『地すべり学入門』
岩松 暉 著
第2章 地すべりの地質的分類
1.分類基準の検討と整理
分類とは何らかの分類基準に基づいて行われなければならない。植村武(1980)は次のように整理した。
- 幾何学的概念による
- 物理的概念による
- 材料物質の種類…岩盤すべり、崩積土すべりなど
- 運動様式…クリープ型すべり、断続型すべりなど
- 地質学的概念による
- 地域性…第三紀層地すべり、北松型地すべりなど
- 時代性…活地すべり、化石地すべりなど
- 歴史性…一次すべり、幼年型地すべりなど
2.代表的な分類例
地すべりの分類では次のような小出博(1955)の地質構造による分類が有名である。分類基準が不統一で分類の体をなしていないとの批判が強いが、日本の地すべりはほとんどすべてこの範疇に属すため、小出の三大分類として、今でも一番よく使われている。
- 第三紀層地すべり(新潟・北陸)
- 第三紀層は固結度が低く、風化して粘土化しやすいため、地すべりが発生しやすい
- 破砕帯地すべり(中央構造線・御荷鉾帯・三波川帯)
- 地層が地殻運動による歪力を受け破砕された地域に発生、結晶片岩地すべりも含める
- 温泉地すべり(箱根・霧島)
- 火山地帯では温泉変質により粘土化しており、慢性的なクリープ型地すべりが起こる
<注> なお、破砕帯とは本来断層破砕帯の意味であるが、当時変成岩も動力変成作用でできたと考えられていたため、結晶片岩までが破砕作用でできたものと誤解したものらしい。
また、小出博(1955)は形態および運動の発展過程による分類として、次のような分類も提案した。この分類は今では使われていないが、一次すべり・二次すべりのような名前は今でも使われている。
- 崩壊
- 地すべり性崩壊…大規模な基岩の破壊
- 一次的地すべり…基岩そのものの運動で発生
- 間欠的地すべり…比較的急激に大きな動きをする。土石流を伴うことが多い
- 継続的地すべり…年々少しずつ動く。千枚田や溜池が発達
- 二次的地すべり…泥を主とする粘土質物質の動き。泥流的
次に、高野秀夫(1960)の形態による分類をあげる。実際はこれらの複合型が多いとしている。
- 地塊型地すべり…ブロック運動、モザイク的な構造
- 崩壊型地すべり…移動と共に地表面が粉砕し、崩落後はその位置で停止する。後に再活動することもある
- 粘稠型地すべり…普通の地すべり、塑性移動層
- 流動型地すべり…含水量50%以上の泥の流動、突発的で急速な動きをする
最後に谷口敏雄(1963)の運動様式と材料物質の組合せによる分類を紹介する。工学的計算に便利なように単純化されている。
運動様式 | 材料の種類 |
a 円弧すべり slide | A 岩石のすべり |
b 平面型すべり glide | B 土砂のすべり |
c 匍行型すべり slide | C 両者の混合したもの |
なお、わが国に実在するのは、次の5種の組合せであるという。
A-b, B-a, B-c, C-a, C-c
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更新日:1997年1月1日