原子力防災

原子力災害は自然災害ではありませんが、一応、ここに置いておきます。

 東電福島第一原発事故

福島事故の放射性物質飛散図(早川,2012)
 2011年の東北地方太平洋沖地震は甚大な津波被害をもたらしましたが、同時に、東電福島第一原発の過酷事故を誘発し、現在でも多数の方々が長期の避難を余儀なくされています。第一の要因は地震により主力電源が喪失した後、非常用電源が置いてあった地下室に津波が侵入し、全電源喪失に至ったことです。1993年鹿児島豪雨災害(いわゆる8・6水害)でも、地下室の非常用電源が失われた病院や事業所がありました。重い機械室を高層階に置くのは建物の重心が高くなるとして、建築屋さんは嫌いますが、8・6水害の経験などもっと学んでもらいたいものです。もっとも福島原発では、津波がくる前に地震で配管などが破損したのではないか、との説もあるようです。
 政府・東電の最初の対応は、同心円に基づいて住民を避難させるもので、気象条件を加味したSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)を使用しませんでした。しかし、結果は、早川(2012)の図が示すように、放射性物質は北北西の風に乗って、飯館村方向に流れました。
 鹿児島には九電川内原発があります。前車の轍を踏みたくないものです。

<注> もちろん、日本列島上空には偏西風が常に吹いていますから、放射性物質の多くは、太平洋のほうに流れました。右のYou tubeをご覧ください。

 加圧水型炉(PWR)と沸騰水型炉(BWR)

原子力発電所のタイプ(原子力規制庁による)
 福島原発と川内原発は、右図に示すように発電様式が根本的に違います。前者は沸騰水型(BWR)に対して、後者は加圧水型(PWR)です。どこが違う点かを列挙すると、下記のようになります。  以上は電気事業者の言い分ですが、恐らくメリット・デメリット両方あるのでしょう。

 川内原発避難計画

薩摩川内市避難計画(市役所HPによる)
 薩摩川内市では原発から半径5km圏内をPAZ(precautionary action zone予防的防護措置を準備する区域)、30km圏内をUPZ(urgent protective action planning zone緊急時防護措置を準備する区域)として分け、福島と同じような同心円の発想のようです。PAZの住民には、既に安定ヨウ素剤が配付されており、事故が発生したら予防的に先行避難させる予定とのことです。一方、UPZの方は当面屋内待機で、その後の放射線量によっては避難といった、2段階作戦をお考えのようです。
 また、PAZ圏内の医療機関および社会福祉施設の避難先は、姶良市の1病院を除き、すべて鹿児島市の関連施設(病院・老人ホーム等)となっていますし、PAZ圏内の4集落住民の避難先も、すべて鹿児島市内にある宝山ホールなど4施設が指定されています。確かに県都鹿児島には設備の充実した医療施設などが集中していますが、日本列島はアジアモンスーン帯に位置し、常に偏西風が吹いています。鹿児島は後述のように、風下になる確率が高いのです(福島原発から40kmの飯館村に比定される位置にあります)。想定外を想定して準備をしておくのが防災です。熊本県等と自治体の縦割りを越えた支援協定を結んでおく必要があるのではないでしょうか。

 動的避難マップ

薩摩川内市の風配図(原子力規制庁,2012)
富士山溶岩流(富士宮市の場合)(国交省)鹿児島市の風配図(bionet.jpによる) 寄田砂丘
動的避難マップの例(青山ほか,1994に加筆)
 火山噴火では、火口が山体のどこに出来るかで、溶岩や火砕流の流れる方向はまったく異なります。同心円では役に立ちません。そこで、富士山などでは、どこに火口が出来たら、どこへ溶岩流が到達するのかといったシナリオが事前にたくさん作られています。噴火直前には火口の位置はほぼ特定できますので、それに応じたシナリオを使って避難するわけです。動的ハザードマップです。
 放射性物質も風に乗って飛散するわけですから、風下に逃げるのは愚の骨頂です。やはり風向きに応じた動的避難マップを用意しておく必要があると思います。風配図とは平均的な風向きを16方位で表したものです。上段は九電が原子力規制庁に修正提出した図です(当初のものは風向きを真逆にしたものでした)。西側には甑島があるのに、東風のデータが無いのは、良く理解できません。鹿児島市は圧倒的に北西~北北西の風が多いことが分かります。もっと長いスパンで見てみましょう。右端の地形図は川内原発に隣接する寄田砂丘です。北北西-南南東の二次砂丘列が発達しています。なお、川内川の北に位置する唐浜の二次砂丘も同一方向です。二次砂丘や風食窪の方向は卓越風の方向を示すと言われていますから(成瀬,1999)、10年オーダーのデータで作った風配図より、大局的にはこの方向が卓越風を示すと考えたほうが良いでしょう。まさに鹿児島市の方向です。
 右図のアニメーションgifは、青山ほか(2014)のシミュレーションに避難路を加筆したものです。どこの機関と支援協定があるのか知りませんので、避難ルートの矢印はまったく架空の代物です。要するに、北寄りの風の場合には水俣や伊佐方面へ、南寄りの風の場合には鹿児島方面へ逃げるのが良いだろうと思います。最近のカーナビは不通個所などすぐアップされ迂回路を指示してくれますから、地震時に道路が寸断されても、動的避難マップは動的に変更可能です。なお、Open Street Mapもボランティアが不通個所をアップしてくれますので、最新情報が入手可能です。
 もちろん、UPZの人が一斉に避難を開始したら大渋滞になるでしょうから、そのための手を打っておく必要はあるでしょう。
<注> 避難所については、「災害時避難所」をご参照ください。

文献:

  1. 青山貞一・鷹取 敦・池田こみち(2014), 川内原発事故時の市内への放射線予測 ①前提. 環境行政改革フォーラム論文集, Vol.6, No.1, p.1-5.
  2. 青山貞一・鷹取 敦・池田こみち(2014), 川内原発事故時の市内への放射線予測 ②予測. 環境行政改革フォーラム論文集, Vol.6, No.1, p.1-5.
  3. 原子力規制庁(2012), 拡散シミュレーションの結果に係る主な変更ポイント. 4pp.
  4. 原子力規制委員会(2014), 九州電力川内原子力発電所設置変更に関する審査結果について-概要-. 46pp.
  5. 小山真人(2020), 火山学の知見が活かされない原発の規制基準. 学術の動向, Vol.25, No.12, p.54-57.
  6. 成瀬敏郎(1999), 日本の海岸砂丘. 地理学評論 Ser. A, Vol.62, No.2, p.129-144.
  7. 島崎邦彦(2020), なぜ「長期評価」を用いず、「新知見」なのか. 学術の動向, Vol.25, No.12, p.50-53.
  8. (), . , Vol., No., p..
  9. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2016/08/24
更新日:2020/12/30