プレートテクトニクスオイラーの定理沖縄プレート南九州におけるプレート境界

 南九州におけるプレート境界

 プレートテクトニクス

20世紀中頃考えられていた世界のプレート(USGS)
3種のプレート境界(USGS)
 周知のように、地球表層はプレートplateと呼ばれる10数枚の厚い岩盤に覆われていると言われています。その下位にあるアセノスフェアasthenosphereの動きに従って年に数cmの早さで動いています。プレート同士の境界には、大きく見て発散型・収束型・トランスフォーム型があり、それに応じて地震火山活動・造山運動などさまざまな地殻変動が発生します。日本列島は、ユーラシアプレートと北アメリカプレートに載り、そこへ太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込んでいるとされてきました。日本列島に対する相対的な沈み込み速度は太平洋プレートが8-9cm/yr、フィリピン海プレートが4-5cmと言われています。
 どの教科書にも載っていることですから、詳しいことは省略しますが、一つだけ注意したいことは地殻crustとプレートを混同しないで欲しいと言うことです。昔、講演会である偉い方が、プレートの厚さは大陸で35km、海洋底で7kmと、話されたことを聞いたことがあります。これは地殻のことです。地球内部を地殻・マントル・核などと分けるのは元素組成などに基づく地球化学的分類です。これに対し、リソスフェア(岩石圏lithosphere)・アセノスフェア(岩流圏)などと分けるのは力学的分類です。リソスフェアは弾性体として挙動する部分で地殻とマントル最上層を含みます。その厚さは力学的応答によりますから一義的には決められませんが、数10km~数100kmと考えられています。これがほぼプレート(剛体と定義)に相当します。なお、アセノスフェアは深さ100km~300km付近にあり、流動性を示すところと考えられています。

 オイラーの定理

トランスフォーム断層(Wilson,1965)
(Le Pichon,1968)
 プレートテクトニクスは、Hess(1962)やDietz(1961)による大洋底拡大説の提唱に始まりますが、それを地磁気の縞模様で実証したのがVine & Matthews(1963)です。これは省略しますが、後の議論に関わるのが、Wilson(1965)によるトランスフォーム断層の提唱と、それを球面上の剛体の回転によって説明したLe Pichon(1963)の業績です。オイラーEulerの定理を使ったのです。球体表面に沿った水平運動は、球の中心を通る1つの軸の回りの回転運動として表現できます。地球表面とこの回転軸の交点のうち、上から見下ろしてプレートが反時計回りに回転するほうの交点をオイラー極Euler Poleと呼びます。地球は地軸を軸に回転していますが、プレートはこのオイラーの回転軸を中心に回転しているのです。Le Pichon(1963)はトランスフォーム断層の走向がオイラー極に直交していることを見出しました。まだGISのない時代、極をあちこちに仮定して手書きも含めて地図を描く"graphical test"を何度も行ったようです。

 沖縄プレート

沖縄周辺のプレート境界(Bird,2003)
CRB:continental rift boundary, OSR:oceanic spreading ridge, CTF:continental transform fault, OTF:oceanic transform fault, CCB:continetal convergent boundary, OCB:oceanic convergent boundary, SUB:subduction zone
 プレートの数や場所については、諸説ありましたが、Bird(2003)は大小52のプレートを識別しました。右図は南九州~沖縄周辺の図です。Bird(2003)がこのように決めた論拠はHeki et al.(1999)によるGPSデータの解析によります。Heki et al.(1999)は現在GPSで観測される水平変動がプレートの動きによるものだとしたら、地球という球面上の回転ですから同一のオイラー極が求まるはずと考え、それぞれのGPSステーションの動きを解析したところ、アムールプレートと南中国プレートを別物としました。ただし、まだGPSステーションも少なかった時代ですから精度はあまり良くありませんので境界線は引きませんでした。Bird(2003)はこの南中国プレートという名称は既に古生代の古いプレートに対して用いられているとして新しく揚子江プレートと呼びました。沖縄舟状海盆は発散型境界ですから、その東側をSibuet et al.(1987)がOkinawa Plateletと名づけたのに従って沖縄プレートと呼びました。なお、この図の枠外ですが、北海道・東北ははオホーツクプレートに、西日本はアムールプレートに載るとしています。オホーツクプレートは北米プレートのカムチャッカ半島以南の部分、アムールプレートはユーラシアプレートのバイカル湖以南の部分を指します。その後、Argus et al.(2011)は96のプレートを識別しましたが、この部分についてはBird(2003)を引用しています。
 アメリカ地質調査所USGSでは、プレート境界のGISデータを公開しています。恐らく元データはBird(2003)でしょう。日本周辺の地質図と重力図に重ねて見ました(下図)。青線:収れん型(沈み込み帯)・緑線:発散型・赤線:トランスフォーム型・白線:その他です
産総研東アジア地質図とプレート境界(USGS)重力(産総研)とプレート境界(USGS)

