鹿児島の海岸砂

 海岸の砂

三保の松原と羽衣の松(石碑のところ)日本平地質図(産総研)
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 「白砂青松」という言葉があります。何を思い浮かべるでしょう。田子の浦から見た富士山でしょうか。それとも羽衣伝説で有名な三保の松原でしょうか。右の写真は世界文化遺産に登録された三保の松原です。石碑の建っているのが、何代目かの羽衣の松だとか。ちっとも白砂ではありません。実は西からの沿岸流が日本平の段丘を削って清水港のところに堆積させた砂州なのです。このように海岸の砂は後背地の地質に依存します。逆に海岸の砂を見ると、後背地の地質が分かります。大航海時代、まだ航空機も衛星写真もありませんでしたから、探検家達は海岸や河口の砂を見て、上流の地質を判断したのだそうです。
 ちなみに白砂青松は花崗岩地帯に多く見られます。花崗岩は石英・長石・雲母などからなりますが、雲母が一番風化しやすく、すぐ粘土鉱物の蛭石になり、石英や長石が残されます。両方とも白っぽいから白砂になるのです。マサと言います。広島型花崗岩が広く分布する瀬戸内海の砂浜は大抵白砂です。なお、広島で土砂災害が多発するのも、このマサがあるからです。

 砂の分類

 地質学では礫(>2mm)・砂(2mm~1/16mm)・泥(<1/16mm)と粒径で分け、さらに泥をシルト(1/16mm~1/256mm)・粘土(<1/256mm)に細分しています。このように砕屑粒子には幅があるので、粒径D(mm)の対数をとって φ=-log2D で表すφスケールがしばしば用いられます。では、なぜ対数の底を2にしたのでしょうか。学者が勝手に決めたのでしょうか。しかし、砂や泥といった言葉は地質学が誕生する以前から使われていました。砂が溜まる場所と泥が溜まる場所が何となく異なっていたからです。実は流体中を沈降する粒子の挙動を調べてみると、ニュートン則に載る範囲とストークス則に載る範囲が違うのです。φスケールには、こうした流体力学的な裏づけがありました。
 自然界ではパチンコの球のように粒径が揃うことは稀です。粒度分布が問題になります。ばらつきを表すのが淘汰度(分級度)sortingです。標準偏差がよく使われますが、中央粒径値median・最頻値mode・尖度kurtosis・歪度skewnessなども使われます。
 なお、その他、構成鉱物比や円磨度roundness・球形度sphericityなどでも細かく分類されます。土質力学では、別の分類法があります。
名称英語名粒径φスケール円磨度
極粗粒砂very coarse sand2~1mm0
粗粒砂coarse sand1~1/2mm (1,000~500μm)1
中粒砂medium sand1/2~1/4mm (500~250μm)2
細粒砂fine sand1/4~1/8mm (250~125μm)3
極細粒砂very fine sand1/8~1/16mm (125~62.5μm)4

 鹿児島の海岸砂

志布志湾の海岸砂オリビンサンド(内村・浦嶋,2013)
 鹿児島は県本土の6割がシラスで覆われていますから、鹿児島の海岸砂といえば、火山ガラスを含んだ砂が多いのです。代表例として志布志海岸の砂を右に示します。珍しいものとしては、開聞岳の麓、指宿市川尻海岸にオリーブ色のカンラン石olivineが入ったオリビンサンドがあります。開聞岳の溶岩をもたらしたマグマがマントル物質を捕獲してきたのでしょう。与論島や沖永良部島には珊瑚砂や有孔虫砂(いわゆる星砂)もあるそうです。
 2019年、桑水流(2019)は県内24個所の海岸を調査して、鹿児島県の海浜砂に関する総括論文を発表しました。全体として細粒砂が多く、鉱物組成から次の6グループに分けられるそうです。
  1. 火山ガラスを特徴的に含む海浜砂
  2. 輝石や角閃石を特徴的に含み,長石が多い海浜砂
  3. 黒雲母を特徴的に含み,石英と長石が多い海浜砂
  4. 磁鉄鉱を特徴的に含む海浜砂
  5. 泥岩や砂岩の石質岩片を特徴的に含み,石英が多い海浜砂
  6. 生物遺骸からなる海浜砂
 地図のマーカーをクリックすると、写真と簡単な解説がポップアップします。まだデータ不足ですが、追々写真を集めていきます。ご提供いただけましたら幸いです (連絡先:k4186169@kadai.jp)。
謝辞: 使用した写真のかなりの部分は産総研須藤定久氏からご提供いただいたものです。篤く感謝の意を表します。


 凡 例
火山ガラス主体
石英・長石主体
岩片主体
生物遺骸
砂鉄主体
その他

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文献:
  1. 桑水流淳二(2008), 鹿児島県本土の海浜と海浜砂. 鹿児島県立博物館報研究告, No.27, p.109-118.
  2. 桑水流淳二(2008), 鹿児島県本土の海浜と海浜砂(図版). 鹿児島県立博物館報研究告, No.27, p.119-121.
  3. 桑水流淳二(2019), 鹿児島県の海浜と海浜砂. 鹿児島県立博物館報研究告, No.38, p.49-60.
  4. 桑水流淳二(2020), かごしまの海浜と海浜砂―砂浜は今. 鹿児島県地学会誌, No.115, p.3-27.
  5. Pettijohn, F. J.(1983), Sedimentary Rocks (3rd ed). Harpercollins, 628pp.
  6. 竹上 寛(1971), 鹿児島県における海浜砂の鉱物組成と後背地質との関係について. 岩鉱, Vol.66, No.3, p.122-136.
  7. 須藤定久・有田正史(2005), 砂と浜の地域誌(2) 鹿児島県薩摩地方の砂-吹上砂と緑砂そして不思議な貝殻-. 地質ニュース, No.609, p.53-62.
  8. 内村公大・浦嶋幸世(2013), 開聞岳のかんらん石. Nature of Kagoshima, No.39, p.191-202.
  9. 山切美澄(1990), 鹿児島県本土の海岸砂の粒土及び構成鉱物について. 鹿児島県立博物館報研究告, No.9, p.34-36.
  10. (), . , Vol., No., p..
  11. (), . , Vol., No., p..
  12. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2016/11/01
更新日:2020/11/27