鹿児島茶

 はじめに

お茶の花(溝辺)やぶきた源樹(静岡市草薙)
 茶・茶樹Camellia sinensisはツバキ科ツバキ属の常緑樹です。原産地はインド・ベトナム・中国西南部と言われていますが、いずれにせよ熱帯~暖温帯の植物です。11~12月には葉の付け根に2cmほどの白い小さな花を咲かせ、翌年秋に固い小さな実を実らせます。
 日本には遣唐使によって8~9世紀に伝えられたと言われています。歴史の教科書では鎌倉時代僧栄西が宋から持ち帰ったと書かれていますが、これは抹茶のことです。栄西は『喫茶養生記』を著しました。したがって、京都郊外の宇治や、鎌倉寺院の荘園のあった狭山などがお茶の産地になったことは理解できます。静岡は、栄西より少し遅れて、静岡出身の聖一国師がやはり中国から持ち帰って伝えたのだそうです。明治期、東京を追われた最後の将軍徳川慶喜に従って駿府落ちした幕臣たちが開墾に精を出して、今日の隆盛の基礎を築いたのだとか。それと明治41年(1908)杉山彦三郎によって、「やぶきた」という現在国産茶の8割を占める品種が開発されたのも一因でしょう。
登録標章
 では鹿児島のお茶の歴史はどうなのでしょうか。平家の落人が伝えたとの伝説もあるようですが、実は栄西は薩摩に来ています。栄西は帰国後九州各地を周って禅寺を建立しており、出水市感応寺の開山でもあるのです。島津家初代忠久公の帰依を受けました。藩政時代には栽培も奨励されたようです。
 ところで、霧島市牧園支所に「日本一大茶樹」があります。戦前は当時樹齢350年の大茶樹で天然記念物だったのですが、昭和20年に枯死したため、挿し木で育った2代目が植えてあります。藩政時代にお茶が植えられていた証拠です。また、枕崎市の県茶業試験地跡には紅茶母樹があり、「紅茶のお母さん」と看板に書いてあります。昭和6年(1931)に植えたアッサム種だそうです。この木から日本国内に紅茶栽培が伝わりました。茶の木は熱帯植物ですから、鹿児島で繁茂しても当然ですが、産業としての茶業が盛んになったのは第二次大戦後のようです。自然条件に恵まれすぎていて、維新時の静岡のようなハングリー精神がなかったためか、ブランド戦略が下手だったからか、よく分かりません。その後追いつきはじめ、現在では2位になりました。もっとも静岡の人に言わせると、静岡には老木が多いこと、平坦地が少なく機械化に不向きな地形条件があること、などから、やがて鹿児島に追い抜かれるであろうとのことでした。
2代目日本一大茶樹(霧島市牧園支所)紅茶母樹(枕崎市妙見神社・茶業試験地跡)主要県茶(生葉)収穫量ランキング(2014年)
余談:ちゃっきり節
 今では静岡県民謡と思われている「ちゃっきり節」は、静岡電鉄(現静岡鉄道)の依頼で、狐ヶ崎遊園地のPRのために作成されたコマーシャルソングです。北原白秋作詞、町田嘉章作曲という大物を起用しました。CMソングの元祖とも言われています。「やぶきた」の開発と言い、CMソングと言い、静岡のマーケティング戦略には、鹿児島も大いに見習う必要があるのではないでしょうか。

 お茶栽培の好適条件

 それでは、お茶栽培に適した自然条件を見てみましょう。伊藤園のお茶百科によれば、お茶の栽培には次のような条件を満たすことが望ましいそうです。
乗用型摘採機
 このような条件だと、北海道や東北は無理で、新潟県の村上茶が「北限の茶」として売り出しています。太平洋側は茨城くらいでしょうか。もちろん、秋田や岩手でも採れないわけではありませんが、産業にまではなっていません。その点、鹿児島は台風以外はほとんど全てこの条件を満足しています。関東の狭山茶も関東ロームに作付けされていますが、シラスも排水性が極めて良いのが特徴です。また、鹿児島で一番広い笠野原台地は、シラスの上をアカホヤや黒ボクが覆っていますが、PHは5.5です(肥後ほか,2009)。もう一つ、シラス台地には利点があります。平坦なので機械化に向いているのです。傾斜が15°以上あると、乗用型の大型機械は使えず、手摘みのような非効率なやり方しかできません。
 ただし、高級茶には、低温寡照の微気象を有する山間地がベストだそうで、静岡の川根、京都の宇治、福岡の八女、熊本の五木など標高の高い寒冷地がそれです。それに比して、シラス台地のような温暖な平坦地は中級の量産茶という位置づけのようです。このような状況を打破するためには、温暖な地域に適した高級な品種を開発するしかありません。地球温暖化に伴い、お米の高温障害が既に出ていますから、喫緊の課題と言えるでしょう。

文献:

  1. 足立東平(1956), 島津藩政時代の茶の歴史. 茶業研究報告, Vol.1956, No.7, p.81-85.
  2. 足立東平(1956), 島津藩政時代の茶の歴史(Ⅱ). 茶業研究報告, Vol.1956, No.8, p.112-123.
  3. 肥後修一・田中正一・脇門英美・久保田富次郎・松元 順(2009), 大隅半島の異なるシラス台地畑における施肥窒素の溶脱特性. 九州農業試験研究機関協議会第72回研究発表会要旨, p.51.
  4. 烏山光昭・米山忠克・小林宏信(1985), 茶樹による標識施肥窒素の吸収に及ぼす土壌窒素の影響. 茶業研究報告, Vol.1985, No.61, p.12-19.
  5. 和田光正・中田典男・本莊吉男(2009), 暖地におけるチャ早生品種の品質特性(第1報). 茶業研究報告, Vol.1979, No.49, p.47-55.
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参考サイト:



初出日:2016/12/29
更新日:2018/10/31