はじめに土砂災害水害道路災害と集落の孤立化重要施設の被災10周年

 2010年奄美豪雨災害

 はじめに

10月20日12時衛星赤外画像(気象庁)10月20日積算解析雨量(気象庁)奄美市住用雨量経過図(気象庁)
 2010年10月18~21日にかけて前線が奄美地方に停滞しましたが、ちょうどその時、南シナ海には台風13号がありました。台風の東側に沿って湿った空気が前線に向かって流れ込んだため、奄美地方は大雨となり、奄美市名瀬では20日の日雨量が622.0mmと観測史上最大値を記録しました。図に示すように、奄美市と龍郷町に大雨が集中しています。
 その結果、奄美市住用のグループホーム「わだつみ苑」入居者 2名が床上浸水により死亡、龍郷町でがけ崩れのため1名死亡の人的犠牲を出してしまいました。住家被害では、全壊10棟半壊443棟一部損壊12棟、床上浸水116棟床下浸水851棟の被害でした(県記録誌による)。その他、農業・水産業、商工業・観光業、医療・福祉、道路・交通、上下水道、電気・通信などの広範囲に被害を及ぼしました。また、離島特有の問題も浮き彫りになりました。公共施設等の被害総額は13,580,840千円にものぼります。
 こうした大災害を受けて鹿児島大学では鹿児島大学奄美豪雨災害調査委員会(代表下川悦郎教授)を結成、調査研究に当たりました。以下は、その報告書からの抜粋要約です。いちいちお名前を引用しなかったことをお許しください。詳しくは鹿大防災センターホームページにある原典に当たってください。

 土砂災害

雨量と土砂災害(地頭薗ほか,2012)地質と土砂災害(井村,2012)
龍郷町浦の崩壊(井村,2012)
 土砂災害は当然、雨量の多いところで発生していますが、地質的にも四万十層群の粘板岩・泥岩分布域に集中しています。赤色風化の項でも述べたように、赤色風化も災いしています。こうしたところではクリープ斜面も発達しており、ここでいわゆる深層崩壊も発生しました。また、断層も関係している例もあったようです。

 水害

奄美市住用総合支所前の状況(鹿児島県)
 奄美大島内には二級河川が33河川ありますが、そのうち30河川が外水及び内水氾濫し、上述のような甚大な浸水被害を出しました。やはり降雨が多かった奄美大島の中央部・北部に集中しています。主な氾濫河川としては、住用川・大美川・戸口川・川内川・金久田川・大川・知名瀬川などが挙げられます。とくに奄美市住用町では、住用川の氾濫により死者2名が発生し、97戸の家屋が浸水しました。なお、川内川・役勝川では洪水ピークが満潮時間とよく一致しています。

 道路災害と集落の孤立化

10月20日8:00現在の道路不通個所(北村,2012)
 道路災害は、一部冠水によるものもありましたが、大部分法面崩壊による閉塞や盛土崩壊が原因でした。離島の場合、集落は海辺の狭い地域に立地しており、道路も海岸線に集中しています。そこが不通になると、集落は孤立してしまいます。代替道路にあたるものには林道や旧道がありますが、規格が劣っており、メンテナンスも不十分な場合が多いようですから、船の利用なども考える必要があるでしょう。

 重要施設の被災

 住用地区では役場・診療所・老人ホームなどが冠水し、機能を喪失してしまいました。役場は応急時も復興時も司令塔となるべき場所ですし、後2者は災害弱者にとって最も頼りとなるべき施設です。津波のことなども考え合わせると、高台立地が望ましいのですが、日常の利便性などを考慮して、低地に立地せざるを得ない場合には、高層耐震建築にするなど、機能喪失を防ぐ手立てが必要でしょう。

 10周年

 最近の大規模災害から地域防災を考える(地頭薗隆氏)避難と避難行動(浅野敏之氏)
 奄美豪雨災害から10周年の節目を迎えた2020年10月20日、奄美市役所では奄美豪雨災害パネル展を市内5カ所で始めました。これに協賛して鹿児島大学地震火山地域防災センターが講演動画を提供しました。

