自然災害としての感染症ウイルス感染症と人類国内感染者数海外感染者数持続可能な社会最近の動向鹿児島県エピセンターSocial Distancingの経済効果その後の話題2回目の緊急事態宣言最後に

 コロナウイルスパンデミック

 自然災害としての感染症

 わが国では疫病を災害に分類しない人が多いようですが、江戸時代以前は疫病と虫害は厄介な災害の筆頭でした。京都祇園祭は貞観時代に都で流行った疫病の悪疫退散と貞観地震・津波を引き起こした地の霊を鎮めるために始まったと言われています。鹿児島の祭り「おぎおんさぁ」もその流れを汲んでいます(「鹿児島の祭・行事と災害」参照)。グローバル化が進んだ現代では、局地的風土病が他地域にも蔓延する危険は常に存在しますし、ウイルスが変異して猛威を振るい、人の移動に伴ってパンデミックpandemic(世界的大流行)を引き起こすこともあります。今回の新型コロナウイルス感染症もその典型例です。
 国際災害データベースEM-DATは自然災害を気象災害・地質災害・生物災害に3大別し、感染症は病虫害と共に生物災害に含めています(石,2018)。中世ヨーロッパの黒死病では総人口の3割~4割が死亡したと言われ、感染症は他の自然災害に比して、桁違いの人的被害を出します。近代医学の発達により等閑視されていますが、れっきとした災害であり軽視することは出来ません。

 ウイルス

ウイルスの構造新型コロナウイルス
エンベロープを持つウイルスの基本構造
①カプシド、②ウイルス核酸、③カプソマー、④ヌクレオカプシド、⑤ビリオン、⑥エンベロープ、⑦スパイクタンパク質(Wikipediaによる)
 2019年11月中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染症は、翌年1月感染が爆発的に拡大し、瞬く間に世界中に伝播、パンデミックを引き起こしました。恐らくコウモリから人間に感染したのではないか、と考えられているようです。中国ではさまざまな野生動物(中国語:野味yě wèi)bushmeatを食べる食文化があるからです。日本には鯨肉を食べる文化が、韓国には犬の肉を食べる食文化があります。文化の問題ですので一概にケシカランとも言えませんし、文化ゆえに禁止してもなかなかなくならないでしょう。
 それでは、ウイルスvirusとはどのようなものでしょうか。細菌bacterium, (pl)bacteriaとどう違うのでしょうか。細菌は1μm程度の単細胞からなる微生物ですが、ただし核がなくDNAが細胞膜内を漂っている原核生物です。しかし、栄養を摂取してエネルギーを生産していますし、自己複製能力を持っていますから、これでも立派な生物です(生物の定義にもよりますが)。一方のウイルスは、蛋白質からなる外殻capsidの内部に遺伝子(DNAかRNA)を持っただけの単純な構造をしています(コロナウイルスは1本鎖のRNAを持つウイルスで、2本鎖のDNAを持つタイプに比して変異しやすいタイプです)。種類によっては、さらに外側を脂質と糖蛋白からなる被膜envelopeが取り囲んでいます(注)。大きさは細菌よりもはるかに小さくnm(ナノメートル)オーダーです。自己増殖能力がありませんから、他の生物の細胞に入り込んで増殖するしか道はありません。つまり、他の個体に感染し続けることが生き残るための必須条件なのです。ウイルスが増殖し続けると宿主(しゅくしゅ)の細胞は死滅します。この点が厄介なところです。
 なお、同じ菌という字が付いているのに真菌fungusがあります。細菌よりやや大きく数μm程度で、チャンとした核がある真核生物です。カビや酵母などの総称で、お馴染みの水虫は白癬菌による疾病です。
(注) コロナウイルスは脂質のエンベロープに囲まれているタイプですから、石鹸やアルコールで脂質が壊されるので、手洗いが推奨されている理由です。

 感染症と人類

縄文時代のポリオ(国立科博)類聚符宣抄 第三 疾疫事(宮内庁書陵部)
 クリックして解説を読んでください。移動しながらドングリを採集していたと言われる時代(定住していても不安定な食糧に依存していた時代)、寝たきりの子を手厚く介護していたのです。大地の子・縄文人は優しかったのです。 『類聚符宣抄』は、平安中期、源経頼が著した公文書集です。天然痘の流行が天平7年(735)~長元9年(1036)に11回あったと列挙されています。30年弱の周期で繰り返し流行ったようです。
 ウイルスは非常に原始的なものですから、恐らく先カンブリア時代生命誕生と共に誕生したのでしょう。当然、ヒトもその誕生と共に影響を受けたと思われます。分かっているのでは新石器時代にまでさかのぼると言われています。インドやエジプトで見つかっています。日本でもポリオウイルスに冒された縄文人の人骨が発見されています。奈良~平安時代になると、都ができて人口が集中し、大陸との交流も盛んになりましたから、感染症は大いに流行しました。頻繁に遷都が行われた理由の一つに疫病蔓延もあったという説もあります。
 そんなに古くまでさかのぼらなくても、人類は何度もパンデミックを経験しています。『デカメロン』で有名な14世紀ヨーロッパの黒死病はペスト菌によるものでした(一説にはモンゴル軍がもたらしたとか)。16世紀新大陸発見の時期、南北アメリカ大陸の先住民が人口を急激に減らしたのも、一般に考えられているようなヨーロッパ人による大量虐殺ではなく、天然痘ウイルスやチフス菌などを持ち込んだため、免疫を持たない先住民がそれに感染したからだと言われています。大航海時代以降、ますます地球は狭くなり、交流が盛んになるに連れ、感染症の流行は繰り返し発生しています。万物の霊長も一番原始的なものには弱いのです。
 20世紀以降で言えば、次のようなものが挙げられます(段下げはパンデミックにまで至らないもの)。  もちろん、ワクチンなどが開発され対抗処置を執っていますが、ウイルス側も変異を重ね、新型が次々に登場していますし、中には耐性菌など厄介なものもあります。石(2018)は人類とウイルスとの果てしない軍拡競争と述べています。なお、天然痘は人類が克服した唯一のウイルスではないかと言われています。1796年エドワード・ジェンナーEdward Jennerが種痘法を開発したからです。以来世界中で実践され(日本では緒方洪庵が活躍しました)、1980年WHOは地球上からの天然痘根絶宣言を行いました。

