ハザードマップと治水地形分類図参考:ボトルネック型水害常襲地

 川内川の地形・地質と水害

模式縦断面図(文献2による)傾斜区分図(靑色は傾斜15度未満)

1954年8月18日旧東郷町(文献2による)
1971年8月3日旧吉松町(文献2による)
1997年9月16日旧吉松町(文献2による)2006年7月22日湧水町(文献2による)
元禄絵図に見る江戸時代の川内川河口(国立公文書館)
川内平野の模式断面図(文献2による)
 川内川は、熊本県球磨郡あさぎり町の白髪岳(標高1,417m)に発し、宮崎県の加久藤盆地を経て、薩摩川内市に達する幹川流路長137kmの鹿児島県で一番大きな一級河川です。『続日本書記』に天平18年(746)の洪水が記録されていますが、古来、川内川は暴れ川として有名でした。どうしてこのように水害が多いのでしょうか。
 それは川内川流域の地形・地質に原因があります。この地域の地質は、四万十層群を基盤としており、その上を北薩火山岩類が覆っています。さらにその低地部を加久藤火砕流から入戸火砕流までの新旧の火砕流堆積物が埋めています。この火山岩類や溶結凝灰岩は硬いので、これらが露出しているところは川幅が狭くなっています。狭窄部と呼びます。たとえば、旧吉松町と旧栗野町とを隔てる永山狭窄部(火山岩)、旧栗野町と旧菱刈町を隔てる轟狭窄部(溶結凝灰岩)、大口盆地の末端、曽木の滝(溶結凝灰岩)、旧宮之城町の下流、 推込しごめ山間部(火山岩)、旧東郷町と旧川内市の境界付近(火山岩)、最後に川内川河口(ジュラ紀付加体、従来“川内古生層”と呼ばれていました)などが挙げられます。これらに隔てられたところが盆地です。服部(1967)は、上流から順に加久藤盆地・栗野盆地・大口菱刈盆地・宮之城盆地・川内盆地と名付けました。この分類では旧東郷町も宮之城盆地に入れられています。このようなところを山間盆地ないし袋谷と言います(これらの言葉の定義に関しては難しい議論もありますが、ここでは広義に捉えておきましょう)。
 また、火砕流は低地にほぼ水平に堆積しますから、河川勾配は基盤の露出するところでは急で、盆地では緩いということになり、緩急交互に繰り返す、いわば階段状の地形をしていることも川内川の特徴です。
 こうした山間盆地(袋谷)は下流が狭まっていますから、どうしても氾濫が起きやすいのです。ボトルネック型水害と呼ばれます。有名なのが、岩手県一関市の北上川、兵庫県豊岡市の円山川、熊本県人吉市の球磨川などの水害が良く知られています(最下段地質図参照)。
 なお、一般によく「川内平野」という言葉が使われることがあります。しかし、川内川河口には月屋山や川内原発敷地など古期岩類が狭窄部をつくっており、服部(1967)の言うように山間盆地の一つです。氷河時代、海水準が低かったときには、海岸平野はもっと西の方にあったことでしょう。実際、江戸時代には絵図にあるように潟湖状でした。悪いことに薩摩川内市街地では、川内川や支流の隈之城川は、右図のように天井川をなしており、地面より高いところを流れていますから、一旦破堤すると、大きな被害を受けます。
川内川の戦後の主な水害(文献2による)
発生日原因流域平均
12時間雨量
流量
(川内地点)
最高水位
(川内地点)
被害状況
1954/08/18台風133mm約2,900m3/s5.51m死者行方不明者13名、全半壊流失8,578戸
1957/07/28台風230mm約4,100m3/s6.20m死者行方不明者6名、全半壊流失30戸
1969/06/30梅雨152mm約3,600m3/s6.73m死者行方不明者52名、全半壊流失283戸
1971/07/21梅雨136mm約4,100m3/s6.20m死者行方不明者12名、全半壊流失347戸
1971/08/03台風206mm約4,900m3/s7.02m死者行方不明者48名、全半壊流失662戸
1972/06/18梅雨239mm約6,200m3/s6.90m死者行方不明者7名、全半壊流失357戸
1972/07/06梅雨136mm約m3,2003/s5.76m死者行方不明者8名、全半壊流失472戸
1989/07/27台風223mm約4,200m3/s4.75m死者行方不明者0名、全半壊流失45戸
1993/08/01豪雨190mm約5,300m3/s4.50m死者行方不明者0名、全半壊流失13戸
1993/08/06豪雨188mm約4,200m3/s5.36m死者行方不明者0名、全半壊流失9戸
1997/09/16台風190mm約3,500m3/s3.03m死者行方不明者0名、全半壊流失3戸
2005/09/06台風185mm約4,200m3/s?m死者行方不明者0名、全半壊流失12戸
2006/07/22梅雨295mm約8,400m3/s6.03m死者行方不明者2名、全半壊流失32戸

 ハザードマップと治水地形分類図

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ハザードマップポータルサイト洪水浸水想定区域(想定最大規模)国土地理院治水地形分類図

文献:
  1. 国土交通省川内川河川事務所:ホームページ「目で見る川内川」
  2. 国土交通省川内川河川事務所:川内川の概要
  3. 建設省九州地方建設局川内川工事事務所(1982), 川内川五十年史. 建設省九州地方建設局川内川工事事務所, 699pp.
  4. 服部信彦(1967), 川内川の洪水と鶴田ダムの意義. 地理学評論, Vol.40, No.12, p.693-706.
  5. 川池 健司・中川 一・馬場 康之(2008), 平成18年7月豪雨時の川内川洪水解析と推込分水路の影響の検討. 水工学論文集, Vol.52, p.811-816.
  6. 治水地形分類図(国土地理院)
参考:ボトルネック型水害常襲地の例
人吉市と球磨川(狭窄部:四万十層群)豊岡市と円山川(狭窄部:玄武岩)一関市と北上川(狭窄部:古生層)
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初出日:2015/12/04
更新日:2020/11/30