赤色風化
土壌断面(国立科学博物館ホームページによる) |
赤土を論じる前に、そもそも土壌(soil)とは何でしょうか。泥(mud)や粘土(clay)とどう違うのでしょうか。
「土壌」とは、風化作用(weathering)と生物の働きにより、岩石の風化生成物と有機物(biomass)からなる地表物質のことです。砕屑物質のうち1/16mm以下の細粒物質を「泥」と言います。とくに1/256mm以下を「粘土」と呼びます。主として粘土鉱物(clay mineral)からなります。したがって、生物の作用があるか否かが違う点です。つまり、海底には泥はあっても土壌はないのです。
土壌断面は、一般に上から腐食物質からなるA層、強風化層のB層、風化岩のC層と分けられます。最表層の落ち葉の部分をO(organic)層と呼ぶこともあります。このB層までが土壌です。なお、地質学では下から、つまり時代の古いほうから順に番号や記号を付けますが、土壌学では上から順に名付けるのが一般です。ピットを掘って上から順に観察するからでしょう。間違わないよう気をつけてください。
赤土の赤い色は酸化鉄に由来しますが、一口に「赤土」といってもいろいろあります。
- ラテライト(laterite)…サバンナや熱帯雨林見られる土壌です。母岩の珪酸分や塩基類が溶脱したもので、針鉄鉱、ギブス石、ダイアスポアなどからなりますが、当然、母岩の種類によっても異なります。煉瓦などにも使われますが、花崗岩起源のボーキサイト(bauxite)はアルミニウムの鉱床を作ります。
- 赤黄色土(red-yellow soil)…亜熱帯に見られる赤色風化の産物です。
- テラローシャ(terra roxa)…ブラジル高原に分布する玄武岩など火山岩起源の赤紫色土で、水はけが良く、コーヒー栽培などが行われています。
- テラロッサ(terra rossa)…地中海沿岸に広く分布する石灰岩起源の赤色土で酸化鉄からなります。
右写真は兵庫県三木市別所の赤松林の土壌です。B層が土壌を識別する上で一番重要な層で、数10cmあり、A層から粘土分が移動してきたため、粘土質で乾くと固くなります。鉄分に富む母岩からは赤色土が、鉄分に乏しい母岩からは、黄色土が出来やすいそうです。また、同一地形面上では、水はけのよいところでは赤色土、排水不良のところでは黄色土になる傾向があります。粒度は一般に粘土質で、径2ミクロン以下の粘土を40%以上ふくむことが多く、母岩の種類にかかわらず、メタハロイサイトを主成分とし、ヘマタイト、ゲーサイトなどの酸化鉄鉱物をかなり含んでいるのが共通の特徴です。このほか、母岩の組成に応じ、頁岩や粘土岩を母岩とする土壌ではイライトやバーミキュライト、花こう岩のように雲母をふくむものでは、バーミキュライトやクロライト、ギブサイト、凝灰岩起源のものではモンモリロナイトなどを副成分として含んでいます。また、粘土分以外の砂質分に含まれる鉱物を調べると、輝石・角閃石・黒雲母のような有色鉱物(Fe,Mgに富み、風化され易い鉱物)が非常に少なく、風化に強い石英に富んでいます。以上のような理化学的性質から、赤黄色土の生成過程は、下記のようにまとめることができます。
湿潤温暖な気候条件下で、風化作用は隣接の他の土壌(褐色森林土や火山灰土壌)とはくらべものにならない程著しく進み、有色鉱物の大半と無色鉱物のかなりの部分(長石など)は、分解して多量の粘土を生成しました。分解生成物中の珪酸や塩基類の大半は、洗脱して土壌系外に去り、残留した粘土の組成は、他の土壌にくらべ てFe,Alに富み、土壌を赤黄色に色づけていますが、熱帯・亜熱帯のラテライト性土壌にくらべると珪酸が多いようです。したがって、湿潤温帯の褐色森林土と熱帯・亜熱帯のラテライト性土壌の中間的位置を占める土壌型とみられています。
高位段丘と“クサリ礫”
北陸地方における地形面と土壤との関係を示す模式図(松井・加藤,1962) |
蛇足:
上記に引用した松井 健氏は日本ペドロジー学会の前身であるペドロジスト懇談会設立(1957年)の中心的役割を果たすと共に、多くの土壌学の本を上梓されましたから、一般には農学部出身の土壌学者と思われていますが、東京帝大地質学科出身のれっきとした地質学者です。
奄美諸島の赤色風化
2010年奄美豪雨災害(井村隆介鹿大准教授提供) | 隆起サンゴ礁段丘上の土壌生成過程(前島・永塚,2011) |
最近、前島・永塚(2011)は、宇宙線生成核種ベリリウム-10(10Be)を利用した喜界島土壌の年代測定を行い、海水面変動、地形の隆起速度などを総合的に勘案した結果、右図のような結論を得ました。すなわち、隆起珊瑚礁では最初に脱炭酸塩作用が進行すると共に腐植が集積しはじめ、7~8万年経つと、塩基溶脱作用が始まり、粘土の機械的移動も始まります。約12万年頃から遊離鉄の結晶化が進み、赤色化していくとしました。昔の下末吉期という説が裏付けられたと言って良いでしょう。
県本土の赤色風化土
1997針原災害の崩壊源 | 矢筈岳安山岩の玉ねぎ風化 |
長島安山岩類の赤色風化 | 伊唐島の畑 |
風成塵説
一方、この赤黄色土の成因について、全く違う見方もあります。琉球石灰岩に含まれる炭酸塩以外の鉱物成分が残積的に土壌の主要母材となると仮定すれば、厚さ1mの土層が生成されるためには100m以上(渡久山,1984)、 あるいは約110~140m(成瀬・井上, 1990) の石灰岩の溶解が必要であると試算されていますが、 第四紀更新世以降に、このように多量の琉球石灰岩が溶解したという事実も、流水によって土壌母材が多量に搬入された事実もないことから、成瀬・井上(1990)は、大陸起源の広域風成塵によるとしました。井上ほか(1993)は、赤黄色土より単離した微細石英の酸素同位体比は、試料採取地点の母岩や層準に関係なく+17.2±0.6‰できわめて均一な値を示すこと、石英および白雲母のδ18O値はともにアジア内陸乾燥地帯の風成塵の値にほぼ一致することなどを根拠に、風成塵説を支持しました。
文献:
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初出日:2015/08/11
更新日:2016/10/20