング率は常に普通砂コンクリートより10~15%小さいようです。上記、水量の増大に関しては、乾燥後の収縮量の増大とひび割れの発生が懸念されますが、実験結果では、普通砂コンクリートと大差なかったそうです。一方、耐久性では著しい利点があります。それは塩化物イオン浸透に対する抵抗性が極めて高いことです。その高い塩害抵抗性から海洋構造物への利用が進んでいます。また、耐硫酸塩性もあるので、温泉変質帯などでの土木構造物に用いられています(「温泉変質帯での架橋」参照)。なお、近年、コンクリートのアルカリ骨材反応が問題になっていますが、粗骨材に反応性骨材が混入された場合でも、かえって反応を抑制する効果があるそうです。
 シラスコンクリートの二次利用では、シラス大判瓦や側溝部材などが開発され、市販されています。

 シラスタイル

シラスタイル
(ストーンワークス社)
シラスタイルを用いた軌道敷緑化
 シラスには、①含水率が高い、②比重が小さい、③粒度が細かい、④粒子形状が悪いといった欠点があり、生コンなどには使いにくいものでした。この欠点を長所に変える技術が鹿児島県工業技術センターと(株)ストーンワークスで共同開発されました。「ゼロスランプ加圧成形法」です。水無添加のままシラスとセメントを混ぜ、圧縮することで、シラス自体に含まれる水分でシラスとセメントを密着させることに成功したのです。水を使いませんから廃水も出ませんし、加圧だけですので、コストも低く抑えられます。軽量で、かつ断熱性・保水性に富む製品ができました。鹿児島市電の緑化基盤に使われて、鹿児島市民にはおなじみになりましたが、屋上緑化などにも使われています。なお、不良品や建設廃材もクラッシュしてリユースが可能で、エコな製品でもあります。

 シラスバルーン

シラスバルーン(袖山,1999)シラスバルーン入り化粧品(袖山,2011)
 上記は低価格でも多量に使うものでしたが、少量でも高付加価値を追及する道もあります。その一つがシラスバルーンです。シラスバルーンとは、シラスを焼成発泡させた微細な風船状の粒径20μm~1.4mm程度のものです。低かさ比重、不燃性、高融点、低熱伝導率、無色、無害、有毒ガスの発生がないなどの特徴があります。ガラスバ ルーンに比して低価格だそうですが、その上、微粒化するとガラスバルーンよりも強度が強く、耐熱性・化学的耐久性に優れているそうです(袖山ほか,1997)。この微粒シラスバルーンを塗料に混ぜた断熱塗料や、洗顔料などが開発され、いろいろな活用法が考えられています。

