屋久島はなぜ高い

屋久島地質図(中心部は花崗岩、縁辺部は古第三系熊毛層群)紫尾山花崗岩(赤線は稜線)高隈山花崗岩(赤線は稜線)
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 世界自然遺産の屋久島はフライパンを伏せたような円錐台の地形をしています。中心部の標高の高い部分が中新世(1,500万年前)の屋久島花崗岩で、それを取り巻く海岸部は古第三系の熊毛層群からなります。最高峰は九州一の高さを誇る標高1,935mの宮之浦岳です。花崗岩の山が高くなるのは大変珍しいのです。
 花崗岩は石英・長石・黒雲母などから成り立っていますが、それぞれ熱膨張率が違い、風化しやすいからです。黒雲母がとくに風化しやすく、すぐ粘土鉱物のひる石(バーミキュライトvermiculite)になりますし、斜長石もカオリナイトkaoliniteになります。結局、風化に強い石英粒と一部正長石粒が残り、マサ土と呼ばれる粗い砂になります。花崗岩地帯の海岸が白砂青松なのはそのためです。一方、災いももたらします。広島の土砂災害が記憶に新しいところですが、ここは広島型花崗岩の分布地域で、風化花崗岩とマサ土が土砂崩れの素因となりました。したがって、花崗岩地帯はなだらかな女性的な山容を呈し、周辺の山々より低くなるのが普通です。たとえば、紫尾山花崗岩地帯では、最高峰の紫尾山は四万十層群ですし、高隈山花崗岩地帯でも最高峰の大箆柄岳はやはり四万十層群です。いずれも花崗岩による接触変成(熱変成)を受けて、堅硬なホルンフェルスになっているからです。
上高地にある日本近代登山の父ウェストン碑
(基岩は世界一若い滝谷花崗岩)
 それでは花崗岩で高い山になっているところはあるのでしょうか。日本アルプスがそれです。穂高岳には世界一若い第四紀(1.4Ma)の滝谷花崗岩が分布しています。花崗岩は深成岩、地下深くで形成された岩石が、現在では2,000mの高地に露出しているのですから、その急速な隆起量には驚かされます。風化して浸食される暇がなかったのでしょう。
 屋久島もやはり隆起速度が大きかったのでしょうか。隆起量あるいは隆起速度の見積もり方には、変動地形学的方法や測地学的方法などいろいろあります。しかし、地震性地殻変動や氷河性海水面変動あるいはハイドロアイソスタシーなど考慮すべき点が多々あり、さらに隆起量から浸食量を差し引かなければならないので、浸食量の見積もりも必要です。それほど簡単ではありません。ここでは海成段丘の形成年代と現在の標高から外挿する隆起速度の見積もり法を見てみましょう。
 屋久島の段丘群についてはいろいろな分類がありますが、町田(1969)は、上図のように、海抜100m以上の高位段丘群H面と以下の中位段丘群M面に大別しました。M面のうちM1面(海抜高度85-90m)の年代から、0.7-0.8m/1000年の隆起速度を得ています。
 しかし、喜界島では平均速度は1000年に2.1mと見積もられていますから、屋久島がそれほど速いわけではありません。町田の得た値を機械的に1,500万年前まで外挿すると、3万mになります。マグマがどのくらいの深さで出来たかも問題になります。仮に地下10kmで形成されたとしても、かなり過大な数字となります。屋久島は「月に35日雨が降る」と言われているくらい降水量の大きいところですから、やはり風化浸食が激しかったのでしょうか。真相はまだ分かりません。
屋久島の北東-南西方向断面図(安間ほか,2014)屋久島花崗岩の流動構造(安間ほか,2014)
 同じ熊毛層群からなる種子島や馬毛島は至って低平ですから、屋久島花崗岩の貫入が、高山形成の主因でしょう。そこで屋久島花崗岩の貫入機構に関する研究を紹介します。安間ほか(2014)は、正長石巨晶の結晶定方向配列を測定、重く流れにくい粘性流体中を上昇する浮力性粘性流体内部に発達する内部流動組織のアナロジーから、屋久島花崗岩は、南東方向に向かって斜めにダイアピル貫入をしたと結論づけました。なお、北東には活火山口永良部島のマグマ溜まりがあり、示唆的です。

文献:
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参考サイト:



初出日:2015/11/10
更新日:2020/12/29