AIと地質調査
AI(人工知能)が将棋の名人に勝ったとか、AIによって自動運転が可能になったとか、果てはAIによって失業が発生するとか、最近AIが話題になっています。全地連では機関誌『地質と調査』で、小特集「AIで地質調査はどう変わるのか」を刊行しました。そこで少しご紹介しましょう。AI前史
ベイズ推論 | AIによる崩壊予測(岩松,1988) |
1980年代になると、エキスパートシステムが開発され、第二次AIブームが起きます。名人・大家と呼ばれている人たちの持つノウハウをヒアリングしてコンピュータに教え込もうとしたのです。工業技術院電総研でもコンピュータに常識を持たせるたり定性的判断をさせたりする研究が行われました。当時はバブル、土木建設や地質調査は3K(キケン・キツイ・キタナイ)職場と言われ、若者に敬遠されていましたので、地質調査ツールが真剣に検討されました。例えば、動燃事業団(現NUMO)はウラン探査のための評価エキスパートシェル「コギト」を開発しました。デカルトRené DescartesのCogito ergo sum「我思う、ゆえに我あり」のコギトです。岩松(1988)はこれを崩壊予測に応用しました(「1986年7・10災害」参照)。しかし、数学の推論理論の適用の域を出ず、コンピュータに常識を持たせることは至難の業でした。
第三次AIブーム
東ロボくんの代筆ロボット東ロボ手くん |
地質調査への適用例
地すべりコアの破砕度区分(西澤ほか,2020) |
予測結果の的中率(西澤ほか,2020) |
こうした機械学習、とくに教師あり学習に当たっては、当然のことながら教師データの質が決定的に影響します。また、自然は複雑で、現場では常にと言って良いぐらい想定外に出くわします。AIは前述のように「経験知の再利用」の域をなかなか脱していませんので、想定外の事象には一番弱いことを認識しておく必要があります。
文献
- 井田喜明(2019), 予測の科学はどう変わる? : 人工知能と地震・噴火・気象現象. 岩波科学ライブラリー, Vol.282, 117pp.
- 松尾 豊・中島秀之・西田豊明・溝口理一郎・長尾 真・堀 浩一・浅田 稔・松原 仁・武田英明・池上高志・山口高平・山川 宏・栗原 聡・人工知能学会(2016), 人工知能とは. , 近代科学社, 245pp.
- 西澤幸康・山内政也・谷川正志(2020), 地すべりの破砕度区分の深層学習による判定技術の研究. 地質と調査, No.155, p.18-21.
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参考サイト:
初出日:2020/05/03
更新日:2020/06/18