 シラス多孔質ガラス

SPGSPG成形体
上記は宮崎県工業技術センター(2011)による
 宮崎県工業技術センターでは、永年シラス多孔質ガラスの研究を行ってきました。シラスに含まれるAl2O3は、ガラスの分相を阻害する性質があり、それが壁になっていました。同センターでは、CaOを加えることで、この問題を解決しました。先ずシラスに石灰やホウ酸などを加えて1300~1400℃で溶融し、CaO-Al2O3-B2O3-SiO2系基礎ガラス成形体を作成します。次いで、これを650~50 ℃ の温度範囲で24時間~10日間熱処理し、CaOB2O3系ガラスおよびAl2O3-SiO2系ガラスに二相分離させます。前者は酸で溶けて細孔となります。これがシラス多孔質ガラスSPG(Shirasu Porous Glass)です。このナノサイズの細孔を流体や気体を通すことによって、ナノバブルやエマルション(乳化物)を生成します。さまざまな分野に応用されています。
文献:
  1. 濱崎廣教・松下博通・諫山幸男(1996), シラスの有効利用に関する研究―シラスの発泡体およびシラス軽砂の吹付けモルタル原料としての有効性―. 資源処理技術, Vol.43, No.2, p.51-59.
  2. 原 尚道・井上憲弘・松田応作(1979), 80°-100℃におけるシラス-石灰系水熱反応. 窯業協會誌, Vol.87, No.1002, p.86-94.
  3. 岩松 暉・福重安雄・郡山 榮(1989),シラスの応用地質学的諸問題. 地学雑誌,Vol.98, No.4, 379-400.
  4. 鹿児島県土木部(2006), シラスを細骨材として用いるコンクリートの設計施工マニュアル(案).
  5. 鹿児島県工業技術センター・鹿児島経済研究所(2013), シラス市場動向調査. 鹿児島県工業技術センター, 4pp.
  6. 鹿児島県工業技術センター・鹿児島経済研究所(2013), シラス市場動向調査(概要版). 鹿児島県工業技術センター, 32pp.
  7. 鹿児島県工業技術センター(2011), かごしま シラス産業おこし企業ガイドブック. 鹿児島県工業技術センター, 98pp.
  8. 久木崎雅人・清水正高(2010), シラス台地の資源を生かした多孔質ガラスの作成と膜技術への応用. 化学工学, Vol.74, No.2, p.66-68.
  9. 中島忠夫・黒木裕一(1981), シラスを主原料にしたNa2O-B2O3-SiO2-Al2O3-CaO系ガラスの分相におよぼず化学組成と熱処理条件の影響. 日本化学会誌, Vol.1981, No.8, p.1231-1238.
  10. 中重 朗・肥後盛英・薗田徳幸・水俣キクエ・野元堅一郎(1966), シラスタイルの製造研究. 鹿児島県工業技術センター, Vol., No., p.12-16.
  11. 奥地栄祐・武若耕司・清川秀樹・中尾好幸(2004), 高温環境下へのシラスコンクリートの適用に関する実験的研究. コンクリート工学年次論文集, Vol.26, No.1, p.681-686.
  12. 島田欣二(1988), 火山噴出物(シラス)の有効利用 . 日本温泉気候物理医学会雑誌, Vol.51, No.4, p.210-212.
  13. 島田欣二・福重安雄(1975), シラス中の火山ガラスの性質. 窯業協會誌, Vol.83, No.964, p.565-570.
  14. 袖山研一・目 義雄・神野好孝・浜石和人(1997), 微粒シラスバルーンの特性 . 日本セラミックス協会学術論文誌, Vol.105, No.1217, p.79-84.
  15. 袖山研一・神野好孝・浜石和人・寺尾 剛・目 義雄・関 博光・吉村景則・刀根俊二(1997), シラス利用の新技術開発―微粒シラスバルーンの製造と応用―. 鹿児島県工業技術センター研究成果発表会予稿集(1997), p.9-10.
  16. 袖山研一(1999), 微粒シラスバルーンの開発と利用に関する工学的研究. 鹿児島大学博士論文, 147pp.
  17. 袖山研一・目 義雄(2000), 微粒シラスバルーンの作製とその応用. Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan, Vol.7, No.287, p.313-322.
  18. 袖山研一・吉村幸雄(2011), シラス利用の新しい展開. 鹿児島県工業技術センター研究成果発表会予稿集(2011), p.12-13.
  19. 多々良勇貴・武若耕司・山口明伸・森高康行(2010), 温泉環境下におけるシラスコンクリートの劣化性状とその劣化モニタリングに関する基礎的研究. 土木学会第65回年次学術講演会, V-329., p.657-658.
  20. 山内豊聡・松田 滋・一瀬久光(1976), 沖積シラスの液状化について. 土木学会西部支部1976年研究発表会講演概要集, p.235-236.
  21. 武若耕司・久見順一(1990), しらすコンクリートの施工性能に関する実験的検討. 土木学会西部支部研究発表会, V-32, p.648-649.
  22. 武若耕司(2004), シラスコンクリートの特徴とその実用化の現状. コンクリート工学, Vol.42, No.3, p.38-47.
  23. 武若耕司(2007), シラスコンクリートの特徴―鹿児島県制定のマニュアルの内容を基にして―. コンクリート工学, Vol.45, No.2, p.16-23.
  24. (), . , Vol., No., p..
  25. (), . , Vol., No., p..
  26. (), . , Vol., No., p..
  27. (), . , Vol., No., p..
  28. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:


頁トップに戻るシラスシラスコンクリートシラスタイルシラスバルーンシラス多孔質ガラス

初出日:2017/03/02