吉田貝層

 吉田貝層の地質

総合模式柱状図(佐藤ほか,2000)佐藤ほか(2000)の地質図のトレース
 鹿児島市西佐多町にある吉田貝層は県指定の天然記念物です。琉球石灰岩に相当する時代、約35~21万年前(更新世中期)の海成層です。佐藤ほか(2000)はこの地域の総合模式柱状図を図のようにまとめました(図はクリックすると拡大します)。この論文では、模式地の採石場の地質を次のように記載しています。
 基底礫層から始まって厚さ約10mの貝殻砂層を覆って厚さ約12mの火砕流堆積物が分布する。両者の境界はかなり波打っ ているが、整合と考えられる。貝殻砂層は、おもにフジツボの遺骸からなる貝殻の破片に租粒の砂やおもに安山岩からなる円礫が混ざって固結している。
 なお、吉田貝層は鹿児島リフト形成期の地層である国分層群を不整合に覆っています。湖の時代が終わり浅海になったのです。地質図は佐藤ほか(2000)の小縮尺地質図をトレースしたものですから、精度が悪いです。(濃緑色:蒲生層、紅紫色:桑の丸軽石凝灰岩部層、緑色:隼人層、褐色:吉田貝層、桃色:シラス)
 矢部・畑井(1941)によって、この地層から、二枚貝類39種、ツノガイ類2種、巻貝類36種の、計77種の貝化石が報告されています。主にフジツボの破片からなりますが、時にはホオジロザメの歯やカメの甲羅なども見つかっています。
吉田貝層採掘現場同左拡大同左拡大(フジツボ片)ヤツシロガイ(鹿大博物館)

 吉田貝層の利用

ミネラルウォーター肥料・土壌改良畜産飼料水質・底質改良材
 貝やフジツボ・珊瑚などの殻は炭酸カルシウムCaCO3からなっていますが、同じ炭酸カルシウムでも、三方晶系の方解石calciteと斜方晶系のあられ石aragoniteとがあります。これを同質異像(多形)と呼びます。常温常圧では方解石のほうが安定です。一般に海生種では方解石が、淡水種ではあられ石が多いと言われていますが、必ずしもそう言い切れません。ここ吉田貝層の貝殻はあられ石が多く含まれています。先に方解石のほうが安定と述べましたが、それはCaが溶出しにくいことを意味します。一方、あられ石は、バクテリアや微生物によって結晶系が壊れやすく、かつ、水・酸などによって成分が溶出しやすいという特徴があります。そこで、ここでは(株)ガイアテックが、その性質を利用して、土壌改良材や飼料、水産養殖場における底質改良材等々として、精製販売しています。
 この露頭の近くに江戸時代の間道があります。その間道を通った島津の殿様がここの湧水を飲んでいたので「殿様水」とも呼ばれていました。日本では珍しいカルシウムを多く含む硬水です。「薩摩殿様水」として市販されています。
文献:
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参考サイト:



初出日:2016/11/11
更新日:2018/11/14