肝属川の水収支
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肝属川水系における地下水の平面的流れ(文献4による) |
ところで、肝属川には不思議なことがあります。流域面積が485km2で、年間平均降水量は約2,800mmですが、年間蒸発散量を約300mmとみなしても、流出量が大きすぎて計算が合わないのです。斎藤・丸山(1976)によれば、昭和30~40年代の古い値ですが、降水量換算で10%程度違うそうです。
それはこの地域の地質構造が関わっています。地下水帯水層は、大隅降下軽石層を主体とする第1帯水層と、阿多火砕流下部付近の第2帯水層が認められます。この地下水が表流水に加わっているのではないかと考えられています。つまり、火砕流流下以前の古地形が示す地下水分水界と地表分水界が異なり、お隣の水系から地下水が肝属川に流入しているのだと考えられています。地質図をよく見ると、基盤をなす日向層群(日南層群)が残丘状に点々と顔を出しており、火砕流堆積物を剥いだ時の地形を暗示しています。
文献:
- 長谷川怜思・金子のぞみ・高橋 努・飯島康夫・西川順一(2003), シラス台地における水文地質構造と地下水流動機構. 日本応用地質学会研究発表会講演論文集2003. p.365-368.
- 桐野利彦(1988), 鹿児島県の歴史地理学的研究 : 桐野利彦歴史地理学論文集. 徳田屋書店, 518pp.
- 鹿児島県(2017), 肝属川水系河川整備計画【県管理区間】. 鹿児島県, 17pp.
- 国土交通省河川局(2006), 肝属川水系河川整備基本方針. 国土交通省, 23pp.
- 久保田富次郎・増本隆夫・松田周・古江広治(2005), 水質環境と水循環からみた笠野原台地の水文地質特性. 農工研技報, 203, p.81-100.
- 師岡文恵(2003), 肝属川水系の汚染と流動機構に関する一考察. 平成15年度国土交通省国土技術研究会
- 中川啓・籾井和朗・堀 貴迪・神野健二(2008), 肝属川流域における地下水涵養モデルの構築. 土木学会西部支部研究発表会論文集(2008.3), Ⅱ-034, p.233-234.
- 斎藤敬三・丸山裕一(1976), 肝属川水系の汚染と流動機構に関する一考察. 応用地質, Vol.17, No.2, p.1-10.
- 斎藤 敬三, 丸山 裕一(1976), 肝属川周辺の水理地質の研究. 応用地質, Vol.17, No.2, p.45-54.
- 高橋努・師岡文恵・井川寿之・山本晃・才田進(2003), 鹿児島県笠野原台地周辺の水文地質と地下水の硝酸性窒素汚染. 日本応用地質学会,平成15年度研究発表会講演論文集,p.365-368.
- 国土水循環モデル(地圏環境テクノロジー社)
初出日:2015/06/27
更新日:2020/11/28