 国内感染者数

府県名人口*4/24
感染者
厚労省
4/24
万人当
5/7
感染者
厚労省
5/18
感染者
厚労省
連休感染者
百万人当
(NHK)
北海道550.65621.0219281,01415.801
青森137.3220.1626270.000
岩手133.000000.000
宮城234.8840.35888880.000
秋田108.6160.14716160.000
山形116.9660.56569690.000
福島202.9660.32579810.493
茨城297.01570.5291681680.000
栃木200.8530.26454602.988
群馬200.81400.6971471470.000
埼玉719.57671.0669229917.922
千葉621.67681.2368429004.344
東京1,315.93,7472.8474,7775,06516.567
神奈川904.89121.0081,1451,27614.699
新潟237.4650.27478831.685
富山109.31631.4912202279.149
石川117.02221.89727528710.256
福井80.61201.4891221220.000
山梨86.3510.59156572.317
長野215.2670.31173761.394
岐阜208.11460.7021501500.000
静岡376.5590.15773730.000
愛知741.14740.644985061.484
三重185.5450.24345450.000
滋賀141.1930.65998991.417
京都263.62861.0853473584.173
大阪886.51,4481.6331,7131,7717.332
兵庫558.86051.0836797003.400
奈良140.1760.54289901.428
和歌山100.2520.51962630.998
鳥取58.930.051330.000
島根71.7160.22324240.000
岡山194.5200.10323251.028
広島286.11420.4961621660.350
山口145.1310.21437370.000
徳島78.550.064550.000
香川99.6280.28128280.000
愛媛143.1470.328487317.470
高知76.4710.92974740.000
福岡507.25841.1516526581.380
佐賀85.0320.37645472.353
長崎142.7160.11217170.000
熊本181.7430.23747480.550
大分119.7600.50160600.000
宮崎113.5170.1517170.000
鹿児島170.6100.05910100.000
沖縄139.31330.9551421420.000
連休前の感染者数(4/24)
(* 2018年e-stat推計人口:万人)
連休中の感染状況
(厚労省発表陽性者数)
百万人当たり感染者数
0.0~0.50.5~1.01.0~1.51.5~2.02.0~
1万人当たり感染者数(2020/04/24)
0.0~1.01.0~5.05.0~10.010.0~15.015.0~
連休中の感染状況(100万人当たり)
 2020年2月新型コロナウイルスはクルーズ船を通じて日本にも伝播しました。ちょうど東京五輪開催直前だったこと、中国習近平国家主席の国賓来日を控えていたことなど政治日程と絡んで初動が遅れました。東京五輪を完全な形で実施すると明言されると、このコロナ禍もたいしたことはないのかといった雰囲気になり、3月下旬の3連休にはお花見にドッと繰り出しました。これが引き金となって、大都市圏を中心に感染が爆発的に進行し、4月7日7都府県に緊急事態宣言が出される事態を招きました。16日には対象が全国に拡大しました。お隣の韓国はSARSなどの経験があったため、感染症爆発outbreakに対して心の備えが出来ていたこと、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)検査システムが整備されていたことなどがあって、日本よりも急激に感染が高まったにも関わらず、早期に収束を見ました。それに反し日本では、SARSやMERSを幸いにも免れたため、感染症に対する国民的認識や検査機器の準備などが遅れていました。結果として高い授業料を支払う羽目になりました。後述のように、諸外国では公権力を行使した封じ込め(都市封鎖lockdown)が行われています。日本は武力を使うわけにはいきません。国民全体の自主的な行動によってこのウイルスを克服し、民度の高さを証明したいものです。
 5月4日政府は緊急事態宣言の5月31日までの延長を決めました。ただし、13特定警戒都道府県(右表で着色)以外の34県では多少緩和を認めるようです。5月14日右表の赤色の8都道府県を除く39県で宣言が解除されました。5月21日、このうち関西2府1県が解除され、首都圏4都県と北海道だけ残されました。5月25日、政府は緊急事態宣言の全面解除を宣言しました。1ヶ月半で解除されたことになります。
 このウイルスの潜伏期間は10~14日だそうです。中を取って12日とします。大型連休は4月25日(土)~5月6日(水)の12日間ですから、この間に感染した人は12日後の5月7日~5月18日の陽性者数として表れると仮定してみます。これを人口で割れば(この人口も国勢調査ですから少し古いです)、連休期間中の自粛実行率とまでいかなくても自粛努力の傾向が分かるかも知れません。それが下の図です。もちろん、感染と検査判明との間には時間差もあるでしょうし、休日には休む検査機関もあります。そもそもちょうど12日後に発症するとは限りません。確率分布するはずです。流行の地域性もあります。こうしたさまざまな制約付きの数字です。まあ数字のお遊びですが。
 さて5月19日に結果が出ました。これをどう見れば良いのでしょうか。全国的に見れば、ロックダウンのような強硬措置を執らなかったにも関わらず、自粛要請だけでよく実行されたと思います。東京が多いのは当然として、北海道は第2波の感染がまだ収束していないのでしょう。愛媛県は院内感染が発生した例外事例です。
 5月10日厚労省は集計方法を変更しました。報告漏れや重複もあったようです。NHKは厚労省の修正発表を受け、過去に遡ってデータ訂正を行ったとのことですので、最後の欄はNHK発表の数字を使用することにします。NHK発表5月7日~5月18日間の新規感染者数を人口で割ったものです。

