湖の時代

 鹿児島は火山国ですし、基盤は白亜紀付加帯(四万十帯)ですから、長島・獅子島など天草諸島や種子島を除いては、あまり化石の出るところはありません。化石の好きなお子さんを連れ出すところが少なくて、学校の先生は苦労されているものと思います。唯一、北薩の永野層相当層と姶良・霧島両市周辺の国分層群など湖成層には、木の葉・貝・魚などの化石が産出します。

 古瀬戸内河湖水系

古瀬戸内河湖水系(Urban Kubota, 1991)
 中新世には、富山から現在の瀬戸内海地方を通って九州に達する海があったと言われています。第一古瀬戸内海です。代表的な地層は岐阜の瑞浪層群や津山盆地の勝田層群などが有名です。ビカリアVicaryaという熱帯~亜熱帯に棲む巻貝が特徴的に産します。当時は暖かだったのでしょう。なお、このビカリアは種子島の茎永層からも産出します。
 その後、鮮新世~更新世にかけて、河川性~湖水性の地層が堆積します(右図)。東海層群や古琵琶湖層群・大阪層群などです。これを第二古瀬戸内湖と言います。東海地方から東西に流れて島原半島当たりで東シナ海にそそいでいた大河があったとする説もありました。鹿児島の永野層や国分層群は相当層とされています。
 産総研シームレス地質図基本版で永野層相当層「6 後期中新世-鮮新世(N3)の海成または非海成堆積岩類」と国分層群相当層「3 中期更新世(Q2)の海成または非海成堆積岩類」を時代だけで機械的に抽出してみましょう(色は目立つように原色とは変えてあります)。下の地質図を拡大してみてください。東は岐阜の東海層群から西は島原の口之津層群まで点々と散在しています。確かに、その後の浸食によって断片化したのでしょうが、それでも大きな河川あるいは大きな一連の湖があったとは思えません。恐らくローカルな地質条件によって形成されたのでしょう。憶測を言えば、島原地溝の形成と口之津層群が密接に関わっているように、引っ張り応力場で火山活動が引き起こされると共に、ローカルな堆積盆も形成されたのではないでしょうか。第一瀬戸内もサヌカイトで有名な二上山の火山活動と関わっているように思います。二上層群には植物化石も産します。
N3層(黄色)とQ2層(空色)の分布(産総研シームレス地質図基本版)
鹿児島リフトの鮮新~更新統(内村ほか,2014)
 鹿児島における第2古瀬戸内層群相当層も右の層序表で見られるように、火山活動と密接に関係しています。

 永野層および相当層

 鮮新世の永野層および郡山層は中期北薩火山岩類が活動した頃の湖成層です。内村ほか(2007)は珪藻化石を用いて、八重山周辺の詳細な層序学的研究を行いました。層相や化石群集から、比較的大きな湖の中心部に堆積したとしています。また、さまざまな火山岩が郡山層に貫入しています。火山活動が活発な時期の堆積物です。内村ほか(2014)は、これも鹿児島リフト(鹿児島地溝)のメンバーとしていますが、金鉱脈の形成時期(「薩摩の金脈」参照)と勘案すると、少し古いリフトだったのかも知れません。
郡山層石切場(薩摩川内市藤本)
郡山層から産出した木の葉化石(鹿大博物館)

 国分層群

国分層群の層序(西井上・大塚,1982)国分層群露頭(姶良市)
 国分層群はまさに鹿児島リフト内の浅海~汽水~淡水域に堆積した地層です。人によって定義はいろいろですが、西井上・大塚(1982)は、右図のように区分しています(数字は層厚m)。加治木層・蒲生層および隼人層は大型植物化石を多産します。なお、隼人層からは浅海性貝化石群集が豊富に産出します。はじめ淡水湖だったところに、だんだん海が侵入してきたのでしょう。Yamanaka et al.(2010)は、堆積物中の有機物の年代に基づいて、珪藻が湖沼生種から海生種へ入れ替わったのは1万3千年前頃と推定しました。なお、火砕流や安山岩類を頻繁に夾むことから、火山活動が活発な時期の地層です。恐らく鹿児島リフト形成初期のイベントを反映しているのでしょう。

文献:

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参考サイト:



初出日:2016/10/18
更新日:2020/09/12