『地すべり学入門』

岩松 暉


第7章 地すべりの原因

3.外的条件

◎降雨と地すべり

 誘因で一番大きいのは水である。直接的には次に述べる地下水だが、地下水は降雨から供給されるので、地すべりと降雨との関係も深い。高野(1960)によれば、日雨量10mm内外の降雨が5日間くらい降り続いた場合がもっとも発生しやすいという。この程度の雨がもっとも地下浸透に適しているからであって、これ以上の豪雨だと地表流になってしまい、地下にあまり浸透しないからである。

◎地下水と地すべり

 教科書的に言えば、地下水が増加すると間隙水圧が増加し有効応力が減少する。その結果、剪断抵抗が低下して地すべりが発生するのである。左図は新潟県神谷地すべりの測定例である(高野,1960)。地下水位と移動量が見事に相関している。ここでの地下水位が1.6mより浅くなると、周辺地域でも地すべりが多発するという。

◎融雪地すべり

 北陸では3月下旬~4月上旬の融雪期に地すべりが多発する。気温6℃内外、1日の融雪水量が50mm前後のときに一番多く発生するという(高野,1960)。降雨が10mm程度だったのに50mmと多いのは、融雪期の雪はザラメ雪で水は地下に浸透するよりも雪の中を流れるし、地面付近は凍っていて浸透しにくいからである。50mmも融けるような暖かな陽気だと、地面も解けて浸透するのであろう。

◎地震と地すべり

 関東大震災のとき、丹沢で山崩れや地すべりが多発したのは有名である。阪神大震災でも新興住宅地で地すべりが発生した。写真は西宮市仁川の地すべり。ここでは12世帯が被災し、34名の死者を出した。
 宮城県沖地震では、丘陵部の谷を埋め立てた団地が地すべりを起こして問題となった。この部分の原地形は谷部で、そこには溜池があった。

◎活褶曲と地すべり


 上左図の一番長い背斜が新潟県中央油帯背斜(軸部は中新世椎谷層)である。かつては石油井戸が林立していた。背斜軸に沿って地すべり地が見事に並んでいる。新潟県は活褶曲地帯で、現在でも背斜は隆起を続け、向斜は沈降し続けている。東山背斜・西山背斜のように、背斜には山の名前が、鯖石川向斜・渋海川向斜のように向斜には川の名前が付いていることがそれを暗示している。上右図は柏崎から長岡へ抜ける国道8号の水準点変動を示す(岩松,1975)。背斜軸を横断するところ(左が中央油帯背斜、右は更新世魚沼層群の背斜)がやはり隆起している。


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更新日:1997年1月1日