文献: (文献1~3に含まれる個々の論文は割愛してあります)
  1. 鹿児島大学地域防災教育研究センター(2012), 「2010年奄美豪雨災害の総合的調査研究」報告書. 鹿児島大学地域防災教育研究センター, 191pp.
  2. 鹿児島大学地域防災教育研究センター(2013), 「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書. 鹿児島大学地域防災教育研究センター, 283pp.
  3. 自然災害研究協議会西部地区部会(2011), 自然災害研究協議会西部地区部会報 第35号.
  4. 福岡管区気象台(2010), 平成 22 年 10 月 18 日から 21 日にかけての奄美地方の大雨. 災害時自然現象報告書 2010年第 1号 , 17pp.
  5. 鹿児島地方気象台・名瀬測候所(2010), 平成22年10月18日から20日にかけての鹿児島県奄美地方の大雨について. 災害時気象資料, Vol., No., 12pp.
  6. 防災科学技術研究所(2011), 2010年10月22日奄美大島豪雨災害調査報告. 主要災害調査, Vol., No.46, 22pp.
  7. 奄美市(2013), 平成 22 年 10 月 奄美豪雨災害の検証(記録誌) . 104pp.
  8. 鹿児島県奄美市総務部総務課危機管理室 (2015), 市町村だより 奄美豪雨災害を受けて. 砂防と治水, Vol.48, No.1, p.102-109.
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  10. 安福規之・大嶺 聖・荒木功平(2011), 2010年10月奄美豪雨における降雨・土砂災害の特徴とその適応策の方向性. 地球環境研究論文集 / 土木学会地球環境委員会 編, Vol.19, No., p.97-102.
  11. 中小企業庁経営安定対策室(2011), 鹿児島県奄美地方における豪雨及び台風第15号による災害に係る被災中小企業者対策について. 経済産業公報, Vol., No.17312, p.5-7.
  12. 伊達仁美(2011), 10.20奄美豪雨で被災した(財)奄美文化財団原野農芸博物館の調査報告. 民具研究, Vol., No.143, p.70-76.
  13. 福長秀彦(2011), 災害の切迫性と警報・メディア~2010年奄美豪雨の事例から~. 放送研究と調査, Vol.61, No.3, p.36-47.
  14. 古川柳子(2012), コミュニティFM災害放送における情報循環プロセス : 2010年・奄美豪雨水害の災害放送とクロスメディア活用を事例として. マス・コミュニケーション研究, Vol., No.81, p.105-123.
  15. 古田英之(2011), 奄美豪雨災害について. 河川 , Vol.67, No.2, p.58-63.
  16. 橋本彰博・川井一輝・田井 明(2015), 2010年奄美豪雨の氾濫解析と氾濫発生要因の検討. 水工学論文集, Vol.71, No.4, p.I_1453-I_1458.
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  18. 鹿児島県河川課防災海岸係(2011), 各県コーナー 奄美豪雨災害について. 防災, Vol., No.748, p.8-14.
  19. 神谷大介・赤松良久・板持直希・竹林洋史・二瓶泰雄(2012), 小規模集落における豪雨災害に対する課題と支援方策~奄美大島豪雨災害を事例として~. 土木学会論文集G(環境), Vol.68, No.5, p.I-305-I-312.
  20. 川畑 宏(2012), 平成23年9月25日の豪雨災害について. 砂防と治水, Vol., No., p..
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  24. 森田 武(2011), 奄美大島豪雨水害から学ぶ(後編). 設備と管理, Vol.45, No.2, p.53-60.
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  27. 西内義雄(2012), 奄美豪雨災害からの教訓. 月刊地域保健, Vol.43, No.10, p.56-73.
  28. 大島地区消防組合消防本部(2011), 平成22年奄美豪雨災害における災害対応の概要. 月刊消防, Vol.33, No.3, p.1-6.
  29. 関山 徹(2012), 水害を受けた学校の復旧過程に関する心理学的分析 : 2010年奄美豪雨災害の調査から. 鹿児島大学教育学部研究紀要. 教育科学編 , Vol.64, No., p.113-123.
  30. 吉井博明(2013), 豪雨災害時における避難と高齢者施設の対応 : 平成22年10月奄美豪雨災害を事例として. コミュニケーション科学, Vol., No.38, p.91-103.
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参考サイト:


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初出日:2016/07/29
更新日:2020/11/07