『地すべり学入門』

岩松 暉


第5章 地すべりと第四紀地史

1.造地形運動としての地すべり

 第三紀層地すべりなどと表現されると、地すべりは非常に古い地質時代に発生したかのごとく誤解される恐れがあるが、実際に活動したのは第四紀のものがほとんどである。現在見られる地形は、第四紀以降の隆起浸食の過程で形成されたものであり、地すべりはもっとも大規模な浸食現象の一つである。最初に地すべり多発時代を提唱したのは津田(1970)であった。津田は新潟県芋川地すべりにおいて腐植土混じり地すべり粘土の花粉分析を行い、当時の気候は現在より平均気温にして3~4℃低いとした。現在では年代測定が容易に行えるようになったため、左図のようにまとめられている(大西・寺川,1983)。明らかに2回の多発期が認められる。まず更新世初期、山地丘陵の形成(魚沼変動)に伴う初生崩壊・地すべりがあった(後述)。次いで、更新世中~末期の氷河性海面低下による二次・三次移動が多発した時期があり、最後に完新世初期の日本海温暖化に伴う融雪地すべりの発生が顕著に見られた。現在新潟県の地すべりの約8割は崩積土の再活動であるという(青木,1976)。
 左図は四国祖谷川における地すべり末端高度と段丘面の関係を示している(古谷,1977)。末端高度が段丘面高度と一致している例が多い。段丘形成期に地すべりが多発したのであろう。
 高浜(1991)によれば、後期更新世に初生的な巨大地すべりが発生したという。面積106深度102mで頭部には103mにも及ぶ長大亀裂が見られる。この巨大地すべりの中には二次地すべりが分布し、現在の活地すべりは三次すべりに相当する。

2.地すべりの進化

 上述のように、現在活動している地すべりは化石地すべりの再活動が大部分である。そうなると、いつ再活動するかが問題となる。そこで植村(1975)は地すべりの進化という概念を提案した。すなわち、潜伏期(先地すべり期)・活動期(地すべり期)・消耗期(後地すべり期)の三つの進化階程がある。消耗期は、すべった後安定していわゆる免疫を獲得した時期であるが、やがて次の活動のための準備段階ともいうべき潜伏期へ移行する。この考え方はわかりやすいが、タイムスケールが入っていないから、実践的でない。岩石の劣化や浸食の進行に伴う地形不安定性の増加など諸要因が重なって、次の活動のサイクルに入るのだろう。これらを定量的に見積もることが課題となろう。
 なお、渡(1975)の地形発達史的分類も、地すべりの進化ないし輪廻という概念が背景にある。


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更新日:1997年1月1日