2003年肥薩地域土砂災害
災害の概況
2003年7月20日梅雨末期の集中豪雨により、熊本県水俣市において土石流災害が発生、19名の方が犠牲になりました。同じ頃、鹿児島県でも旧菱刈町で山崩れにより2名の方が亡くなられました。鹿児島大学自然災害研究会(代表者岩松 暉理学部教授)では、組織的にこの災害調査に取り組み、「2003年7月集中豪雨による肥薩地域土砂災害の調査研」と題する研究報告書を刊行すると共に、地元で報告会を開催しました。これには鹿児島地方気象台と住友金属鉱山および住鉱コンサルタントのご協力を得ました。水俣のほうが大きな災害で、調査にも参りましたが、「かだいおうち」の性格上、ここでは菱刈の災害を取り上げます。崩壊のメカニズムはほとんど同じです。降雨状況(下川ほか,2004) | 地形効果で発生するバンド状雲(海老原,2004) |
地質と崩壊
菱刈町前目崩壊個所(下川ほか,2004) | 犠牲者を出した崩壊地全景 |
模式断面図(井村ほか,2004) | すべり面 |
人的被害を出したところが一番規模が大きく、幅約30m、長さ約30m、崩壊深3~4m程度で、総崩壊土砂量は3,000m3と見積もられています。崩壊地の地質は、基盤が著しく熱水変質を受けて粘土化した凝灰角礫岩で、その上に節理の発達した塊状溶岩と古い崩積土が載っています。溶岩は約30°南へ傾斜しており(つまり流れ盤)、これがすべったものです。凝灰角礫岩上には擦痕の付いたすべり面が認められます。
崩壊直後には、この溶岩下面から多量の湧水が認められましたので、割れ目孔隙率の高い高透水性の溶岩からもたらされた水が、難透水性の凝灰角礫岩との境界で噴き出し、崩壊に至ったものと考えられます。このメカニズムは、1997年針原川土石流災害でも、今回の水俣土石流災害でも全く同じでした。難透水性の凝灰角礫岩にスギが、高透水性の溶岩にヒノキが植栽されているのも同じでした。「1997年針原川土石流災害」もご覧ください。
文献:
- 鹿児島大学自然災害研究会(研究代表者岩松 暉)(2004), 2003年7月集中豪雨による肥薩地域土砂災害の調査研究. 鹿児島大学自然災害研究会, 52pp.
- 千木良雅弘・Sidle Roy C.(2003), 災害調査報告 2003年7月九州土砂災害の発生場―水俣・菱刈地区. 京都大学防災研究所年報, Vol.47, No., p.91-98.
- 千木良雅弘(2006), 地すべり・崩壊の発生場所予測―地質と地形からみた技術の現状と今後の展開. 土木学会論文集C, Vol.62, No.4, p.722-735.
- 椎原賢次(2004), 鹿児島県における災害と復旧対策. 西部地区自然災害資料センターニュース, No.30, p.33-36.
- 下川悦郎・地頭薗隆・寺本行芳(2004), 肥薩火山域で発生した二つの土砂災害. 砂防学会平成16年度研究発表会, T04, p.8-9.
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- 2003年7月19日~20日の九州における豪雨災害 研究関係情報(静岡大牛山素行教授)
- 「平成15年 九州豪雨」土砂災害(2003年7月)(アジア航測)
- 九州集中豪雨被害 2003年7月(国際航業)
- SUGDASを活用した災害調査例(2003年7月九州豪雨災害)(太田ジオリサーチ)
- 平成15年7月梅雨前線豪雨による 九州水害調査報告(人と未来防災センターDRI Survey Report No. 1, 2003)
初出日:2016/12/27
更新日:2016/12/29