 海外感染者数

0~1万人1~3万人3~10万人10~30万人100万人~
累計感染者数(2020/05/20厚労省発表)
国別感染者数の推移(2020/05/21時点累積)(外務省)
国・地域感染者死亡者死亡率
米国1,527,72391,8726.0%
ロシア299,5042,8330.9%
ブラジル271,62817,9716.6%
英国248,81835,34114.2%
スペイン232,03727,77812.0%
イタリア226,69932,16914.2%
ドイツ177,7788,0814.5%
トルコ151,6154,1992.8%
フランス143,42728,02219.5%
イラン124,6037,1195.7%
インド101,1393,1633.1%
ペルー99,4832,9142.9%
中国82,9654,6345.6%
カナダ79,1015,9127.5%
サウジアラビア59,8543290.5%
ベルギー55,7919,10816.3%
メキシコ51,6335,33210.3%
チリ49,5795091.0%
オランダ44,2495,71512.9%
パキスタン43,9669392.1%
カタール35,606150.0%
エクアドル34,1512,8398.3%
ベラルーシ31,5081710.5%
スウェーデン30,7993,74312.2%
スイス30,5361,6135.3%
ポルトガル29,4321,2314.2%
シンガポール28,794220.1%
バングラデシュ25,1213491.4%
アラブ首長国連邦25,0632270.9%
アイルランド24,2511,5476.4%
ポーランド19,2689364.9%
ウクライナ18,8765482.9%
インドネシア18,4961,1916.4%
南アフリカ17,2002861.7%
ルーマニア17,1911,1076.4%
コロンビア16,9355743.4%
クウェート16,7641210.7%
イスラエル16,6592721.6%
日本16,3857714.7%
(2020/05/20厚労省発表)
 現代はグローバル社会ですから、中国に端を発したコロナ禍は瞬く間に世界中に飛び火しました。とくにヨーロッパとアメリカが深刻です。「これは戦争だ」と公権力を発動して長期にわたるロックダウンを行いましたが、多大な犠牲を払いました。とくにアメリカは2020年5月19日現在、150万人の感染者、9万人の死者を出し突出しています(JHUによる)。もちろん、アメリカは世界第3位の人口大国で、ヨーロッパ主要5ヶ国(英・独・仏・伊・西)の人口に匹敵することを考慮しなければなりません(もっともこの5ヶ国の感染者合計は100万人で、アメリカの2/3ですが)。それにしても、世界一の医学水準を誇るこの国で、しかも伝播が遅れて準備期間があったにも関わらず、このような事態に至ったことは不思議です。為政者が当初感染症のリスクを過小評価していたのでしょうか。日本のような国民皆保険がなく、貧富の格差と共に医療へのアクセスにも格差があることも大きな要因のようです。Johns Hopkins大学のCooper特別教授によれば、人種による罹患格差もあるそうです。在宅死の中に多くの感染者がおり、統計から漏れているとの報道もあります。5月28日、アメリカはついに感染者170万人、死者10万人を超えました。アメリカの人口は日本の2.6倍です。にもかかわらず、感染者数・死者数共に100倍を超える勘定になります。
 なお、国によって死亡率にもバラツキがあります。それぞれの国の医療事情や検査率などを反映しているのでしょうか(情報操作があるとの報道もありますが)。
 地図で見るように、東南アジアやアフリカなどの途上国で、まだ、それほど深刻な事態になっていません。しかし、遅かれ早かれ感染爆発が起こるでしょう。医療事情が悪い諸国ですから、悲惨な事態になることが予想されます。それが再び先進国へ跳ね返ってきて、波が何度も打ち寄せるような状況が生まれないとも限りません。世界的な連帯と途上国支援が求められていると思います。Gサイエンス学術会議共同声明(2020)も、「国際協力および情報共有は、まだ新型コロナウイルス感染症の本格的な影響を受けていないものの、公衆衛生や医療基盤が整っておらず、かつ社会情勢、経済状況、および衛生状態が疾患の急速な蔓延に対する極度の脆弱性と対応能力の低さを示している国や地域において特に重要になるだろう」と指摘しています。

