遺跡にみる地震の痕跡

 地震考古学

新潟地震地盤災害図(新潟大・深田研,1964)
 1964年の新潟地震は衝撃的でした。5階建ての新潟県営アパートがゆっくりと倒れたのです。液状化という言葉が生まれ、世界的に有名になりました。新潟大学理学部地鉱教室では、深田地質研究所と共に、早速教官・学生総動員で被害調査に当たり、地割れや砂・泥の噴出孔など、克明に事実を記載しました。これが世界で最初の地震地盤災害図となりました(当時東大大学院生だった岩松も著者の末尾に名を連ねています)。まだ液状化という言葉が生まれていませんでしたが、「鹿児島の活断層」で述べたように、1906年のサンフランシスコ地震以来、地震の際砂が噴き出して小円錐丘をつくることは知られていました。噴砂は下位の砂層から割れ目を通って地上に吹き出し、その通り道が砕屑岩脈として残ることも分かっていました。本間(1927)は関東地震(1923)やミシシッピー地震(1811,1812)でも海岸近くの沖積地で同様な現象が起こったと指摘しています。これが液状化だったのです。土質工学の分野でメカニズムも解き明かされていきました。
 その後、地質学・第四紀学の分野でも液状化の研究が盛んになり、地質調査所(現産総研)の寒川旭氏を中心に地震考古学の分野が開拓されていきました。
 ところで、本間(1927)は砂岩脈は地震の化石と述べていますが、必ずしもそう言い切れない場合もあります。開いた割れ目に上から砕屑物が充填することもあるでしょう。火砕流の場合には、ガスの吹き抜けパイプも、露頭の断面では似たような見かけをしますから、要注意です。脈の中の物質が下位層起源であること、表土層など上位層を切っていること、パイプ状ではなく板状で割れ目充填型であること、など綿密な観察が必要です。

 鹿児島県内の遺跡

地震痕跡のある主な遺跡(:主として縄文時代,:主として平安時代)
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 1996年、『発掘された地震痕跡』という本が発行されました。全国を網羅していますが、鹿児島県では右図の7ヶ所が挙げられています。
指宿市中島ノ下遺跡
 下図は池田火山灰層(5,500~5,700年前)を貫く噴砂脈です。噴砂は下位の細粒火山灰砂(火山灰の中で砂質の部分)から噴き出し、上位のピンク火山灰層(P-B火山灰)を引き裂いて止まっており、さらに上位の火山灰に覆われています。寒川(1990)は、恐らくP-B火山灰降下直後の地震の痕跡で、液状化現象を伴ったとしています。
噴砂脈(指宿市,1990)砂脈と液状化層(寒川,1990)
鹿屋市原口岡遺跡
原口岡遺跡模式柱状図(成尾,1996)
 吾平町の原口岡遺跡でも噴砂脈が見つかっています。図のように二次シラスが液状化して、薩摩降下軽石(15,000年前)や幸屋降下軽石(7,300年前)を貫いて、幸屋火砕流(7,300年前)に覆われています。幸屋火砕流は鬼界カルデラの活動ですから、鬼界カルデラの活動に伴う地震だったのでしょう。

文献:

  1. 埋文関係救援連絡会議埋蔵文化財研究会(1996), 発掘された地震痕跡. 埋文関係救援連絡会議埋蔵文化財研究会, 826pp.
  2. 西田彰一ほか(1964), 新潟地震地盤災害図(3000分の1). 新潟大学, 地図6葉.
  3. 新潟大学社会連携推進機構積雪地域災害研究センター・新潟大学理学部地質科学科(2005), 復刻「新潟地震地盤災害図」(1万分の1). 新潟大学, 図1葉.
  4. 寒川 旭(2011), 地震の日本史―大地は何を語るのか. 中公新書, 276pp.
  5. 寒川 旭(1992), 地震考古学―遺跡が語る地震の歴史. 中公新書, 251pp.
  6. 寒川 旭(1990), 中島ノ下遺跡において認められた地震跡. 中島ノ下遺跡発掘調査報告書, p.110-114.
  7. 安田 進(1988), 液状化の調査から対策工まで. 鹿島出版会, 243pp.
  8. 全国地質調査業協会連合会、 関東地質調査業協会 液状化研究会(2012), 絵とき 地震による液状化とその対策. オーム社, 228pp.
  9. 石原研而(2017), 地盤の液状化: ─発生原理と予測・影響・対策─. 朝倉書店, 120pp.
  10. レジナルド・エ・デール著,本間不二男譯(1927), 構造地質學講話. 古今書院, 344pp.
  11. 成尾英仁(2003), 姶良町小倉畑遺跡の液状化跡. 鹿児島県地学会誌, No.87, p.13-27.
  12. 成尾英仁(2002), 吾平町と金峰町で見いだされたアカホヤ噴火時の液状化跡. 鹿児島県立博物館研究報告, No.21, p.47-58.
  13. 指宿市教育委員会(1990), 中島ノ下遺跡発掘調査報告書, 指宿市教育委員会, 128pp.
  14. (), . , Vol., No., p..
  15. (), . , Vol., No., p..
  16. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2017/03/10
更新日:2019/01/05