地震の概要鹿児島県地震等災害被害予測調査市来断層帯伊作断層鹿児島中央構造線

 2020年薩摩半島西方の地震

 

 地震の概要

震度分布(気象庁)震央・M・深さ( 本震 余震)
青線:鹿児島中央構造線、緑線:伊作断層
発震機構(CMT解)
 2020年6月1日午前9時33分30秒、薩摩半島西方沖(北緯31.6度、東経130.3度:日置市日吉町沖合2.5km)でM4.3の地震がありました。震源の深さは10kmと推定されています。これにより、鹿児島市・日置市・南さつま市などで震度4の揺れを感じました。県都鹿児島市にとっては、2017年喜入沖の地震以来3年ぶりの大きな揺れでした。被害はない模様です。
 この地域は鹿児島県地震被害予測でも想定地震域に挙げてあるところですし、地震本部でも市来断層帯として検討対象に挙げている地域ですので、気になります。少しレビューして見ましょう。
 なお、2020年5月3日20時54分21秒にも西方沖でM6.2の地震がありましたが、震央は宇治群島のはるか西方(31°18.2′N:128°43.0′E)でした。この時には薩摩川内市や南さつま市の軟弱地盤帯で震度3を観測しています。
<注> 5月2日、気象庁より発震機構解が発表されました。余震を考慮すると東西走向の左横ずれのようです。なお、この時、震源位置も修正されましたので、それに伴いGISの図も修正しました。震央は西方沖ではなく、日置市日吉町の大川河口に当たります。

 鹿児島県地震等災害被害予測調査

予測想定震源モデル(鹿児島県)県西部直下地震想定震度(鹿児島県)
 鹿児島県が県本土に被害を及ぼす恐れのある直下型の地震として、①鹿児島湾直下、②県西部直下、③甑島列島東方沖、④県北西部直下、⑤県北部直下、⑥熊本県南部の6個所を想定しています。今回の地震はまさに②の県西部直下地震に当たります。鹿児島県(2014)の予測によると、いちき串木野市で震度7、日置市・鹿児島市で震度6強に達するなど、いちき串木野市・日置市を中心に多大な被害が出るそうです。9,000棟を超す家屋の全壊、冬の深夜では死者500人に達する人的被害も予測されています。津波も発生し、いちき串木野市で津波高は3.1mに達します。その他、地震火災も発生が予測されています。
<注> 鹿児島県が想定している地震は、地震本部の五反田川断層の地震であって、吹上浜西方沖断層ではないことに留意してください。

 市来断層帯

市来断層帯(地震本部)予想震度(地震本部)
 地震本部では図のように、①五反田川断層・②甑海域中央断層・③吹上浜西方沖断層を一括して市来断層帯と呼んでいます。①は、右横ずれを伴う北側隆起の正断層、②は北西側が相対的に隆起する正断層、③は南東側が相対的に隆起する正断層と考えているようです。発生する地震は、それぞれ①M7.2程度、②M7.5程度、③M7.0程度以上と見積もっています。右図は③の震度分布です。

 伊作断層と南九州のサイスミシティ

鹿児島市北東-南西方向の地質断面図(大木ほか,1990)
鹿児島県地質図(鹿児島県,1990)左横ずれ内陸地震(角田・後藤,2002)
 旧谷山街道の伊作峠付近で、鹿大卒論生が断層露頭を見つけ(現在はありません)、大木ほか(1990)は、これを伊作断層と呼びました。大木ほか(1990)は谷山南部の地表で見られる伊作火砕流(2.9-3.1Ma)が、北東方向の市街地方面に行くにしたがって、断層によりステップ状に落ち込んでいる地質断面図を示し、第四紀断層だと示唆しています。活断層の定義にもよりますが(「鹿児島県の活断層」参照)、広義なら活断層です。
 一方、角田・後藤(2002)は、南九州の内陸地震をまとめ(図は1989/06~1994/12の地震)、E-W走向高角左横ずれの地震列群を認めました。このうちのa列がまさに伊作断層と一致します。ここでは1913年日置地震(M5.9, 5.7)や1997年薩摩半島中部沿岸の群発地震(Mmax3.2)が発生しています。

 鹿児島中央構造線

鹿児島中央構造線(Arita,1954)基盤標高(小林・矢野,2007)
 この地域を通る断層として、伊作断層と走向は違いますが、NW-SE方向の基盤を切る断層があると昔から言われていました。古くはArita(1954)がKagoshima Central Tectonic Line(鹿児島中央構造線)と名づけました。鹿児島県本土の基盤をなすのは四万十層群ですが、出水山地と薩摩半島および大隅半島に露出し、出水山地南部つまり川内川流域以南で、かつ、南九州西回り自動車道と略々一致する北西-南東ライン以北の三角地帯には露出していません。そこは金鉱床を胚胎するとして有名な北薩火山岩類が分布しています。この北西-南東ラインにおける基盤表面の標高差は大変大きく、温泉ボーリングのデータによれば数100m以上に達します(小林・矢野, 2007)。問題はこれが活断層かどうかです。今のところ確たる証拠はありません。


文献:
  1. Arita, T.(1954), The Geological Structure of Kagosima Prefecture, Kyusyu District, Japan. Sci. Rep. Kanazawa Univ., Vol.2, No.2, p.121 - 131.
  2. 鹿児島県地質図編集委員会(1990), 10万分の1鹿児島県地質図5葉 付「鹿児島県の地質」, 117pp.
  3. 角田寿喜・宮町宏樹・久保田裕史・高木章雄(1992), 九州の内陸地震活動. 地震 2輯, Vol.45, No.2, p.229-237.
  4. 角田寿喜・後藤和彦(2002), 九州-南西諸島北部域の地震活動とテクトニクス. 地震2輯, Vol.55, No.3, p.317-336.
  5. 小林哲夫・矢野 徹(2007), 南九州の地質・地質構造と温泉. 温泉科学, Vol.57, No., p.11-29.
  6. 久保田喜裕(1986), 南九州北薩地域における金銀鉱脈鉱床の生成とその造構史的背景. 鉱山地質, Vol.36, No.200, p.459-474.
  7. 大木公彦・舟津俊宏・早坂祥三(1990), 鹿児島市南部の地質・とくに伊作火砕流と照国火砕流との関係について. 浦島幸世教授退官記念論集, p.125-133.
  8. 大木公彦(2010), 鹿児島フィールドミュージアムへのお誘い. 鹿児島国際大学考古学ミュージアム主催講演会記録, p.1-7.
  9. (), . , Vol., No., p..
  10. (), . , Vol., No., p..
  11. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2020/06/01
更新日:2020/11/30