『地すべり学入門』

岩松 暉


第7章 地すべりの原因

4.人為と地すべり

◎鹿児島県入来峠地すべりと大口市白木山ノ神地すべり

 地すべりには免疫性があると述べた。しかし、一度すべったら永久に安定している訳ではない。いわば動的平衡を保っているのであって、次の地すべりの素因が醸成しつつあるのである。そこに人間が人工の手を加えると、地すべりを発生させてしまうことがある。脚部の切り取り・積載荷重・ダムの湛水・用水路や貯水池からの漏水などが原因になることが多い。
 これは国道225号の入来峠地すべりである。国道の改良に伴って盛土したところすべりだした。下位に更新世郡山層のシルト岩があり、それを安山岩が覆っている。両者の境界付近からすべったのである。
 これは鹿児島県大口市の白木山ノ神地すべりである。基盤の四万十層群を加久藤火砕流が覆っている。火砕流は溶結しているが、最下部には下部非溶結部(地面からの冷却による)が存在する。当然、非溶結部は地質時代を通じて地下水の通路になっていたから、粘土化が進んでいた。それを県道の拡幅に伴って脚部をカットしたため、不整合面付近からすべったのである。2人の犠牲者を出してしまった。

◎バイオントダムの事故


 ダムの湛水に伴う地すべりとしてはイタリアのバイオントダムの事故が史上もっとも有名である。1960年に完成したアーチ式ダムである。1963年夏、長雨と期ロック的な降水があった。その年の10月9日流れ盤地すべりが発生、2.7億m3の崩土がダム湖に流入したため、2,500万m3の水が溢水して下流の村落を襲い、死者2,125名、全壊家屋594戸の大惨事となった。現在はダムとしては放棄されている。


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更新日:1997年1月1日