四万十帯の重力式ダム

 付加体の地質工学的諸問題

四万十層群中の砂岩レンズ四万十層群中の鏡肌
 鹿児島県内で一番広く分布している古期岩類は四万十帯、すなわち白亜紀付加体です。周知のように付加体は、プレートの沈み込みに伴って、海洋プレート上面の遠洋堆積物や海山が付加した地質体です。整然と整層した部分(整然層)もありますが、基本的には泥質基質の中に砂岩・石灰岩・緑色岩などがレンズ状ブロックとして乱雑に混在した岩石です(メランジュ・混在岩層・乱雑層)。したがって、地層の連続性が悪い、沈み込みに関連した断層を伴う、基質にしばしば片状構造や鏡肌が発達するなど、問題点も多々あります。一方で白亜系ですから固結も進み、一定の強度を有する硬岩でもあります。慎重な岩盤分類と工学的対処を行えば、構造物を設計建設することは可能です。

 輝北ダム

産総研シームレス地質図輝北ダム計画図(農水省九州農政局)
輝北ダム全景輝北ダムダム軸の地質輝北ダムの岩盤
 輝北ダムは農水省が国営かんがい排水事業の一環として進めた農業用利水ダムです。地質図に示すようにシラスの分布域ですが、基盤には四万十層群が広く分布します。中岳ダムのように深部まで風化していないので、重力ダムが計画されました(ちなみに中岳ダムはロックフィルダム)。写真はダム軸の岩盤です。新鮮な泥質メランジュ層からなります。いくつかの断層も見られます。一方、池敷(貯水域)にはシラスが分布しますので、湛水に伴ってシラス崩壊が発生する恐れがありますから、法面対策工も行われました。

文献:

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参考サイト:



初出日:2017/04/07
更新日:2020/12/01