富士山噴火史中央防災会議のシミュレーション蛇足:新型コロナ・パンデミック

 富士山噴火首都圏被害想定

 2020年3月31日、中央防災会議大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループは富士山噴火により首都圏がどのような被害を受けるかシミュレーションを行い、報告書案を公表しました。鹿児島からは遠く離れていますが、桜島の麓に住むわれわれにとっても参考になりますので、簡単に紹介します。

 富士山噴火史

富士山噴火年表(小山,2007)産総研富士山火山地質図第2版
(宝永噴火)夜ルの景色
(個人所蔵:中央防災会議より引用)
 その前に富士山とはどういう山でしょう。抜きんでて高い秀麗な山であり日本のシンボルでもありますが、それには分けがあります。富士山はユーラシアプレート(アムールプレート)・北米プレート(オホーツクプレート)・フィリピン海プレートの3者がせめぎ合っている三重会合点に位置しているからです。さらに深部には太平洋プレートも沈み込んでいます。このため大量の玄武岩質マグマが供給されると共に、激しい隆起運動もありました。富士山は今から約70~20万年前に活動を開始し、頻繁に噴火を繰り返すことにより約1万年前に現在のような美しい円錐形の火山となったと考えられています。有史以来でも表のような噴火が記録されています。いずれも山腹噴火ですが、噴火規模・噴火様式・噴火間隔などマチマチで、あまり規則性がない点が、富士山の噴火予知を難しくしています。残された火口の数から推測すると数十年に1回の割合になりますが、一番新しい噴火が300年前の宝永噴火です。この噴火は江戸でも被害があり、新井白石の『折たく柴の記』にも記されています(「災害文学」参照)。4月27日正式報告書が公表されました(文献参照)。

 中央防災会議のシミュレーション

鉄道微量でも地上鉄道は運行停止
道路視界不良や路上の火山灰で渋滞
物資買い占め等による店頭食料の品切れ
人の移動鉄道運休と道路渋滞で滞留者発生
電力降雨時には絶縁不良で停電
通信降雨時にはアンテナに火山灰が付着し通信障害
上水道水質悪化や浄水場の機能低下で断水
下水道降雨時に下水管が詰まり、内水氾濫
建物降雨時30cm以上の堆積厚では木造家屋倒壊可能性
想定される降灰の影響:噴石・火砕流被害,:鉄道運行不能,
:2輪駆動自動車運行不能,:停電
 火山噴火のシミュレーションは、火口の位置・噴火規模・噴火様式・噴火継続時間・噴火時の風向きなどによって初期条件が変わります。今回は宝永噴火と同等の噴火を想定し、西風卓越・西南西風卓越・風向が変化する場合の3ケースについて検討しました。首都圏にもっとも影響を与えるのは西南西の風で、かつ雨を伴った場合であり、新宿などでは噴火15日目までに火山灰が10cm積もるそうです。処理が必要な火山灰の総量は約4.9億m3に上るとか。これは東日本大震災の災害廃棄物総量の約10倍に相当します。
 インフラへの影響も分析、右表のような事態が発生するだろうと予想しています。影響範囲も図示されており、右地図は西南西風のケースをトレースしたものです。
 最後に、このような非常に多くの住民や経済活動に長期間影響を及ぼすので、国や自治体は広域降灰を見据えた防災計画を事前に定めておくことが重要と強調しています。また、被害軽減および社会的混乱の抑制のために具体的対策の検討を求めています。

蛇足: 新型コロナウイルスパンデミック

 この富士山噴火シミュレーションが出されたのは、ちょうど世界中に新型コロナウイルスが蔓延し、パンデミックpandemicの最中でした。東京都でも感染爆発coronavirus explosion, outbreak寸前の危機的状況だとして、外出自粛要請が出されました。やがて新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく、もっと強い強制力を伴った対策が打ち出されるでしょう。しかし、長期にわたる外出禁止は、収入の道が断たれることを意味する人たちもたくさんいます。実効性のあるものにするためには、それに伴う収入の損失補填とセットでなければなりません。火山災害も長期にわたりますから、さまざまな社会的経済的損失を伴います。危機管理部署や土木部署だけに任せておくのではなく、総合的な対策が求められる政治マターなのです。防災計画にはそれらも視野に立案する必要があるでしょう。

文献:
  1. 荒牧重雄・太田美代(2008), 日本一の火山 富士山. 山梨県環境科学研究所, Vol., No., p..
  2. 小山真人(2007), 富士山の歴史噴火総覧. 荒牧重雄・藤井敏嗣・中田節也・宮地直道編:富士火山,山梨県環境科学研究所,p.119-136.
  3. 日本火山学会編(2007), 富士火山. 山梨県環境科学研究所, 490pp.
  4. 下重 清(2007), 宝永4年(1707)富士山噴火. ぼうさい, No.37, p.18-19.
  5. 高田 亮・山元孝広・石塚吉浩・中野 俊(2016), 富士火山地質図第2版. 産総研, 1葉.
  6. (), . , Vol., No., p..
  7. (), . , Vol., No., p..
  8. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2020/04/01
更新日:2020/09/24