 持続可能な社会

 前述のように、感染症は人類の発展と共に、姿形を変えて激烈の度を加えてきました。狩猟採集社会から農耕社会になり、定住と過密集落が生まれます。人と家畜が近接して暮らすようになり、動物からの感染の機会が増えました。中世の城郭都市も感染症の温床になりました。産業革命では、囲い込みenclosureなどを通じて農民を都市部に集めてプロレタリアートとし、機械制工場で働かせました。一極集中の誕生です。とくにスラムは微生物の培養器になりました。資本主義も社会主義も産業革命の生んだ双子の兄弟、富とパンを求めて競って工業化に狂奔しました。共に存立基盤は一極集中です。現代のグローバル社会は、それを局限まで追及します。2008年頃には世界人口のうち、都市人口が農村人口を上回り、2030年になると人口の70%が都市住民になるとか。人口圧や資源開発により動物の生息地だった熱帯雨林は伐採され、ためにウイルスは宿主を変え人に寄生場所を求めます。航空機など移動手段も発達、局地での発症があっという間にパンデミックを引き起こします。パンデミックの周期も短くなったような気もします。人口の高齢化も被害を大きくしています。それでは人類に未来はないのでしょうか。
Adresse aux Français(Emmanuel Macron)
 2020年5月4日、安倍首相は非常事態宣言の延長に当たり、「新しい日常を」と訴えました。当面の過ごし方に対する注意です。一方、4月13日フランスのマクロン大統領は、同じく外出制限措置の延長に関する演説の最後で、「その後の世界」は、社会正義と連帯の原則に基づいて、低炭素社会を追求しながら、「長期」にわたり築かれます、と将来を展望して締めくくりました。また、「この危機の中にチャンスがあります。それはわれわれの結束が再び強まり、人間性を発揮し、和合の精神をもって別のプロジェクトを築くこと。フランスのプロジェクトであり、共に生きる深い理由でもあります」とも述べました。
 マクロン氏は哲学をお持ちのようです。産業革命以来2世紀を超すエネルギー多消費型文明の根本転換を展望しているのでしょう。パンデミックは経済も大きく破壊します。感染症を生き抜いた人たちを、自己責任・自力更生の名の下、飢えで死なせるわけにはいきません。ポスト・コロナ時代は、格差社会ではなく、否応なく福祉社会を構想しなければならないのです。「和合の精神」を説く所以です。マクロン氏の言う通り、弱肉強食の強欲資本主義でもなく、20世紀型階級闘争でもなく、自然とも、そしてウイルスとも折り合いを付けながら、地方分散型の持続可能な社会を築いて行かなければならないと思います。なお、ポスト・コロナの資本主義を資本主義4.0、すなわち、SDGsを中心に据えた資本主義と呼ぶ人もいるようです(熊谷,2020)。
蛇足: 西洋史の故木村尚三郎東大名誉教授は世界史を総括して、「耕す文化」の時代を提唱されました。商業で栄えたオランダやポルトガルは、やがて歴史の表舞台から消えていきました。商品を右から左へ輸送し利ざやを稼いでいるだけでは何も富を生み出さないからです。それに対し、一貫して第一次産業である農業を大事にしてきたフランスは、今でも世界政治と文化の中枢にいます(木村,1988)。文化cultureの語源はラテン語のcultura(耕す)です。この教訓からセカンド・ルネサンスは第一次産業への回帰と主張しておられました。マクロン大統領の演説で、さすがフランスと思うと共に、木村先生の言を思い出しました。
 • 木村尚三郎(1988):「耕す文化」の時代―セカンド・ルネサンスの道,ダイヤモンド社,253pp.