 南九州におけるプレート境界

防災科研f-netによる同地域の地震発震機構(2016/9/1~2019/9/12現在)
GNSS連続観測に基づく水平変動(2009-2019)(国土地理院)
 さて、日本周辺の収れん型境界が日本海溝と南海トラフ・琉球海溝であることは異論のないところでしょう。それぞれ太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込むところです。沖縄舟状海盆が開きつつあるところだということは、近年の海洋調査で明らかにされてきましたから、プレート境界かどうかはともかく、発散型の境界であることは誰もが認めるでしょう。
 問題は九州パラオ海嶺から南九州を横断する“発散型境界”とされているところです。九州パラオ海嶺の突出した岩塊が沈み込んだため、引張の応力場が形成されたのでしょうか。九州パラオ海嶺の分身<注>と言われている伊豆小笠原弧が南部フォッサマグナに衝突しているように、ここでも衝突が起きつつあるのでしょうか。宮崎沖にある九州一の重力負異常部を通るのも気になります。一般に重力の負異常点にはよくカルデラが存在します。カルデラが形成されつつある(軽いマグマが集積しつつある)のでしょうか。地表地質との関連で言えば、白亜紀付加体の四万十帯が大きく屈曲するヒンジ部を通っています。新第三紀宮崎層群は南部の砂岩優勢相からなる鵜戸山塊と北部の泥岩優勢相からなる宮崎平野と大きく層相が分かれますが、その境界付近に当たります。ここに不整合があると主張した人もいました。もっと新しい地質時代で言えば、加久藤カルデラ~霧島山を通っています。地震との関連で言えば、角田・後藤(2002)の左横ずれ内陸地震多発帯と一致します。ただし、長宗(1988)が示したフィリピン海プレートのブロック境界とは一致しません(「鹿児島の地震」参照)。もしもここが発散型境界なら、この付近でNNE-SSW引張の発震機構を持つ正断層型地震がたくさん見つかっても良いように思います。防災科研 F-netで宮崎~霧島~阿久根地域における地震の発震機構を調べてみましょう。2016/9/1から2019/9/12までの分を抽出して図示します。もっと長い期間を取っても正断層型地震はあまり多くありません。角田・後藤(2002)が言うように、横ずれ型が多いように見えます。Wallace et al.(2009)は九州パラオ海嶺の急速な衝突が左横ずれ剪断帯を形成したと述べています。 なお、鍵山(1994)は、霧島火山群を取り囲む応力場は北西―南東方向にやや張力的な揚であるとしていますが、これは震源の深さが10km以下と浅い火山性のもので、プレート境界の議論とは直接結びつかないでしょう。
 それでは測地のデータはどうでしょうか。国土地理院では、全国1300点に電子基準点を設置し衛星測位システムGNSS(Global Navigation Satellite Systems)観測を行っています。右図は2009年から10年間の水平変動を示しています。一部に2018年熊本地震の影響も見られますが、九州中部で西向きなのに対して、南部では南向きです。その変わり目がちょうど上記の発散型境界に一致します。現在でもここがテクトニクスの境界だということを示しているのでしょうか。
 以上データを羅列しましたが、どなたか真正面から研究に取り組んでいただきたいものです。
<注> 九州パラオ海嶺は古い島弧で、かつては伊豆小笠原弧と同一のものでしたが、34Ma頃東西に分裂し、間に四国海盆やパレスベラ海盆が形成されました(藤岡,2018)。フィリピン海プレートについては別項「フィリピン海プレート」をご覧ください。

文献:
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参考サイト:


初出日:2019/09/07
更新日:2020/01/10