野間エクスカーション

 約77万~12万6千年前の地質時代をチバニアンChibanian(千葉期)と命名することが話題になっています。現在、第2段審査を通過しており、2019年夏頃にも正式に決まるだろうとのことです。一方、2019年2月15日付南日本新聞1面に「南さつま市に磁場変動の跡/N極とS極の逆転も=神戸大チームが発見」という記事が掲載され、地元鹿児島の関心を呼んでいます。いずれも地磁気の変動に関わるニュースですので、ここに簡単な解説を加えます。

 地磁気の逆転

玄武洞(玄武洞溶岩)松山基範(山崎,2005)地磁気極性(地磁気観測所HP)
 昔から方位磁石は航海などに使われてきました。地球は一つの大きな磁石と考えられています。地球の内部構造は外側より地殻・マントル・核からなり、核は鉄やニッケルで構成され、外殻は流体、内核は固体だと中学理科で教わりました。この外殻の流体が動くと電流が流れ、磁場が発生します。ダイナモ理論と呼ばれ、一応、これで地磁気の成因が説明されています。この地磁気が逆転する場合があることを発見したのが京都帝大の松山基範(もとのり)です。兵庫県の玄武洞溶岩を測定した結果、逆転を見出しました。この功績を称え、松山逆磁極期Matuyama Reversed Epochと名づけられました。
 それでは何故地磁気は逆転するのでしょうか。外殻が均一ではなく2層構造をしているのではないかとか、いろいろの仮説が提唱され、スパコンによるシミュレーションや超高圧の実験などが行われていますが、結局のところ地球ダイナモの機構がまだよく分かっていないので、逆転の原因もやはりよく分かっていないようです。

 エクスカーション

地磁気エクスカーションと相対磁場強度(小田,2005)
 地磁気はどのぐらいの時間をかけて逆転するのでしょうか。よく分かっていないのですが、数百年~数千年といった地質学的時間スケールでは瞬時に行われるようです。しかし、実際には千年オーダーの時間をかけて逆転するのですから、双極子磁場が瞬時にして180度回転するのではなさそうです。逆転途上の仮想的古地磁気極VGPが移動する現象をエクスカーションと呼んでいます。右図はブルネBrunhes正磁極期の地磁気エクスカーションと相対的磁場強度の関係を示しています。地磁気エクスカーションが発生する時には相対的磁場強度が小さくなっていることが分かります。Sintは相対磁場強度標準曲線で、ODP(Ocean Driling Project)は海洋底掘削のコアの値です。また、Sint横軸のVADM(Virtual Axial Dipole Moment)は仮想軸双極子モーメントです。標準化に伴ってSintの曲線は少し平滑化されていますが、かなり一致しています。双極子磁場が弱くなることで地球磁場強度が弱くなり、同時に非双極子磁場成分が卓越することにより地磁気エクスカーションが引き起こされると考えられているようです(小田,2005)。舌足らずで分かりにくいと思います。地学雑誌第114巻第2号に「地磁気・古地磁気研究の最前線」の特集がありますから、詳しくはそちらをご覧ください。
 なお、地磁気エクスカーションと氷期~間氷期サイクルとの関係を主張する議論もありましたが、どうも現在では否定されているようです。しかし、地球磁場は有害な宇宙線を防いでくれているのですから、基本的な地球環境の一つです。相対磁場強度が弱まった時に、どのような現象が起こるのでしょうか。
蛇足: エクスカーションexcursionは、地質学では「巡検」と訳しますが、普通は遠足とか脱線とかという意味に使われます。

 野間エクスカーション

亀ヶ丘シームレス地質図溶岩層磁極の移動(Okayama et al.,2019)
 薩摩半島南部には南薩層群と一括される中新世~鮮新世の火山岩類があります。ここ野間半島亀ヶ丘にも約670万年前の玄武岩質~安山岩質溶岩や凝灰角礫岩が分布しています。Okayama et al.(2019)は11枚の溶岩層を識別し、それらの地磁気を測定しました。その結果、海岸部→中腹部→山頂部にかけて、それぞれ逆磁極→正磁極(現在と同じ磁極)→逆磁極と変化していました。NM34までは南半球に磁極があったのに、NM32では北半球をうろつき、NM31で赤道を通り、NM13になってまた南半球に戻っているのです。Okayama et al.(2019)は、これを野間エクスカーションと呼んでいます。

文献:
  1. Matuyama, M.(1929), On the Direction of Magnetisation of Basalt in Japan, Tyosen and Manchuria. Proc. Imp. Acad. Japan, Vol.5, No., p.203-205.
  2. 小田啓邦(2005), 頻繁に起こる地磁気エクスカーション―ブルネ正磁極期のレビュー. 地学雑誌, Vol.114, No.2, p.174-193.
  3. Okayama, K., Mochizuki, N., Wada, Y. & Otofuji, Y.(2019), Low absolute paleointensity during Late Miocene Noma excursion of the Earth's magnetic field. Physics of the Earth and Planetary Interiors, Vol.287, No., p.10-20.
  4. 山崎俊嗣(2005), 地磁気の逆転. 地質ニュース, Vol., No.615, p.45-48.
  5. (), . , Vol., No., p..
  6. (), . , Vol., No., p..
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参考サイト:



初出日:2019/05/17
更新日:2020/11/25