Eco-DRRグリーンインフラ第4次社会資本整備重点計画グリーンインフラの例いのちまち

 グリーンインフラ

 Eco-DRR

 四国の四万十川は「日本最後の清流」と言われ、観光客に人気です。ダムが一つもない(小規模な堰堤はありますが)ほとんど唯一の川と言って良いからです。このようにわが国の河川には至るところダムが造られています。ダムの環境に及ぼす負の効果を挙げ、2000年長野県田中康夫知事が「脱ダム宣言」を出しました。その頃、人工ダムに代わるものとして、森林の水源涵養機能に着目した「緑のダム」論も盛んに行われました。一方で、これは樹木の蒸散作用など諸要素を無視した一面的な議論だとの反論もありました。
Renaud et al.(2013)災害リスク低減の考え方(環境省)
 Eco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction:生態系を基盤とした防災・減災)は、これとは別に2004年インド洋大津波(スマトラ島沖地震)をきっかけにして提唱された概念です。インド洋沿岸では津波の大被害を受けましたが、砂丘や海岸林が残っていたところでは、被害が比較的軽微だったからです。IUCN(国際自然保護連合)当たりで言い出されたようです。2005年の神戸における国連防災会議を受けて、2008年には国連やNGOおよび専門家からなる国際組織「環境・災害リスク低減のためのパートナーシップ(the Partnership for Environment and Disaster Risk Reduction : PEDRR)」が結成され、Eco-DRRの推進を謳いました。
 2011年東日本大震災が発生します。世界一と言われた巨大防潮堤がもろくも決壊しました。東京電力福島原発事故も発生、環境災害の様相も呈しました。わが国のこれまでの人工構造物一辺倒の対策に反省も生まれ、Eco-DRRが注目されるようになりました。われわれは、生態系サービスを常に享受しながら生活している訳ですから、発災前の平常時はもとより、発災時・復興時にも生態系管理は重要です。自然災害は、危険な自然現象hazardに人命・財産がさらされたとき(暴露exposure)発生しますが、被災する社会の側の脆弱性vulnerability如何によって被害の規模は異なります(右図)(環境省,2016)。従来は人工構造物によりhazardの円(青い円)を小さくしようとしてきました。Eco-DRRでは、第1に災害に対して脆弱な土地の利用や開発を回避し、hazardへの暴露を減らす(緑の円を右へ移動する)、第2に生態系の有する多様な機能を活用して脆弱性を小さくする(赤い円を小さくする)、と言ったことを通じて、減災をめざしているのです。つまり、図の3つの円の交わる部分(黄色の部分)を小さくすることを狙っています。

 グリーンインフラ

Multifunctionality of GI(EU,2013)
 グリーンインフラストラクチャーgreen infrastructureは1990年代半ば、アメリカで広がった概念で、合衆国環境保護局United States Environmental Protection Agency(EPA)の定義によれば、「地域社会が健全な水環境を維持するために選択しうる手法であり、多様な環境からの利益を得つつ持続可能な地域社会の維持に寄与する」としています。例えば、ニューヨーク市では歩道にレインガーデンrain gardenなる雨水浸透装置を設置したり、沿岸部に緑地を造成して高潮に備えたりしています。EUでも取り上げられるようになり、2013年にはグリーンインフラストラクチャーgreen infrastructure戦略を採択しました。「生態系サービス(自然のめぐみ)の提供のために管理された自然・半自然地域の戦略的に計画されたネットワーク」と定義し、主要政策にグリーンインフラを組み込むことが宣言されています。
 このようにグリーンインフラとEco-DRRは、多少切り口は違いますが、両々相まってSDGsの達成に寄与するものです。

 第4次社会資本整備重点計画

 環境省だけでなく国交省もグリーンインフラに取り組んでいます。2015年閣議決定された国土形成計画(全国計画)では、グリーンインフラとは、社会資本整備、土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能(生物の生息・生育の場の提供、良好な景観形成、気温上昇の抑制等)を活用し、持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進めるもの、と定義しています。また同じく2015年、社会資本整備重点計画法に基づき、第4次社会資本整備重点計画が策定されました。計画終了年度は2020年度までです。ここでも重点目標3(人口減少・高齢化に対応した持続可能な地域社会を形成する)の中で、グリーンインフラの推進として、多自然川づくり、 緑の防潮堤、延焼防止等の機能を有する公園緑地の整備などを挙げています。

 グリーンインフラの例

田んぼダム(新潟県)西之谷ダム池敷きのビオトープ市電軌道敷緑化(鹿児島市)
 一口にグリーンインフラと言っても、都市・里地・里山・奥地・水辺・海辺と、対象地域がどこかによっても千差万別です。壁面(屋上)緑化や親水公園のように、かなり以前から登場しているものもありますし、新しいアイディアのものもあります。歩道のレインガーデンのように小規模のものから、蛇行河川や遊水池を復元するといった大規模なものもあります。
 上述のEUの図にも事例が載っていますが、日本的で、かつ、昔からあるものを見直した例に、新潟県の「田んぼダム」があります。新潟大学が協力したようです。田んぼの排水口に調整板を設け、配水管よりも小さな穴を開けて排水量を加減するしくみです。洪水時のピーク流量抑制を狙っており、2015年新潟・福島豪雨でも効果を発揮したそうです。
 鹿児島県で事例集に取り上げられたものとしては、西之谷ダムと鹿児島市電軌道敷緑化が挙げられます。前者は、洪水調節ダムで、普段の池敷きはビオトープとして活用されています(「シラスダム」参照)。後者は、シラスタイルを緑化基盤として利用したものです(「シラスの工業利用」参照)。

 いのちまち

グリーンインフラの構図(学術会議,2020)
 宮城県南三陸町には「いのちめぐるまち推進協議会」という組織がありますが「いのちまち」とは耳新しい言葉です。2020年8月学術会議が「気候変動に伴い激甚化する災害に対しグリーンインフラを活用した国土形成により‟いのちまち”を創る」という提言を行いましたが、その中に出てきます。そこでは、「いのちまち」を「人びとが、美しく豊かな自然環境のなかで、安全・安心な暮らしと経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、災害の脅威や危機に対して、リスクを最小化する基盤を備え、逞しく回復していく力を有する地域」と定義しています。これが出てきた背景には、2014年の「国土のグランドデザイン2050」において、「コンパクト+ネットワーク」の方針が示され、同時に6,000万人のスーパー・メガリージョンを創り出すとの方針が示されたことがあります。巨大都市圏の代替は短期に実現することは不可能ですし、気候変動に伴う巨大災害と感染症の脅威に対して、スーパー・メガリージョンには問題があるとの認識が背景にあるのでしょう。同時に、来たるべき巨大災害に直面している首都圏と沿岸低平地について、別項を設けて、戦略計画を提言しています。

文献
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参考サイト:



初出日:2020/05/12
更新日:2020/10/25