曽木の滝分水路

 伊佐市にある曽木の滝は、豊臣秀吉が島津攻めの際立ち寄ったと言われる名瀑です。また、桜や紅葉の名所としても有名です。加久藤溶結凝灰岩を穿つ幅210m、高さ12mの滝で、水量が多く幅が広いため、東洋のナイアガラと称されています。
 なぜこのように水量が豊富なのでしょうか。えびの市・湧水町と流れてきた一級河川川内川本流の水と、大口盆地を流れてきた羽月川・重留川・市山川などの水が全部ここに集まるからです。その流域面積は川内川流域の約半分を占めます。当然のことながら、この狭窄部が原因で、背後の大口盆地や菱刈・栗野などで水害が発生します。近年では2006年鹿児島県北部豪雨で大きな被害が出ました。そこで、「川内川激甚災害対策特別緊急事業」(通称:川内川激特事業)が採択され、曽木の滝分水路が企画されました。しかし、ここは有名な観光地です。景観に対する配慮と観光にも資することが必要です。そこで、熊本大学工学部景観デザイン研究室などの全面的な協力を得て、設計が行われました。最近話題のCIM(Construction Information Modeling)が活用された事例として注目されました。具体的には左岸側を目立たないように全長約400m、幅約30mにわたって掘削、コンクリートの三面張りではなく、露岩のままとし、平常時にはせせらぎ水路として、親水公園の役割を果たさせることになりました。2011年には完成しています。2012年にはグッドデザイン賞やサステナブルデザイン賞を受賞しました。
 なお、上流に県道の橋(曽木大橋)が架かっていて景観が台無しでしたが、2014年から3年かけて撤去工事が行われ、現在は橋桁が1つ残っているだけです。来年(2017年)には完全撤去されます。代わりに下流にモダンな新曽木大橋が完成しました。
曽木の滝(吉田鎮男氏提供)曽木の滝の集水域(産総研シームレス地質図:クリックで地質解説表示)
ドローン撮影による全景(大阪市大原口強准教授提供)完成後の分水路(国交省九州地方整備局による)
 下記は原口准教授提供のドローン撮影による三次元画像(3D PDF)です(マウスで回転・拡大・縮小ができます。Ctrl+左ボタンで移動)。

文献:

  1. 安倍 剛(2015), 東洋のナイアガラを守った!「曽木の滝分水路」(特集 多自然川づくり : これまでの四半世紀とこれからの四半世紀). 河川, Vol.71, No.10, p.42-45.
  2. 星野裕司・小林一郎(2011), 曽木の滝分水路の整備. 土木学会景観・デザイン研究講演集, No.7, p.307-316.
  3. 小林一郎(2015), CIMを学ぶ~河川激特事業におけるCIMの活用記録より~. 日本建設情報総合センター建設情報研究所研究開発部, 77pp.
  4. 日経コンストラクション(2012), 土木のチカラ 地域への思いを込めた美しい分水路 : 川内川激特事業の宮之城地区、曽木の滝地区(鹿児島県さつま町、伊佐市). 日経コンストラクション, No.535, p.20-27.
  5. 鮫島正道・宅間友則・今吉 努・徳永修二・下沖洋人・東郷純一・豊國法文・角 成生(2014), 川内川曾木分水路の自然再生の現状:河道掘削竣工後のエコシステムの回復. Nature of Kagoshima, No.40, p.141-153.
  6. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2015/12/03
更新日:2020/12/01