2000年3月24日、鹿児島大学理学部地学科最後の卒業生を送り出しましたので、このホームページはこの日をもってフリーズしました。もう更新しません。悪しからず。
 なお、「かだいおうち」は日本における大学研究室ホームページの第1号です。歴史的遺産としてここにアーカイブしておきます。

地すべり


マスムーブメント|マスムーブメントと断層|地すべりと地質|霧島の温泉地すべり|北松型入来峠地すべり|花崗岩の地すべり|種子島の第三紀層地すべり|奄美大島赤色風化岩の地すべり|天然ダム|地すべり防止工法

◆マスムーブメント

 斜面上の物質(岩石や土壌・岩屑など)が重力に起因して下方に移動する現象一般をマスムーブメント(Mass movement, Mass wasting)と言います。移動形式によって次のように分けられます。
匍行(Landcreep)…緩慢な動き、運動領域と不動領域の境不明瞭
滑動(Landslide)…急速な動き、運動領域と不動領域の境明瞭
流動(Flow)…水を多量に含む急速混濁乱流
崩落(Fall)…粉体移動ないし個体落下
 しかし、この分類はあまりに学問的に厳密に過ぎますから、分類基準が不統一ですが、建設省などでは土砂災害を次のように三大別するのが普通です。
地すべり…上記の匍行と滑動の両方を含みます。降雨や融雪に伴って地下水位が上昇したとき、土塊がマスとして原形を保ったままゆっくりと動きます。
崩壊(山崩れ・がけ崩れ)…地質の如何に関わらず急傾斜地で斜面表層物質が急速に滑落するタイプで小規模です。
土石流(山津波・鉄砲水)…渓流に沿って水を多量に含んだ土石が急速に流下するものです。

◆マスムーブメントと断層

 左図は阿波池田の地すべり崩積土です。40年前には中央構造線の露頭と言われていました。断層破砕帯と誤認されていたのです。現在でも、岩盤すべりを低角衝上断層と誤認して、サブダクション(プレートのもぐりり込み)の証拠とされたりすることがあります。純粋地質学ではマスムーブメントのことなど教えないため、こうした笑えぬ喜劇が生まれるのでしょう。もう少し、地表の変動にも目を向けてもらいたいものです。

◆地すべりと地質

 崩壊は地質の如何に関わらず急傾斜地で発生しますが、地すべりは特定の地質のところに偏在します。固結度の低い軟岩がすべるタイプ(第三紀層地すべり)は北陸地方で多く発生します。結晶片岩のようなペラペラ剥げやすい片状岩でも頻発します(破砕帯地すべり)。四国の三波川変成岩地帯のものが有名です。火山地帯では温泉変質で岩石が粘土化しているため、慢性的なクリープ型の地すべり(温泉地すべり)が発生します。
 しかし、基盤岩の種類にかかわらず、初生地すべりは氷河期など第四紀更新世に発生していて、現在見られる地すべりはその再活動だとも言われています。したがって、地すべり危険個所は空中写真で地すべり地形を判読すれば、その中に含まれることになります。もっとも、最近は横断道の建設に伴って、脊梁山岳地帯の古期岩類をカットした結果、新しく一次すべりが発生することもままあるようです。
 鹿児島は結晶片岩も軟岩もほとんどありませんから、あまり地すべりはないと言われていましたが、以下に示すように結構あります。もちろん、霧島の温泉地すべりは全国的に有名です。

◆霧島の温泉地すべり

 霧島では温泉変質に起因する地すべりがしばしば発生します。硫黄谷の道路が地すべりを起こし、交通途絶したこともありました。本学の霧島リハビリテーションセンターでも、壁に亀裂が入ったり、洗面所の鏡がひとりでに割れたこともありました。この写真は手洗温泉の地すべりです。

◆北松型入来峠地すべり

 長崎・佐賀両県にまたがる北松地域では、第三紀佐世保層群の上に松浦玄武岩が載っています。この玄武岩が水の供給源になって下位の佐世保層群がしばしば地すべりを起こします。こうしたタイプの地すべりを北松型と言います。この写真は1987年に発生した国道328号線入来峠の地すべりです。地質時代はもっと若いのですが、上位に透水性のよいデイサイト、下位に難透水性のシルト岩があり、その境界ですべったという点では、北松型と類似しています。

◆花崗岩の地すべり

 1993年は鹿児島豪雨災害のあった年です。その年の9月20日、わずか6mmの雨で日吉町毘沙門の花崗岩が地すべりを起こし、2名が犠牲になりました。直前の9月2日に来襲した戦後最大級と言われた台風13号などにより地面がたっぷりと湿っていたからでしょう。ここの花崗岩は深層まで風化が進みいわゆるマサになっていました。このようにマサ化したところでは、大隅花崗岩などでもしばしば地すべりが発生します。

◆種子島の第三紀層地すべり

 鹿児島に新第三紀層はあまり分布していません。種子島の茎永層群と喜界島の島尻層群が代表的です。1995年7月1日午後9時30分頃、南種子町茎永の中之町地区で地すべりが発生、死者1名、全壊住家4戸、一部損壊1戸の被害が出ました。流出した約25,000m3の土砂は町道を埋め、東馬渡川も一時堰き止めました。地質は茎永層群大崎層の砂岩ですが、最下部に1.5m程度の泥岩を夾んでおり、この泥岩層の上面をすべり面として地すべりが発生したのです。いわゆる流れ盤地すべりです。(鹿児島県熊毛支庁土木課による)

◆奄美大島赤色風化岩の地すべり

 奄美大島以南の亜熱帯では風化作用が活発です。赤色風化と呼ばれる独特の風化をします。本土なら全然問題にならないようなごく薄い凝灰岩の挟みなどが風化して粘土化し、地すべりの原因となったりします。

◆天然ダム

 地すべり土塊が川をせき止めたりすることがあります。これは吉松町鶴丸の地すべりの末端隆起に起因して、川内川の支流石小川がせき止められた様子です。
 1847年の善光寺地震では、虚空蔵山の崩壊によって犀川がせき止められ、数10ヶ村が水没しました。この天然ダムが決壊したとき、鉄砲水が発生して多くの死者を出したそうです。

◆地すべり防止工法

 地すべり工事には大別して抑止工と抑制工があります。前者はアンカー工や杭工で、力ずくで動きを止めようとするものです。これに対し後者は、地下水排除工や地表水排除工・排土工・押え盛土工など、地すべりの原因の一つを取り除き、動きをセーブしようとするものです。さまざまな工法を複合して用い、効果的に対策を講じています。図は建設省金沢工事事務所のパンフレット『甚之助谷地すべり防止工事』から引用しました。
 最近は地質屋さんが安定計算やこうした工法まで担当するのが普通になりました。地質屋も数学や力学に弱いと勤まらない時代になったのです。

 なお、地すべりの詳細は岩松 暉著地すべり学入門をご覧ください。


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更新日:1997年8月27日