 最近の動向

国内新規感染者数と死者数の推移(2020/12/31現在)(赤線:7日移動平均)
 緊急事態宣言が解除されて1ヶ月、その後どうなったでしょうか。自粛解除に伴い微増傾向にあり、6月28日時点で国内感染者18,522人、死者972人にのぼっています。第2波が警戒されています。7月14日午前零時現在では感染者数22,253人、死者984人です。数字だけで言えば、第1波のレベルに達しつつあります。7月22日、1日の感染者数が795人になり、緊急事態宣言発令時よりも多い過去最多という事態になりました。経済浮揚の起爆剤として企画されたGoToキャンペーンの初日だったことも皮肉です。その後も増え続け、第1波のピークより高い値を維持したまま、お盆休みに突入しました。政府は経済を心配してか、第2波とは認めようとはせず、自粛要請をしませんでしたので、潜伏期間後がどうなるか心配です。8月19日、日本感染症学会が開かれ、冒頭、理事長が「まさに今、第2波の真っただ中にいる」との見解を示しました。政府の態度に業を煮やしたのでしょう。お盆休みは都知事が都外への帰省自粛を訴えましたし、感染者数の高止まりを受けて、帰省はかなり抑制されましたので、感染者が地方に広まったものの、それほどの大事には至らなかったようです。秋に入りましたが、首都圏では100人台で推移しているものの、地方へ拡散、なかなかおさまりません。冬のインフルエンザ流行期と重なって、第3波が来るのでしょうか。11月中旬以降、上のグラフで見るように感染者数は第1波・第2波を上回り始めましたが、政府は有効な手立てを講じず、GoTo推進など経済重視政策を推し進めました。しかし、12月12日には、1日の感染者数としては過去最高の3,039人を記録します。12月14日、遂に総理がGoToトラベル事業を1月11日まで全国一斉に停止すると発表しました。経済にこだわり遅きに失したとは言え、年末年始の感染爆発がこれで避けられると良いのですが。12月 21日、国内感染者数が20万人を突破、翌22日には死者数も3000人を超えました。
国別感染者数の推移(2020/12/18時点累積)(外務省)
新規感染者数の推移(2020/12/31時点7日移動平均)(Johns Hopkins University)
0~10万人10~50万人50~100万人100~1000万人1000万人~
累計感染者数(2020/12/31厚労省発表)
 世界に目を転じると、日本時間6月29日午前6時時点で、遂に感染者数1,000万人、死者50万人を超えました。依然としてアメリカが第1位の250万人(死者12.5万人)です。6月に入ってこのところ連日のように過去最高の新規感染者数を記録しています。合衆国ですから、公衆衛生についての権限は大統領ではなく州政府にありますのでストレートではありませんが、大統領による時期尚早な規制解除ガイドラインの発表などの結果でしょう。右下の図で見るように、第1波が終息しないうちに手を緩めたため、ステップアップしてしまったのです。7月9日、アメリカは感染者300万人、死者13万人を超えました。何と言うことでしょう。 ブラジルが100万人を超え、急追しています。「コロナなど軽い風邪程度」と言う大統領による経済再開が原因のようです。第3位はロシア、これまた、経済優先の大統領が君臨しています。ニューヨークタイムズ(2020/06/07)によれば、ハーバード大学のジブラットDaniel Ziblat教授は、これらの人たちを「急進的な右派非自由主義ポピュリスト」と位置づけているそうです。どうも人災の様相を呈しているような気もします。縄文人の優しさに見習って欲しいものです。なお、7月6日、インドがロシアを抜いて3位の感染国になりました。7月25日、アメリカの感染者数は400万人を超え、死者数も14.6万人になりました。世界全体では感染者数1600万人、死者64万人を超えました。8月10日、アメリカの感染者数は500万人を超え、死者数も16.3万人になりました。僅か半月で100万人増えたことになります。こうなるともう唖然とするしかありません。世界では感染者数1974万人、死者数73万人です。感染増加のペースは速まっており、翌8月11日には世界で2000万人を超えました。死者は73.4万人です。Johns Hopkins大学の発表によると、9月1日午前3時、アメリカの感染者数は600万人を超え、死者数も18万人を超えました。世界の感染者数は2500万人、死者数は85万人です。上の世界地図で見るように、5月時点に比べて、東欧やアフリカに感染国が広まっています。9月25日、アメリカの感染者数は700万人を超え、死者数も22日に20万人を超えました。なお、世界ではインドがブラジルを抜き第2位になっています。9月29日、世界の死者数が100万人に達しました。感染者数は3327万人です。新興国で死者数増に歯止めがかかっていません。9月16日、アメリカは感染者数800万人を超え、死者も21.8万人に達しました。10月31日、アメリカの感染者数は900万人を突破しました。死者も23万人です。11月10日、アメリカは遂に1000万人に達しました。他国のように一旦終息せず、階段状にステップアップして激烈の度を増し、今は第3波の真っ最中のようです。12月15日、アメリカの死者は30万人を突破しました(感染者数は1642万人)。人口3億人ですから、1,000人に1人亡くなったことになります。日本の人口は1億2千万人、その割合でいけば12万人、ちょうど霧島市クラスの地方都市が無人になった勘定になります(日本の死者は、累計2,649人)。なお、第二次世界大戦時の米軍戦死者数は29万人余だそうです。これを大きく上回っています。

