開聞岳貞観噴火災害

 東日本大震災を起こした東北日本太平洋沖地震は貞観地震(869)の再来と言われました。しかし、地震・津波だけではありません。火山も相次いで噴火したのです。富士山貞観噴火(864-866)、阿蘇山貞観噴火(864,867)、鳥海山貞観噴火(871)、開聞岳貞観噴火(874)です。貞観時代は大地動乱の時代だったのです。今また日本列島は大地動乱の時代に入ったのでしょうか。実際、御嶽山や阿蘇山が活動を再開していますし、西之島も活発に拡大しています。
倒壊家屋全景(向こう側奥に倒壊屋根が見える)
(COCOはしむれ展示)
倒壊した屋根部分(COCOはしむれ展示)
右が復元想像図(図録2による)
 開聞岳貞観噴火は指宿の橋牟礼川遺跡で見ることができます。西暦874年3月25日、開聞岳は大噴火をしました。『日本三大実録』には、次のような記載があります。
貞観十六年七月二日条
大宰府言、薩摩国従四位上開聞神山頂、有火自焼。煙薫満天。灰沙如雨。震動之声聞百余里。近社百姓震動恐失精。求之蓍亀、神願封戸、及汚穢神社、仍成此祟。勅奉封二十戸。
同年同月二十九日条
大宰府言、去三月四日夜、雷霆発響。通宵震動。遅明天気陰蒙、昼暗如夜。干時雨沙色如聚墨、終日不止。積地之厚、或処五寸、或処可一寸余。比及昏暮、沙変成雨。禾稼得之皆至枯損、河水和沙、更為虚濁。魚龞死者無数、人民有得食死魚者、或死成病。
 日付は違いますが、同じ噴火の報告だと考えられています。要するに3月4日の夜から火山礫やスコリアが降り始め、5日夕方降雨があり、土石流(ラハール)が発生したようです。指宿市の橋牟礼川遺跡で1888年(昭和63年)に、この噴火による倒壊建物が発掘されました。2間×3間の掘立小屋の跡があり、家の外にはスコリアが積もっているのに、内部には、それがなく、ラハールの細粒堆積物が入り込んでいました。横には倒れた屋根部分が見つかったのです。恐らく湿った火山灰の重さに耐えきれずに倒壊し、その後、泥流が家の中にも入り込んだのでしょう。
 なお、この874年の噴出物と885年(元和元年)の噴出物を総称して紫コラと呼ばれています。右図(図録3による)は874年の紫コラの等層厚線図isopach map(成尾・下山,1996)ですが、厚さ40cm程度以上のところでは災害復旧の痕跡がなく放棄されたそうです(図の赤字の遺跡)。そのうち敷領遺跡は復旧の試みはやったものの結局放棄されたとのことです。枚聞神社も開聞岳の麓から現揖宿神社に一時避難し(今で言う「みなし仮設」)、後に現在の地に再建されました。

蛇足:

 朝廷は噴火が静まることを願い、枚聞神社を正4位下に昇叙するとともに、20戸加増しています。しかし、住民に対してどのような救済策が施されたのかは分かりません。直前まで隼人は朝廷に楯を突いていたのですから、どうだったのでしょうか。なお、橋牟礼川遺跡は「東洋のポンペイ」と言われることもあります。ベスビオ火山噴火時のローマ帝国の災害復旧については「姉妹都市ナポリ」をご覧ください。
 ところで、桜島が大正級の噴火をして、もしも東風だった場合、気象研究所のシミュレーションによると、鹿児島市内に10~100cmの軽石・火山灰が降るとのことです。道路はブルドーザーで除去可能でも、老朽木造住宅では倒壊が出る恐れがあるでしょう。橋牟礼のようにならなければよいのですが。

文献:

  1. 藤野直樹・小林哲夫(1997)開聞岳火山の噴火史.火山,vol. 42,p. 195‒211.
  2. 指宿市教育委員会(1996), 時遊館COCCOはしむれ展示図録. 指宿市教育委員会, 63pp.
  3. 指宿市考古博物館時遊館COCCOはしむれ(2014), 火山の恵みと黒潮交流企画展示図録. 指宿市教育委員会, 31pp.
  4. 鎌田洋昭・中摩浩太郎・渡部徹也(2009), 橋牟礼川遺跡―火山灰に埋もれた隼人の古代集落―. 同成社, 184pp.
  5. 川辺禎久・阪口圭一(2005), 開聞岳地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅).産総研地質調査総合センター,82pp.
  6. 火山・災害考古学研究会(1997), 火山災害と人類―火山と人類の歴史をたずねて―. 火山・災害考古学研究会, 45pp.
  7. 成尾英仁(1992), 指宿市橋牟礼川遺跡における開聞岳噴出物と災害の様相. 鹿児島県地学会誌, No.67, p.1-15.
  8. 成尾英仁・下山 覚(1996), 開聞岳の噴火災害―橋牟礼川遺跡を中心に―. 名古屋大学加速器質量分析計業績報告書, VII, p.60-69.
  9. 下山 覚(2002), 火山災害の評価と戦略に関する考古学的アプローチ―指宿橋牟礼川遺跡の事例から―. 第四紀研究, Vol.41, No.4, p.279-286.
  10. わが国の火山噴火罹災遺跡の生活・文化環境の復元研究班(2007), 火山で埋もれた都市とムラ―イタリア・日本・インドネシア―, お茶の水女子大学博物館学研究室, 69pp.
  11. 渡部徹也・中摩浩太郎(2016), 開聞岳の噴火で埋もれた村―橋牟礼川遺跡(鹿児島県指宿市)―. 地学雑誌, Vol.125, No.4, p.N53-N58.

参考サイト:



初出日:2015/03/19
更新日:2018/05/31