鹿児島の骨材資源<蛇足>ローマン・コンクリートと火山灰

 鹿児島の骨材資源

1970年建設の県立鴨池球場
 現代はコンクリート文明と言われています。建築物にしても土木構造物にしても、コンクリートが欠かせない時代です。周知のように、コンクリートはセメントに砂利(粗骨材)と砂(細骨材)と水を混ぜて作ります。セメントは大規模な高温焼成炉が必要ですから、工場で生産されますが、骨材は単価を安くするため、消費地の近くで調達されます。粗骨材・細骨材の地質条件については、かだいおうち「骨材資源」をご覧ください。
 もっとも望ましい骨材は川砂・川砂利ですが、高度成長期に取り尽くされ、やむなく海砂が使われるようになりました。しかし、海砂はよく洗浄しないと塩分が鉄筋を腐食するので問題が発生します。粗骨材も砕石が使われるようになりました。砂岩が望ましいのですが、九州のような火山地帯では火山岩を使わざるを得ない地理的条件にあります。アルカリ骨材反応が発生する可能性があります。東海道新幹線よりずっと後に建設された山陽新幹線でトンネル壁の崩落事故が先に発生しましたし、鹿大理学部1号館より後に建設された2号館からメンテナンスが始まりました。こうした事情があったのです。また、環境問題がクローズアップされてきましたから、骨材採取には厳しい制約が課せられるようになっています。レアメタルなどの資源安保が話題になっていますが、骨材でも資源制約が問題になっています。
 では鹿児島県ではどうでしょうか。右の写真は1970年に建設された県立鴨池球場です。当時は海砂が使われていました。鹿児島には大河がありませんから、それほど多量の川砂はありません。大河がないということは広い段丘や広い扇状地もないということも意味します。段丘堆積物や扇状地堆積物にあまり期待できないのです。吹上や志布志には大きな砂丘はあるものの、後背地がシラス地帯のため、火山ガラスが混じり、花崗岩地帯の白砂青松のような石英粒に富む良好な砂に比べれば、若干品質が劣ります。それに父祖が営々と植林してきた飛砂防止林を開発するのも問題です。それで海砂が使われたのでしょう。
 砕石は主として四万十層群の砂岩と稀に緑色岩、および新第三紀の安山岩が使われています。しかし、鹿児島は火山国、地表を分厚いテフラが覆っているため、それの排土作業が必要になり、余分なコストがかかりますから条件はあまり良くありません。
鹿児島県の地質と砂利産地(須藤,2005)鹿児島県の地質と砕石産地(須藤,2005)
鹿児島県島嶼部の地質と骨材産地(須藤,2005)鹿児島県のコンクリート用骨材生産推移(須藤,2005)

<蛇足> ローマン・コンクリートと火山灰

ローマのコロッセオ(円形闘技場)
PozzuoliとVesuvio火山
 現代文明をコンクリート文明と称することがあるように、産業革命以来多用されてきましたから、コンクリートは近代科学の産物だと考えられがちですが、実は古代から使われてきました。数千年前の遺蹟から消石灰Ca(OH)2を混ぜて作った床などが発掘されているようですが、大々的にインフラ建設のために使われたのはローマ時代に入ってからです。ギリシア建築は壮大な石造建築です。巨石を扱うには熟練した匠の技が必要ですから、神殿など重要建築物が優先されます。それに対し、コンクリートは兵士や奴隷でも容易に扱えます。水道や浴場、闘技場など庶民も使う広範なインフラの建設に頻用され、ローマ帝国の繁栄に大きな役割を果たしました。それではローマン・コンクリートとはどのようなものでしょうか。
 周知のようにコンクリートは、骨材(砂・砂利)を結合材(セメント・石灰・石膏・アスファルトなど)と一緒に水で混ぜて固めますが、さらにフライアッシュfly ashなどの混和材も混ぜて品質の向上を図ります。ローマン・コンクリートは、結合材としては、山岳地帯に多産する石灰石を焼いて作った石灰CaOを用いたようです。現在のコンクリートと一番違う点は混和剤としてナポリ近郊のPozzuoli周辺に産する火山灰pozzolana(Pozzuoliの塵)を用いることでしょう。これを石灰と混ぜると水中でも固化しますし(水硬性)、ゆっくりではありますが耐久性が増していきます。コンクリート工学では、ポゾラン反応pozzolanic activityと言うそうですが、pozzolanaが語源です。この高耐久性により、ローマ時代の建築物は2000年も持っているのです。現代コンクリートの寿命は高々100年と言われていますから、恐るべきです。ただし、現代コンクリート建築はほぼ全て鉄筋コンクリートですから、この寿命は鉄筋の腐食劣化によるもので、コンクリート自体の寿命ではありません。
 建築方法は、レンガ等で型枠を作り、その中に先ずモルタルを注ぎ、その後、骨材を投入します。骨材は自重で沈んで行きますから、自然と馴染みます。型枠はそのまま外壁として利用します。もちろん、ドームの天井などでは木製型枠を使用し、コンクリート養生後は取り外しました。蛇足の蛇足ですが、ドーム天井部では骨材として軽石も使ったそうです。
 鹿児島大学工学部海洋土木工学科では、シラスコンクリートを開発しています(「温泉変質帯での架橋」参照)。地元産の材料を活用して革新的な新素材を開発する点では、ローマン・コンクリートの精神を受け継いでいます。
 ところで最近、ジオポリマーgeopolymerなる言葉が建設業界で流行っています。Polymerは高分子化合物のことですから、これにgeo-が付くのはどんなものでしょうか。ジオポリマーはアルミナシリカの粉末とアルカリ溶液を混合して作られるもので、セメントを用いずコンクリートと同等の物性をもつ固化体を形成することができるのだそうです。セメントは製造時に大きな電力を使いますから、低炭素社会実現にとっては問題です。その点、ジオポリマーコンクリートは、製造時にCO2排出量が少なく、耐火性・耐酸性に優れている上、アルカリシリカ反応を抑制できるため、劣化抑止にもなるそうです。材料科学にもgeo-なる語が進出してきました。地学分野の方々もこうした材料方面にももっと挑戦して欲しいものです。

文献:
  1. 小林一輔(2019), コンクリートの文明誌. 岩波書店, 266pp.
  2. 須藤定久(2001), 日本の砕石資源. 日本砕石協会. 217pp.
  3. 須藤定久(2002), 日本の骨材資源. 砂利時報. Vol.49, No.12, p2-6/
  4. 須藤定久(2005), 九州・沖縄地方各県の骨材資源. 産業技術総合研究所骨材資源調査報告書(平成16年度). p.1-49.
  5. 須藤定久(2005), 九州・沖縄周辺海域の海砂利. 産業技術総合研究所骨材資源調査報告書(平成16年度). p.50-54.
  6. 須藤定久(1998), 日本の砂利資源(その4)-九州地方の砂利資源-, 骨材資源, Vol.30, No.119,p.186-195.
  7. 武若耕司(2012), 九州地区で検討中のコンクリート用細骨材の代替素材について―シラスの利用を中心として―. シラス産業おこし企業ガイドブック. 鹿児島県工業技術センター, p.59-65.
  8. 武若耕司・久見順一(1990), しらすコンクリートの施工性能に関する実験的検討. 土木学会西部支部研究発表会, V-32, p.648-649.
  9. 武若耕司(2007), シラスコンクリートの特徴―鹿児島県制定マニュアルの内容を基にして―. コンクリート工学. Vol.45, No.2, p.16-23.
  10. (), . . Vol., No., p..
参考サイト


初出日:2015/09/28
更新日:2020/11/11