 鹿児島県

鹿児島県新規感染者数の推移(2020/12/31現在)
0人1~9人10~49人50~99人100人~
市町村別累計感染者数(2020/12/31現在)(コロナ印はクラスター発生自治体)
市町村感染者
鹿児島市430
出水市31
伊佐市1
さつま町2
薩摩川内市15
いちき串木野市19
日置市22
姶良市34
霧島市23
南九州市8
南さつま市5
枕崎市11
指宿市72
垂水市10
鹿屋市72
曽於市3
志布志市16
大崎町2
東串良町1
錦江町1
南大隅町4
西之表市1
屋久島町10
奄美市9
龍郷町1
瀬戸内町8
喜界町3
天城町4
徳之島町48
伊仙町12
和泊町3
与論町111
非公開2
着色はクラスター発生
(2020/12/31現在)
 コロナ禍の圏外と思われていた鹿児島県でも、県域を越えた移動が自由になったからか、7月2日鹿児島市天文館のショーパブでクラスターが発生、従業員や客から感染連鎖が起きて、瞬く間に県下一円に100人を超す感染者が発生しました。3次感染まで起きています。新型コロナウイルスの感染力が大きいことを示しています。
 7月18日にも鹿児島市内介護事業所で2例目のクラスターが発生しています。7月22日になると離島に飛び火、与論島でも3例目のクラスターが発生したようです。結局、7月31日現在、鹿児島県内居住者の感染者数は247人で、そのうちの127人は鹿児島市在住です。ここでも一極集中の弊害が出ています。鹿児島県民の3人に1人は鹿児島市民なのです。
年代別感染者比率
 7月31日鹿児島市の高齢者施設でまたもやクラスターが発生したそうです。市内3例目です。8月15日指宿市の病院で鹿児島県5番目のクラスターが発生しました。9月21日現在、鹿児島県の感染者は378人、死亡者は12人です。9月22日、鹿児島市山之口町のクラブで鹿児島県6番目のクラスターが発生しました。11月1日、鹿児島市の高齢者施設で鹿児島県7番目のクラスターが発生しました。11月5日、与論町のパブで鹿児島県8番目のクラスターが発生しました。11月16日、残念ながら鹿児島大学のサークル活動でクラスターが発生、14名の学生が感染しました。鹿児島県9番目のクラスターです。さらにこれから感染者が広がることでしょう。12月7日、徳之島町で鹿児島県10番目のクラスターが発生しました。2つの飲食店が感染源のようです。12月9日、出水市の高校で鹿児島県11例目のクラスターが発生しました。翌12月10日、鹿児島市の接待を伴う飲食店で12例目のクラスターが発生しました。12月14日には、鹿屋体育大学のサークル活動でも県下13例目のクラスターが発生しました。12月24日、霧島市の第一中学・高校の部活動で14例目のクラスターが発生しました。12月26日には、鹿屋市の中華料理店で15例目のクラスターが発生しました。12月31日、姶良市の病院で16例目のクラスターが発生しました。
 感染者を年代別に見ると、やはり行動範囲の広い20代~40代の若者が半数を占めていますが、秋以降高齢者の割合が増えているようです。高齢者は重症化しやすいので心配です。しかし、高齢者の絶対数は増えているのですが、右図に示すように、割合からすると逆に減っています。相変わらず若者対策が重要なことを示しています。
 今までの傾向を見ると、県都鹿児島市とその周辺都市群に感染者が集中していますが、秋口からは観光客が多く訪れる奄美諸島でもじわじわと感染が進んでいます。
<注> 上の棒グラフは鹿児島県の保健所で感染を確認した人の数です。旅行者など県外居住者も含まれます。表と地図は県内居住者ですから、少し違います。
クラスター自治体施設感染者数クラスター自治体施設感染者数
1鹿児島市飲食店11616姶良市病院13
2鹿児島市介護917南大隅町保育園14
3鹿児島市高齢者施設1518鹿児島市親族14
4与論町飲食店5619 肝付町介護施設11
5指宿市病院5820垂水市介護施設62
6鹿児島市飲食店3521阿久根市宿舎13
7鹿児島市高齢者施設1522鹿児島市介護施設11
8与論町飲食店5723鹿屋市病院16
9鹿児島市鹿大2524鹿児島市病院5
10徳之島町飲食店6425指宿市職場宿舎8
11出水市高校2826鹿児島市病院35
12鹿児島市飲食店54
13鹿屋市体育大19
14霧島市高校9
15鹿屋市飲食店41
(2021/02/26現在)
感染症指定医療機関
:第1種,:第2種)
 2021年に入って早々、1月3日南大隅町の保育園で鹿児島県17例目のクラスターが発生しました。1月9日には鹿児島市の親族同士で鹿児島県18例目のクラスターが発生しました。30人弱で新年会を開いていたのだそうです。1月13日には肝付町の介護施設で鹿児島県19例目のクラスターが発生しました。90歳以上のご長寿の方が複数感染されたそうで、誠にお気の毒です。重症にならないよう祈っています。1月20日、残念ながら垂水市の介護施設でも県下20例目のクラスターが発生、入居者や職員など39人の感染が確認されました。やはりご長寿の方が含まれています。1月21日、阿久根市の自動車学校宿舎でクラスターが発生した模様です。県外からの宿泊教習生の間で広まったのだとか。1月22日、鹿児島市の介護施設で県下22例目のクラスターが発生しました。1月31日、鹿屋市の病院で県下23例目のクラスターが発生しました。2月10日、鹿児島市の病院で県下24例目、指宿市の職場宿舎で25例目のクラスターが発生したようです。2月12日、26例目のクラスターが鹿児島医療センターで発生していたと発表されました。国立の高度医療機関にも及んだことになります。
 首都圏など大都会では、重症患者の増大により、医療体制が逼迫し、入院待ちで自宅待機中、容態急変して死亡するケースも発生しているようです。鹿児島県の感染症指定医療機関を図示します。2019年時点で、感染症病床数は合計僅か45床です。これは平時の準備状況なのでしょうから、現在は違うとは思いますが。マーカーをクリックすると、名称がポップアップします。

