天然ダムとは速報:大分豪雨災害で天然ダム形成堰止め湖鹿児島と天然ダム

 天然ダム

 天然ダムとは

中越地震後の山古志村明治十津川災害(吉野郡水災誌,1891)現存世界最大の天然ダム・Sarez湖(タジキスタン)
 2004年10月23日新潟県中越地震が発生しました。「越の色鯉」で有名な山古志村の長閑な棚田地帯が壊滅的打撃を受けました。とくに、多発した地すべりにより河道が閉塞、天然ダムが多数形成され、耳目を驚かせました。決壊による下流の洪水が心配されたのです。国交省では応急水路を開削、徐々に水を流すことにより、決壊防止に努めました。同じようなことが2008年の岩手・宮城内陸地震でも起きました。このように崩壊土砂によって河道が閉塞されて形成されるダムを天然ダムnatural damと言います。
 天然ダム形成要因は地震だけではありません。降雨に伴う土砂崩れによって河道が閉塞された場合にも形成されます。とくに西南日本外帯の山岳地帯で発生する大規模崩壊(深層崩壊)に関係したものが多いようです。有名なのが明治十津川(とつかわ)大水害です。1889年(明治22年)8月、台風により主として熊野川(新宮川)上流の十津川流域で大規模崩壊が無数に発生、53個所の新湖(天然ダムの当時の呼称)が形成されました。これらの天然ダムは、早いもので形成後2~3時間後には決壊を始め、大部分1日以内に決壊したようです。残っていたものも9月中旬の集中豪雨で決壊、現在残っているのは大畑瀞(おおはたけとろ)(大畑池)だけです。これによる十津川村の人的物的被害は甚大で、村人のかなりの部分が北海道に新天地を求め、新十津川村(現新十津川町)を興しました。十津川村だけでなく、最下流の新宮市でも市街地のほとんどが浸水しています。
 火山活動に伴う泥流や溶岩が渓流になだれ込んでも天然ダムは形成されます。1915年(大正4年)の焼岳噴火による泥流が梓川を堰き止め、高さ4.5mの天然ダムを形成しました。現在観光名所になっている上高地の大正池です。これは池の出口付近に東京電力の取水堰が設置され、水位を人為的にコントロールしているため、決壊を免れています。
 現存する世界最大の天然ダムはタジキスタンのサレス湖Sarez Lakeです。1911年、M7.4の地震に伴う地すべりでできたのだそうです。湛水量170億m3とか。万一決壊すると、下流の国々で大洪水になりますから、注意深い観測が続けられています。
衛星SARによる天然ダムの早期発見(山本,2016)
 天然ダムの決壊は堰止土量と湛水量、流入量とダム堤体部分からの滲出量(ダム堤体の透水性、つまり土砂の粒径)とのバランス等々、いろいろな要因で決まります。基本的には越流によると言われ、パイピングの事例は少ないようです。地震に起因するものは湛水に時間がかかりますが、降雨に起因するものは流入量が大きいので、湛水しやすく決壊も早いようです。2011年(平成23年)台風12号により同じ十津川地区で天然ダムが形成されましたが、決壊したものは半分程度でした。小支川の場合が多く湛水量が少なかったためだろうと言われています(池谷,2012)。
 対策としては、緊急対策はポンプアップによる水位低下、応急工としての排水路建設、下流法先ドレーン設置による浸食防止などが考えられます。下流にダムがある場合には、そのダムの貯水量を低下させ、天然ダム決壊による土石流や洪水の捕捉を行います。
 なお、前述のように、天然ダムはかなり早い段階で決壊するのがほとんどですから、早期発見が重要です。悪天候の山の中では、発見が遅れる場合もあります。国交省では衛星SARを活用した早期発見の試みを行っています。衛星SARは夜間や悪天候でも観測が可能だからです。実際、2011年の紀伊半島大水害では、未確認の天然ダムを早期に発見したそうです。

速報:福岡・大分豪雨災害の際、筑後川水系小野川で天然ダム形成

2017年7月7日、筑後川水系小野川 大分県日田市小野地区で発生した土砂崩壊と天然ダムのドローンによる調査映像(国土交通省 九州地方整備局)
【空撮】九州豪雨 山肌が大規模崩落 大分・日田市小野(朝日新聞社)
産総研シームレス地質図
 2017年月6~7日の豪雨により日田市小野地区小野川右岸で大規模な崩壊が発生、天然ダムが形成されました。産総研によれば、英彦山~犬ヶ岳を中心とする古い火山体(570万年前~380万年前頃)の比較的脆弱な火山砕屑岩が崩れたのだそうです。

 堰止め湖

大畑池(十津川村)大正池(松本市)震生湖と寺田寅彦の句碑(秦野市)
 天然ダムは決壊すると恐ろしい災害をもたらしますが、そのまま池ないし湖として残り続けるのもあります。堰止め湖dammed lakeです。明治十津川災害で唯一残った大畑池では、写真のように渇水時には、立ち枯れした樹木が露出することがあります。大正池については先に述べました。
 神奈川県秦野市の震生湖は関東地震(1923年・M7.9)の際、関東ロームが地すべりを起こして小渓流を堰き止めてできたものです。寺田寅彦の「山さけて 成しける池や 水すまし」という句碑が建っています。堰止土量が湛水量に比して約5倍と圧倒的に多いから残ったのでしょう(田畑ほか,2002)。現在では自然公園になっています。

 鹿児島と天然ダム

 鹿児島で天然ダムが形成されたのは1997年針原川土石流災害の時ですが、ごく小規模でした。鹿児島県の場合、天然ダムが形成されやすいところは、やはり四万十層群の山地でしょう。山が急峻で川も結構大きいからです。出水山地・高隈山それに奄美大島が要注意です。2014年、国交省大隅河川国道事務所では、垂水市で天然ダム形成を想定した関係諸機関による図上演習を実施しました。牛根二川地区でのダム形成を仮定したようです。

文献:
  1. 大規模な河道閉塞(天然ダム)の危機管理に関する検討委員会 (2009), 大規模な河道閉塞(天然ダム)の危機管理のあり方について(提言). 国土交通省, 15pp.
  2. 井上公夫(2011), 日本の天然ダムの事例紹介. 自然災害科学, Vol.30, No.3, p.304-311.
  3. 森 俊勇・井上公夫・坂口哲夫(2011), 日本の天然ダムと対応策. 古今書院, 186pp.
  4. 佐光洋一・森 俊勇・中村浩之・遊佐直樹・大野亮一・福田睦寿・寺田秀樹(2015), 深層崩壊に伴い形成される天然ダム形状の予測について . 砂防学会誌, Vol.68, No.1, p.44-51.
  5. 田畑茂清・井上公夫・早川智也・佐野史織(2001), 降雨により群発した天然ダムの形成と決壊に関する事例研究―十津川災害(1899)と有田川災害(1953)―. 砂防学会誌, Vol.53, No.6, p.66-76.
  6. 田畑茂清・水山高久・井上公夫(2002), 天然ダムと災害. 古今書院, 205pp.
  7. 宇智吉野郡役所(1891), 吉野郡水災誌. 巻之壹~巻之十一
  8. (), . , Vol., No., p..
  9. (), . , Vol., No., p..
  10. (), . , Vol., No., p..
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参考サイト:



初出日:2017/06/27
更新日:2018/11/16