温泉変質帯での架橋―丸尾滝橋

完成した丸尾滝橋丸尾地すべり(右上ロゴマークで地図切り替えできます。)
 霧島市牧園町丸尾滝は温泉の滝として観光名所になっていますが、この地点では国道223号が狭く急カーブで危険です。また、がけ崩れや倒木もありました。そこで、バイパスの橋梁が計画されました。しかし、丸尾地区は温泉地、温泉変質が激しく、橋梁基礎を築くのが大変でした。平成13年度に着工し、供用されたのは平成27年でした。14年もかかった難工事でした。工事の前に次のような数々の難問が立ちはだかりました。
 ほとんどN値ゼロの温泉変質帯ですから、地盤改良が欠かせません。また、高温の温泉水の湧出も考えられます。薬液注入による遮断工が施工されました。注入材としては、地盤が酸性土壌であるため一般的な非アルカリ系注入材では中和反応が起こらない可能性があることから、地下水のpHに左右されない自硬性でゲルタイムが長い長結性注入材を採用したとのことです(堀之内,2007)。  地中温度が100度を超す高温環境ですから、掘削及びコンクリート打設に支障があります。地盤冷却工も行われました。同時に、作業員は耐熱服を着用しました。  有毒な火山ガスも作業の妨げになりました。ガスマスクを着用するとともに、深礎工では無人化施工も行われました。
シラスコンクリートの長期的強度SO3浸透深さの経時変化
 高温地熱と強酸性土壌に耐えるコンクリートとして、鹿大の開発による低熱ポルトランドセメントを使用したシラスコンクリートが採用されました。もともと鹿児島県はコンクリート骨材として海砂を使ってきましたが、塩分を含んでいますので、骨材としては好ましくありません。そこで、平成13年(2001)、県内に豊富にあるシラスを骨材として使えないかと「シラスコンクリート検討委員会」が立ち上がっていました。鹿大工学部における研究が進み、耐硫酸塩性が強く、海洋構造物や温泉地の基礎など、厳しい環境下での高い耐久性が確認されていました(鹿大工学部海洋土木工学科武若研究室:文献欄の一連の論文参照)。これを実地に使用したのです。

文献:

  1. 堀之内 毅(2007), 温泉環境下における橋梁建設~一般国道223号道路改築事業(丸尾の滝橋)~. 九州技報, No.41, p..
  2. 市来賢二・武若耕司・森嶋絢也・山口明伸(2010), 低熱セメントを用いた高流動シラスコンクリートの配合検討に関する研究. 土木学会西部支部研究発表会, V-022., p.721-722.
  3. 鹿児島県土木部監理課技術管理室(), 公共工事における「 シ ラスコンクリート」活用の取組. 鹿児島県工業技術センター, Vol., No., p.66-69.
  4. 森高康行・武若耕司・山口明伸・多々良 勇貴(2009), 温泉環境下に曝露したシラスコンクリート中の劣化モニタリングに関する実験的検討. コンクリート工学年次論文集, Vol.31, No.1, p.2071-2076.
  5. 日経コンストラクション(2006), 丸尾の滝橋P2橋脚基礎工事(鹿児島県) 115℃の熱水帯に深礎杭を築く. 日経コンストラクション, 2006/07/14号, p.32-37.
  6. 奥地栄祐・武若耕司・清川秀樹・中尾好幸(2004), 高温環境下へのシラスコンクリートの適用に関する実験的研究. コンクリート工学年次論文集, Vol.26, No.1, p.681-686.
  7. 大迫久登(2011), 火山地熱地帯での施工について(丸尾の滝橋). 2011年度鹿児島県建設技術センター建設技術発表会.
  8. 武若耕司・久見順一(1990), しらすコンクリートの施工性能に関する実験的検討. 土木学会西部支部研究発表会, V-32, p.648-649.
  9. 武若耕司(2007), シラスコンクリートの特徴―鹿児島県制定マニュアルの内容を基にして―. コンクリート工学. Vol.45, No.2, p.16-23.
  10. 多々良勇貴・武若耕司・山口明伸・森高康行(2010), 温泉環境下におけるシラスコンクリートの劣化性状とその劣化モニタリングに関する基礎的研究. 土木学会第65回年次学術講演会, V-329., p.657-658..
  11. 山田康貴・阿部和夫・中尾好幸・西村一朗(2010), 温泉腐食環境下における「(仮称)丸尾の滝橋」の設計と施工. プレストレストコンクリート技術協会第19回シンポジウム, p.421-424.
  12. 山口明伸・武若耕司・清川秀樹・中尾好幸(2003), 高熱・温泉環境下の橋梁基礎へのシラスコンクリートの適用. 土木学会第58回年次学術講演会, V-606, p.1209-1210.

    参考サイト:



    初出日:2015/08/30
    更新日:2020/12/01