『地すべり学入門』

岩松 暉


第8章 地すべり調査法

 地すべり調査は、他の地質調査と同様、いきなり現地に行けばよいというものではない。やはり順序がある。まず文献調査や空中写真判読のような予備調査が必要である。調査計画の立案には不可欠だし、この情報量の多寡が調査経費に影響する。次がいよいよ現地踏査である。通常の地質調査をすることはもちろんだが、地すべりの変動構造や地物の変状も克明に観察しなければならない。対策工が必要なら、それに伴う精密機器計測も行う精査の段階が次にくる。地すべりが発生して、住民を緊急に避難させなければならないような事態では応急調査も行われる。

1.予備調査

◎文献調査
 地すべりは特定の地質に集中し、地すべり機構も類似している。したがって、調査対象地周辺地域の地質記載論文や地すべり調査報告書をなるべく漏らさず収集する。地すべり状況や活動履歴・地すべり機構などには特別に注意を払う。一般的な地質論文は現地の大学にあるが、卒論などの手記は非公開が原則だから、勝手にコピーしてはいけない。閲覧も許可が必要である。地すべり報告書は、国・県などの役所、公団、JR、電力会社などにある。
 なお、地域は違っても類似した地質のところの地すべりに関する研究も大いに参考になるから、余力があれば収集しておくとよい。

◎空中写真判読
 空中写真判読により地すべり地分布図や地形分類図を作成しておくことは不可欠である。大ブロックの地すべりなどは現地ではかえってわからないことが多い。地すべり地のブロック分けや運動方向の推定なども可能な限りやっておく必要がある。

2.現地踏査(第一次調査、概査)

 現地踏査では次のような事項について克明に観察しなければならない。
微地形判読と運動ブロックの識別
基盤地質と表層地質
崩積土など表層地質にも注意し、風化状況も観察する。
地質構造
テクトニクな構造と地すべり構造の両方に注意する。
変動構造
滑落崖・主亀裂・側亀裂・陥没など。
構造物の変状
建物の傾斜、擁壁の孕み出しなど。
植生の変状
根曲がり樹木、荒れ地の枯れススキ、竹林など
地下水
湧水地、井戸の異常や濁りなど
聞き込み
古老から地すべり履歴を聞き出す。
◎構造物等の変状
 次のような事項に注意して観察する。
建物…柱の傾動、戸障子の建て付け・開閉
道路・鉄道…凹凸、水平変位、亀裂、落石
擁壁・法面…孕み出し、亀裂、ずれ、排水孔の水
トンネル…歪み、亀裂、湧水
電柱・電線…傾動、電線の緊張・弛緩
井戸…水量の急増、涸渇、濁り
水田・畑…稲列の乱れ、水抜け(亀裂)、荒地化
池・沼・湿地…頭部陥没の結果形成

◎聞き込み調査

古老へのインタビュー
地すべり履歴・地すべり前の旧地形・旧村落の立地場所
伝説・民話←悲惨な災害はこのような形で語り継がれることが多い
青壮年へのインタビュー
最近の地物・植生・構造物等の変化
地すべり当時の運動状況・降雨状況
インタビューの留意点
聞き上手になる←なるべく方言で語りかけリラックスさせる
100%鵜呑みにしない←当事者の話には誇張や脚色がつきもの

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更新日:1997年1月1日