 エピセンター

震源と震央(Wikipediaによる)
 7月16日、参議院予算委員会における新型コロナウイルスの閉会中審査で、エピセンターepicenter(震央)なる地学用語が登場し、少々ビックリしました。発言者は東大先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授です。日本に最初に武漢型が、次いでヨーロッパ型が入ってきてそれぞれ波紋を広げました。もはやこんな生易しい段階ではなく、ウイルスは変異して「東京型」「埼玉型」とでも呼べるような状態になり、初期の武漢のように東京が新たな震源地になるのではないかと、児玉先生は危惧しておられるようです。池に一石を投じてさざ波が立つ状況ではなく、池の真ん中に湧き水がこんこんと湧き出すような状況だと心配しておられるのでしょう。それをエピセンターと表現されたのです。政府は感染予防と経済の両立と口では言いつつ、明らかに経済に軸足を移しつつあるようですが、本当にこれで良いのでしょうか。短期決戦ではなく、長期戦にもつれ込めば、経済的ダメージは短期決戦よりもトータルとしてははるかに大きくなるような気もしますが。
 7月末になって、感染者数は各地で過去最高を記録し始め、数字から言えば明らかに第2波と言って良い状況です(「最近の動向」参照)。しかし、政府は第2波と認め、緊急事態宣言を出そうとしていません。第1波に比べて、PCR検査数増に伴う効果が含まれていること、感染者が若年層に多く無症状や軽症の人が多いこと、重症者や死者が少ないことなどが理由のようです。もしかするとウイルスも変異して、感染率を高め、一方で致死率を下げるという生存戦略に切り替えたのでしょうか。まさにエピセンターの出現ですが、本当はどうなのでしょうか。重症者・死者が少ないのは、医療者の献身的な奮闘で抑えられているだけで、ウイルス自体の致死率が下がったと言えるかどうか、気になるところです。遺伝子解析が進めば分かることでしょう。
<注> Epicenterの一般的な用例としては原爆の「爆心地」などとして使われることが多いようです。

 Social Distancingの経済効果

各種対応策による救命価値(Yoo & Managi,2020)
 現在、日本はお盆の真っ最中です。例年ならお盆帰省の民族大移動が起きているはずですが、今年は様変わりです。都知事は都外への帰省や旅行を控えるよう訴えているのに対し、首相は一律に自粛を要請するものではないとして、ソーシャルディスタンスsocial distancingを取ること(いわゆる3密を防ぐ行動)が前提と述べ、GoToキャンペーンも中止するつもりはないとの姿勢です。感染防止と経済維持の両立で苦慮しているのでしょう。世界観・価値観の問題かも知れませんが、最終的には命の価値をどう見積もるかにたどり着きます。「1人の命は地球より重い」という命題から見ると不遜の感を抱かれる向きがあるかも知れませんが、統計的生命価値を導入した研究をご紹介します。
 経済指標としてよく用いられるのがGDPです。これは人工資本を用いて生み出された付加価値の総額ですから、人的資本や自然資本は考慮されていません。そこでSDGsを推進している国連では、これら3つの資本を新国富(Inclusive Wealth:包括的富)と捉え、新国富指標を用いています。Yoo & Managi(2020)も人間の命を人的資本と捉え、この新国富を前提として、ソーシャルディスタンス・巣ごもり・休校・隔離など各種対策を講じた場合と、何もせず集団免疫に任せた場合とで死亡率を割り出し、生命価値を算出しました。その結果、対策を取れば、世界全体で4,391兆円に相当する生命を救うことが可能としました。これは世界全体のGDPの約47%に相当します。日本の例では567兆円相当の生命価値を守ることができ、GDPの106%に当たります。この567兆円で人的資本の損失を防げるのですから、一律給付で考えると、1人当たり450万円を給付してもペイすることになります。栗田・馬奈木(2020)は、これを国債発行で捻出し、命を救われた人たちが未来において経済に貢献すればファイナンス可能と提案しています。

 その後の話題

 新型コロナウイルスは変異で感染力アップ
 東大医科研やノースカロライナ大などの研究グループは、新型コロナウイルスが変異により従来型よりも飛沫感染しやすくなったことを動物実験で確かめたそうです。Science 11月12日号電子版に掲載されました。それによると、試験管内の実験では、細胞侵入能力が3~8倍高かったとのことです。一方で、感染したハムスターの症状には差がなく、従来型をもとに開発したワクチンでも同等の効果が期待できるそうです。
 超高感度検査装置開発
 鹿大発ベンチャーのスディックスバイオテック(鹿大VBL内:社長は隅田鹿大工学部教授)と澁谷工業(金沢市)は、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスA型およびB型の3種を同時に唾液で診断できるPCR検査装置を共同開発しました。約20分と短時間で結果が判明するのも特徴です。2020年11月11日、この検査キットが保険適用になったと発表しました。年内には発売されるそうです。
 イギリスと南アフリカで変異種出現
 2020年12月20日、イギリスでウイルスの変異種が出現したそうです。感染力が強く猛威を振るっています。また、南アフリカでも変異種が見つかっています。グローバル時代、両方の変異種とも、早くも日本の検疫で発見されています。その後、ブラジル型も見つかっています。
 GoToトラベルキャンペーンが感染者増に影響との論文
感染者の年齢別時間別分布(Anzai & Nishiura, 2021)
 GoToトラベル政策が感染者増に影響したとの京大グループの論文が国際的医学雑誌に掲載されました(Anzai & Nishiura, 2021)。昨2020年5月~8月の感染者4000人を分析したところ、そのうち20%が旅行関連で、キャンペーンが始まった7月22日からの5日間では、その前の5日間と比べて1.44倍高かったそうです。

<お断り> 数字の更新は2020年大晦日をもってお終いとします。申し訳ありません。
 大晦日現在の状況は以下の通りです。
 世 界日本鹿児島
感染者数82,708,280235,7521,016
死者数1,805,0083,49214

