天然ダム
天然ダムとは
中越地震後の山古志村 | 明治十津川災害(吉野郡水災誌,1891) | 現存世界最大の天然ダム・Sarez湖(タジキスタン) |
天然ダム形成要因は地震だけではありません。降雨に伴う土砂崩れによって河道が閉塞された場合にも形成されます。とくに西南日本外帯の山岳地帯で発生する大規模崩壊(深層崩壊)に関係したものが多いようです。有名なのが明治
火山活動に伴う泥流や溶岩が渓流になだれ込んでも天然ダムは形成されます。1915年(大正4年)の焼岳噴火による泥流が梓川を堰き止め、高さ4.5mの天然ダムを形成しました。現在観光名所になっている上高地の大正池です。これは池の出口付近に東京電力の取水堰が設置され、水位を人為的にコントロールしているため、決壊を免れています。
現存する世界最大の天然ダムはタジキスタンのサレス湖Sarez Lakeです。1911年、M7.4の地震に伴う地すべりでできたのだそうです。湛水量170億m3とか。万一決壊すると、下流の国々で大洪水になりますから、注意深い観測が続けられています。
衛星SARによる天然ダムの早期発見(山本,2016) |
対策としては、緊急対策はポンプアップによる水位低下、応急工としての排水路建設、下流法先ドレーン設置による浸食防止などが考えられます。下流にダムがある場合には、そのダムの貯水量を低下させ、天然ダム決壊による土石流や洪水の捕捉を行います。
なお、前述のように、天然ダムはかなり早い段階で決壊するのがほとんどですから、早期発見が重要です。悪天候の山の中では、発見が遅れる場合もあります。国交省では衛星SARを活用した早期発見の試みを行っています。衛星SARは夜間や悪天候でも観測が可能だからです。実際、2011年の紀伊半島大水害では、未確認の天然ダムを早期に発見したそうです。
速報:福岡・大分豪雨災害の際、筑後川水系小野川で天然ダム形成
2017年7月7日、筑後川水系小野川 大分県日田市小野地区で発生した土砂崩壊と天然ダムのドローンによる調査映像(国土交通省 九州地方整備局) | ||
【空撮】九州豪雨 山肌が大規模崩落 大分・日田市小野(朝日新聞社) | ||
産総研シームレス地質図 |
堰止め湖
大畑池(十津川村) | 大正池(松本市) | 震生湖と寺田寅彦の句碑(秦野市) |
神奈川県秦野市の震生湖は関東地震(1923年・M7.9)の際、関東ロームが地すべりを起こして小渓流を堰き止めてできたものです。寺田寅彦の「山さけて 成しける池や 水すまし」という句碑が建っています。堰止土量が湛水量に比して約5倍と圧倒的に多いから残ったのでしょう(田畑ほか,2002)。現在では自然公園になっています。
鹿児島と天然ダム
鹿児島で天然ダムが形成されたのは1997年針原川土石流災害の時ですが、ごく小規模でした。鹿児島県の場合、天然ダムが形成されやすいところは、やはり四万十層群の山地でしょう。山が急峻で川も結構大きいからです。出水山地・高隈山それに奄美大島が要注意です。2014年、国交省大隅河川国道事務所では、垂水市で天然ダム形成を想定した関係諸機関による図上演習を実施しました。牛根二川地区でのダム形成を仮定したようです。文献:
- 大規模な河道閉塞(天然ダム)の危機管理に関する検討委員会 (2009), 大規模な河道閉塞(天然ダム)の危機管理のあり方について(提言). 国土交通省, 15pp.
- 井上公夫(2011), 日本の天然ダムの事例紹介. 自然災害科学, Vol.30, No.3, p.304-311.
- 森 俊勇・井上公夫・坂口哲夫(2011), 日本の天然ダムと対応策. 古今書院, 186pp.
- 佐光洋一・森 俊勇・中村浩之・遊佐直樹・大野亮一・福田睦寿・寺田秀樹(2015), 深層崩壊に伴い形成される天然ダム形状の予測について . 砂防学会誌, Vol.68, No.1, p.44-51.
- 田畑茂清・井上公夫・早川智也・佐野史織(2001), 降雨により群発した天然ダムの形成と決壊に関する事例研究―十津川災害(1899)と有田川災害(1953)―. 砂防学会誌, Vol.53, No.6, p.66-76.
- 田畑茂清・水山高久・井上公夫(2002), 天然ダムと災害. 古今書院, 205pp.
- 宇智吉野郡役所(1891), 吉野郡水災誌. 巻之壹~巻之十一
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参考サイト:
- 池谷 浩(2012), 天然ダムの危険性と対策(NHKそなえる防災)
- 国交省大隅河川国道事務所(2014), 大規模土砂災害を想定した合同防災訓練を実施
- 山本悟司(2016), 土砂災害への対応における情報通信技術の活用について(東京大学インフラ・イノベーション研究会)
初出日:2017/06/27
更新日:2018/11/16