鹿児島の地熱

 はじめに

各種発電のCO2排出量(資源エネルギー庁)地熱発電のしくみ(資源エネルギー庁)県内の地熱発電所(地質図は産総研)
 産業革命以来の化石燃料大量消費により、CO2が激増し、地球温暖化を招いていると言われています。また、2011年の東電福島原発の過酷事故もあり、再生可能エネルギーへの転換が喫緊の課題になっています。再生可能エネルギーには、水力・地熱・太陽光・風力・バイオマスなどいろいろありますが、わが国では水力発電所適地はほとんど造りつくされた感がありますので、最近では太陽光や風力が脚光を浴びています。しかし、これらは気象条件に左右されやすく、トータルCO2排出量も地熱の倍以上あります。そこで、火山列島日本にあって、無尽蔵にある地熱がベースロードエネルギー源として注目を集めているのです。
 原理は、深部の地熱貯留体から、蒸気と熱水からなる二相流を取り出し、セパレーターで蒸気だけ抽出、その蒸気でタービンを回して発電するのです。
 ただし、問題点もあります。パイプにスケールが沈着し、生産井を掘り直す必要があること、還元井で低温熱水を地層中に戻すため、温度低下が避けられないことです。こうした問題点を解決する技術革新が求められています。

 大霧発電所

大霧発電所B基地(日鉄鉱)地質構造(日鉄鉱)
 大霧発電所は、霧島山の銀湯地区にあり、1996年3月に運転開始しました。出力は30,000kWで約10,000世帯分の電力をまかなえます。1974年頃から国の地熱開発基礎調査が行われ、有望地と見なされていましたが、日鉄鉱業と新日鐵により、本格的に調査開発が始まったのは1979年のことです。浅部で銀湯断層を貫通した調査井からは優勢な地熱流体の噴出を見ました。その後、深部の地熱貯留体を求めて、新エネルギー総合開発機構(NEDO)による栗野・手洗地域地熱開発促進調査も実施されました。もちろん、こうした坑井掘削だけでなく、各種物理探査や流体包有物を用いた地温測定などさまざまな科学的研究調査も行われました。
 こうした調査により判明した地質構造は右図のようにまとめられます。基盤の四万十層群を第四紀更新世~現代の火山岩類および湖成堆積物が広く覆っています。この被覆層中に発達した銀湯断層をはじめとした東北東-西南西方向の割れ目に胚胎する断裂型貯留層と考えられています。

 山川発電所

山川発電所
スケール地質断面図(吉川・伊藤,1994)
 山川発電所は1995年に運転を開始した出力30,000kWの発電所です。1977年石油資源開発により地質調査が開始されました。基盤は鮮新世の南薩層群中部層および上部層で、そこに石英安山岩が貫入しています。それを更新世の山川層が覆っています。山川層は阿多カルデラ内に広く分布し、溶結凝灰岩・安山岩質凝灰岩・凝灰角礫岩・安山岩溶岩を主体とし、有孔虫化石を含む凝灰質泥岩を伴います。熱源は右図に示すように、石英安山岩の貫入体で、300℃を越える領域がかなり広範囲に分布しています。貯留層は山川層で、割れ目に富み比較的透水性のよい地層で、高温流体の起源は変質海水に天水起源の水が混合したものと考えられています。ただ、高温であるためにClなどの溶存物質の濃度が高く、さまざまなスケールの生成が起こっており、出力低下の原因となっています。現在では定格出力の60%程度になっているそうです。

 霧島国際ホテル

霧島国際ホテル バイナリー発電所
 霧島国際ホテルでは、豊富な温泉蒸気を使って2010年より100kwの自家地熱発電設備を稼動させ、ホテル電力使用の約1/4をまかなっています。最近では、低温熱水をアンモニア、ペンタン、フロンなど水よりも低沸点の熱媒体(低沸点流体)を、熱温水で沸騰させタービンを回して発電させるバイナリー発電(binary cycle)にも取り組んでいます。
 経済産業省では、国内にはバイナリー発電に適した地域が多いため、全国的に普及すれば、原発8基分に相当する電力を得ることが出来るとしています。

蛇足:
 鹿大応用地質学講座を創設された故露木利貞先生はご専門が温泉地質学でしたので、上記3つの発電所建設に関しては、学術面から貢献されました。NEDOの委員も務められていたはずです。

文献:

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参考サイト:



初出日:2016/08/08
更新日:2019/10/02