 2回目の緊急事態宣言

鹿児島県感染状況
(2021/02/28現在)
市町村名感染者数
鹿児島市781
出水市38
阿久根市1
伊佐市2
湧水町1
さつま町2
薩摩川内市28
いちき串木野市24
日置市31
姶良市73
霧島市81
南九州市8
南さつま市11
枕崎市11
指宿市84
垂水市69
鹿屋市131
曽於市28
志布志市25
大崎町8
東串良町3
肝付町12
錦江町6
南大隅町8
西之表市2
屋久島町10
奄美市28
龍郷町1
瀬戸内町9
喜界町3
天城町4
徳之島町49
伊仙町12
和泊町3
与論町112
非公開3
0人1人~10人~50人~100人~500人~
市町村別累計感染者数(2021/02/28現在)
※ 円の半径∝感染者数×100m(50人以上)
※ 全県を見るには、右上の両矢印で全画面表示
 もうこのページの更新を止めるつもりでしたが、明1月8日から2月7日まで、首都圏の1都3県に対して2回目の緊急事態宣言が出される事態になりましたので、追加することにします。感染症との闘いは最初が肝心です。初期の段階で徹底的に叩いて封じ込めることが、もっとも経済的なダメージを少なくする道です。ダラダラとした長期戦になると、経済的な損失は著しく増大します。経済に配慮するあまり、GoToキャンペーンなど逆にアクセルを踏みましたから、感染爆発への道をたどりつつあります。昨年の1日新規感染者数の最高は大晦日の4250人でしたが、正月休み明けには記録更新が相次ぎ、7500人を突破しました。東京オリンピックすら危うくなってきました。特徴は、地方でも各地で過去最高を記録していることです。首都圏を中心とする大都市圏で感染が広がっていますので、人の往来が活発になると、地方へ波及します。実際、鹿児島県では、2021年1月1日~6日間の感染者114人のうち県外者が17名も含まれており、そのほとんどが首都圏・中京圏・阪神圏です。
 深刻な事態は首都圏だけではありません。1月9日には阪神3府県の知事が国に対して緊急事態宣言発令の検討を要請しました。中京圏も追随するようです。これに対し、政府は慎重に検討するとの姿勢です。その後も栃木や福岡から宣言発出要請の声が上がり、1月13日、地方の声に押されて、政府は大阪・京都・兵庫・愛知・岐阜・福岡・栃木の7府県にも追加して緊急事態宣言を発令しました。「緊急」と銘打っているのに、後手後手にシブシブ部分的に出していますから、国民には危機感が伝わらず、都会での人出は1回目の宣言発出時に比してかなり多いとの報道があります。
 1月22日、鹿児島県は、県の警戒基準をステージ3(感染者急増)に引き上げ、新たに2月7日まで「感染拡大警報」を発令しました。介護施設等で、高齢者の感染が続いているので、危機感を抱いているのでしょう。
 目を世界に転じると、1月20日、アメリカの死者は40万人を超えました。この1ヶ月あまりで10万人が死亡したことになります。イギリス型変異株も猛威を振るっているようです。全世界では、感染者数は9600万人、死者200万人に達しています。1月27日、世界の感染者数が1億人を超え、死者数は216万人に達しました。なお、1位のアメリカは感染者2544万人、死者42.5万人で、日本は感染者37.2万人、死者5298人です。やはり途上国にしわ寄せが行っているようです。
 2月2日、政府は緊急事態宣言の1ヶ月延長を決定しました。栃木県を除く10都府県が対象です。宣言の効果が出て、感染者数は緩やかな減少傾向にありますが、最近は高齢者の感染も多く、そのため重症者も増え、入院期間も長引いています。結果として医療体制がひっ迫し、医療崩壊寸前の状況にあります。また、残念ながら死亡者も増えています。今年に入ってから1日の死者数が100人を超す日がしばしばあります。第2波の時か、せめて第3波の初期段階で宣言を発出していたらと悔やまれます。長引いたため、経済的打撃も深刻になっています。
 2月16日、鹿児島県の発表によると、2月下旬の感染者の中にイギリス型変異株に3人感染していたことが分かったそうです。

 最後に

鹿児島県年代別感染者の割合(1/01-2/28)鹿児島県市町村別人口と感染者数(~2021/02/28)
 緊急事態宣言の効果が出て感染者数は緩やかに減少しています。関西の知事さんたちから宣言解除要請が出され、2月末日には期限の3月7日を待たず、首都圏の1都3県を除いて、宣言が解除されるそうです。でもまだ再燃する火種は残っているような気もします。しかし、いつまでも数字をフォローするのも大変ですから、2月末日をもって止めたいと思います。右の年代別感染割合を、上記昨年夏に比べて見てください。高齢者の割合が増えています。90歳以上の長寿者も相当数含まれるのは、介護施設でのクラスター発生が原因です。人口と感染者数との関係を見ると、平均線の上に出ている市町村は、やはりクラスターが発生したところです。
 2月28日現在の状況は以下の通りです。昨年大晦日の数字と比較してください。急増ぶりがおわかりかと思います。
 世 界アメリカインドブラジル日本鹿児島
感染者数113,784,73528,554,46511,096,73110,517,232432,7201,761
死者数2,525,401511,994157,051254,2217,89726
 ※ 世界:28日15時時点,日本:28日23時59分時点,鹿児島:28日17時時点

文献
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  5. 飯島 渉(2018), 感染症と私たちの歴史・これから. 清水書院, 89pp.
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参考サイト:



初出日:2020/04/28
更新日:2021/03/01