岩松 暉 著
左図は新潟県西頸城地方の地質図と地すべり指定地の分布を示している。地すべりは中新世能谷層上部層より上の層準で発生している。岩石に含まれる粘土鉱物を調べると、能谷層上部層から上位でモンモリロナイトが急に多くなる(西田・岩松, 1976)。また、泥岩の間隙率がこの層準より上位で30%より多くなる。間隙率30%は岩石が塑性的に振る舞うか脆性的に振る舞うかの境界でもある(Hoshino,1972)。さらに、泥岩を水に浸けておくと、能谷層上部層より上の層準のものは著しくスレーキングを起こす。こうした物性上の著しい違いが地すべりの有無に影響しているのである。
先に棚田の分布で述べた新潟県山中背斜である。背斜軸部に沿って八重沢・塩沢・山中・栃ヶ原・桐山と大きな地すべり地が分布している。軸部には鮮新統西山層泥岩が分布しているから、地すべりが多いのは理解できる。しかし、水色に着色した部分は鮮新~更新統の灰爪層砂質シルト岩である。同じ岩質の灰爪層でも背斜翼部では地すべりがほとんど存在しないのに、軸部の八重沢では大規模な地すべりが発生しているのはどうしてであろうか。
関東山地の鶴川断層である。鮮新世~更新世に活動した右横ずれ断層という。小出博が破砕帯地すべりを提唱した標式地である。幅約2kmの断層帯を中軸部から外側へ3帯に分けることができる(吉田・木村,1974)。A級破砕帯(粉砕帯)は、幅数10m~200mで、岩石は粉々に粉砕されてしばしば粘土化し、地元ではザグと呼ばれている。慢性地すべりと小規模な崩壊が見られる。すべるべきものは全部すべってしまい、山間部では稀な平坦部をなすため、集落が立地している。その外側幅数10m~300mがB級破砕帯(小断層密な帯)である。数cm~数10cm間隔で小断層が発達し、それに規制された同規模の断層角礫が発達している。ここには顕著な地すべり地形が見られる。C級破砕帯(小断層粗な帯)は幅数100mで、小断層の間隔は数m~10数mである。地すべりや崩落はほとんどない。
層理面のような異方性の面も地すべりに大きな影響を与える。地層の傾斜と斜面の傾斜が同方向の場合を流れ盤、逆を受け盤という。凝灰岩層や石炭層などすべりやすい地層があると、そこをすべり面として地すべりを起こすことが多い。当然、流れ盤のほうが地すべりが発生しやすい。流れ盤地すべり(順層地すべり)という。受け盤では地形も急峻な場合が多いから、受け盤地すべり(逆層地すべり)は急激な運動をすることがあるので、注意が必要である。
結晶片岩の場合、片理面が異方性の面としての役割を果たす。左図は徳島県西部三波川帯の例である(藤田・他,1973)。θは片理面の最大傾斜の方向と地すべりの方向とのなす角で、中心からの数字は地すべりの傾斜を示す。やはり流れ盤が多い。
長崎県・佐賀県の両方にまたがる北松浦地方には中新世佐世保層群が広く分布し、それを松浦玄武岩が覆っている。佐世保層群には石炭層がしばしば挟在し、かつては炭坑がいくつも稼行していた。玄武岩には柱状節理が発達し、こうした割れ目に多量に含まれる水が佐世保層群に供給されて地すべりを起こしている。北松型地すべりという。
貫入岩もまた水瓶としての役割を果たす。これは新潟県柳沢地すべりの例である。有名な棚口地すべりも同様に後背地に貫入岩の山を控えている。