フィリピン海プレート

 南海トラフと琉球海溝

フィリピン海の海底地形(等水深線は500m間隔、スクリプス海洋研究所のDEMを使用)と
フィリピン海プレート(赤線:産総研斎藤氏による10km等深線)
フィリピン海プレートの構造発達史(Hall et. al., 1995)
 西南日本は北薩の屈曲で大きく曲がり、琉球列島のほうに続きます。東北日本には太平洋プレートが沈み込んでいますが、ここではフィリピン海プレートが沈み込んでいます。しかし、フィリピン海プレートの北縁は単一の海溝ではなく、南海トラフと琉球海溝に分かれ、南九州~奄美周辺海域はやや複雑です。ここでは、右図で示すように、九州-パラオ海嶺・奄美海台・大東海嶺・沖大東海嶺が斜交しているからです。ただし、フィリピン海プレートそのものは、赤線に示すように、連続しています。これは中村・兼城(2000)が地震データから導いた面を斎藤(2017)がGIS化したものです。一体、これはどのように考えれば良いのでしょうか。
 少し古い論文ですが、Hall et. al.(1995)は、フィリピン海プレートの構造発達史を次のように考えています。
 45Ma頃、北東縁で沈み込みが開始されます。40Ma頃までには右図に示した回転軸を中心に時計回りに回転し、西フィリピン中央海盆が開き始めます。40~25Maには、回転は起こらず、南縁でインド洋プレートが沈み込みます。25Maには中図に示した回転軸のまわりに回転し始め、南縁の沈み込みは止んで横ずれ断層となります。マリアナ海溝は閉じ、四国海盆とパレスベラ海盆が開き始めます。10Ma頃もフィリピン海プレートは回転を続けます。15Ma前にはフィリピン海プレートの一部だったモルッカ海は10Maまでに別のプレートになります。
 その後、Honza & Fujioka(2004)は、フィリピン海プレート全体の構造発達史を詳細に組み立てました。以下、日本近海に関わる部分を抜粋して紹介します。
A 白亜紀後期(85Ma)
 ユーラシアプレートの東縁、すなわち日本・南部中国・南ベトナム・ボルネオに沿って酸性深成岩類が分布しており、そこに太平洋プレートが沈み込んでいました。一方、太平洋プレートの南縁にはスンダ弧と東フィリピン-大東弧・奄美海台があり、そこにインドプレートが沈み込んでいました。なお、南ボルネオは白亜紀以来反時計回りに約90度回転します。
B 始新世最初期(52Ma)
 東フィリピン-大東海溝では沈み込みは停止し、西フィリピンは衝突してインドプレートの一部となります。その前面に九州-パラオ海溝が生まれ、太平洋プレートが逆に沈み込みを始めます。同時に、沖大東海嶺の南で西フィリピン海盆が開き始めます。
C 始新世中期(45Ma)
 この時期は西フィリピン海盆の拡大と、それに伴う九州-パラオ弧の北上で特徴付けられます。セレベス海盆もこの時期、ミンダナオとボルネオの間に開き始めます。
D 漸新世最初期(35Ma)
 この時期になると西フィリピン海盆の拡大は止み、九州-パラオ弧が今よりもっと南に形成されます。西フィリピン海盆の南ではカロリン海盆が開き始めます。
E 漸新世最晩期(25Ma)
 この時期になると、九州-パラオ弧の前面に太平洋プレートが沈み込み始め、伊豆-小笠原海溝が形成されます。九州-パラオ弧との間に四国海盆とパレスベラ海盆が開き始めます。
F 中新世中期(15Ma)
 さらに四国海盆とパレスベラ海盆は拡大し続けますが、同時期に日本海も開き始めます。著者らは日本海の拡大は24~27Maと考えているようです。
G 鮮新世(6Ma)
 ほぼ現在のような配置になりました。
 まとめると、奄美海台や大東海嶺・沖大東海嶺は白亜紀に形成された古い地塊であり、九州-パラオ海嶺は古第三紀に太平洋プレートが沈み込んで形成された古い島弧です。西フィリピン海盆の拡大と四国海盆の拡大によって、東西からしわ寄せを受けたところが、奄美近海と言うわけです。それが複雑な地形をしている理由でしょう。
85Ma~6Maのフィリピン海プレート(Honza & Fujioka, 2004)

 一方、奄美周辺海域の海盆について、堆積学的研究も進んでいます。樋口ほか(2015)によれば、それぞれ次のような特徴があります。

 その後、中新世以降は各海盆とも遠洋性ないし半遠洋性堆積物の堆積の場となりましたが、陸域からの距離に応じて、その厚さは変わります。

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参考サイト:



初出日:2018/05/21
更新日:2018/11/04