南薩型金鉱床

 鉱床の成因的分類

大分類中分類小分類
火成鉱床マグマ鉱床 
ペグマタイト鉱床 
熱水性鉱床スカルン鉱床
斑岩銅鉱床
鉱脈鉱床
ミシシッピーバレー型鉱床
キースラーガー型鉱床
海底噴気熱水鉱床
堆積鉱床風化残留鉱床
砂鉱床 
沈殿鉱床 
有機堆積鉱床 
変成鉱床接触変成鉱床 
広域変成鉱床 
 鉱床とは、有用鉱物の濃集している地質体を言います。鉱石が経済的に採掘可能という条件を付けることもあります。岩石を火成岩・堆積岩・変成岩と大別するように、鉱床も火成鉱床・堆積鉱床・変成鉱床と三大別されますが、その下の成因的分類については諸説あります。ここではごく普通の分類を挙げておきます。
 鹿児島にある金山のうち、菱刈・串木野・山ヶ野といった代表的金山は鉱脈型鉱床です。割れ目、とくに引っ張り割れ目extention fractureに熱水が入り込み、有用鉱物が沈着したものです。この鉱脈型鉱床の中に「南薩型鉱床」と、鹿児島の名前の付いた鉱床タイプがあります。資源分野では"Nansatsu type"と英語でも通用するそうです。現在でも、春日鉱山・岩戸鉱山・赤石(あけし)鉱山が稼行しています。下の航空写真で分かるように、主に露天掘りです。右上のシームレス地質図を拡大するか、下の個別航空写真を縮小してみてください。3鉱山ともN3_vis_alの中新世~鮮新世火山岩類分布域に位置しています。

 南薩型鉱床

春日鉱山(枕崎市春日)岩戸鉱山(枕崎市別府)赤石鉱山(南九州市知覧町塩屋)

春日鉱山鉱石(鹿大博物館)赤石鉱山鉱石(鹿大博物館)
 「南薩型鉱床」と命名したのは浦島幸世鹿大名誉教授です。浦島(1975)の原文を引用します。
 南薩地域の東側には、鉱脈型の金銀鉱床が分布しているが、大規模なものは知られていない。西側の枕崎付近には、安山岩質火山噴出物を交代した塊状珪化帯とその中の網状石英脈からなる金鉱床があり、春日鉱床や赤石鉱床のほかに、岩戸鉱床も開発されている。これらの鉱床は鉱石に硫砒銅鉱や硫黄を伴うことと、カオリンや明礬石を含む変質帯にとりまかれていることなどで特徴づけられる。この種の鉱床は他地域ではあまりみとめられていないもので、鉱化作用の特異性を暗示すると考えられる。串木野鉱床区とも呼ばれる北薩の鉱床と区別して南薩型鉱床と名づけてよいものであろう。
浅成金銀鉱床の生成概念図(井沢,1985)Bergerによる温泉型金鉱床の模式図(松久,1987)
 こうした産状を呈する鉱床の成因について、井沢(1985)は、化石地熱系と捉え、図のようなモデルを提案しました。深部高温熱水により広範囲に岩石のプロピライト化が進行します。そこに割れ目があると、鉱脈型鉱床が形成されますが、熱水が割れ目に沿ってさらに上昇すると、低温・酸化的な浅部地下水との混合が起こり、粘土化や珪化などの変質が起こります。低温になって沸騰すると、金などの有用鉱物の沈殿が促進されます。これが南薩型です。
 一方、南薩型鉱床が熱水網状鉱染鉱床と呼ばれることがあります。一般に断層や節理、引っ張り割れ目の末端部が枝分かれし、しばしば細脈化して網状体になる場合があります。南薩型鉱床は割れ目末端部の現象を示しているのではないでしょうか。
 また、松久(1987)は、角礫化の程度がやや弱いが、温泉型金鉱床によく似ていると述べています。図示された模式図を見ると、割れ目の末端(地表に近い部分)が枝分かれして網状になっています。
岩盤クリープ(千木良,1983)節理末端消滅部の軟X線観察
(千木良,1983)
 直立した節理面が地表付近では応力開放と重力により、トップリングを起こしたりクリープしたりします。千木良(1983)は、その節理密度を計測して、地表部ほど節理密度が大きくなることを定量的に示しましたが、同時に、節理末端消滅部を採取し、軟X線で観察しました。肉眼では節理の認められない新鮮部にも、X線では潜在節理が認められました。新鮮部ではシャープで長い節理が、風化部では短い微細な破断面の集合体に漸移しています。当然、水が通りやすくなりますから、物理的化学的風化が一層促進されます。これは常温常圧地表でのミクロな現象ですが、南薩型鉱床のミニチュアと考えられないでしょうか。なお、千木良(1991-1996)は、岩盤割れ目のシリカによるセルフシーリングの実験的研究も行います。これなどは鉱脈型鉱床のアナロジーと言えるかも知れません。

文献:

  1. Berger, B. R.(1985), Geologic-geochemical features of hot-spring precious-metal deposits. "Geologic characteristics of sediment- and volcanic-hosted disseminated gold deposits; search for an occurrence model" ed. by E. W. Tooker, USGS Bulletin, No.1646, p47-53.
  2. 千木良雅弘(1983), 節理性岩盤表層部にみられるトップリングの牲質とその意義. 応用地質, Vol.24, No.1, p.9-20.
  3. 千木良雅弘(1991), 放射性廃棄物処分施設における岩盤割れ目シーリング(その1)-シリカによるセルフシーリングの可能性-. 電力中央研究所報告:U91031, 29pp.
  4. 千木良雅弘(1993), 放射性廃棄物処分施設における岩盤割れ目のシーリング(その2)-流れ場におけるシリカの沈殿挙動-. 電力中央研究所報告:U92050, 38pp.
  5. 千木良雅弘・中田英二(1996), 放射性廃棄物処分施設における岩盤割れ目のシーリング(その3)-シリカの沈澱速度,コロイドの形成,間隙の閉塞-. 電力中央研究所報告:U95053, 27pp.
  6. 井沢英二(1985), 浅成金銀鉱床の変質帯と粘土鉱物―地熱系モデルによる検討―. 日本鉱業会金銀鉱石研究委員会編「日本の金銀鉱石 第三集」, p.133-154.
  7. 井沢英二・浦島幸世・大久保義和(1984), 南薩型金鉱床の生成時期 春日,岩戸,赤石産明ばん石のK-Ar年代. 鉱山地質, Vol.34, No.187, p.343-351.
  8. 松久幸敬(1987), 温泉型金鉱床と地熱系. 地質ニュース, No.390, p.20-43.
  9. 宮久三千年(1975), 南九州の金銀鉱床. 日本鉱業会金銀鉱石研究委員会編「日本の金銀鉱石 第一集」, p.43-80.
  10. 石油天然ガス・金属鉱物資源機構・日鉱金属株式会社(2009), 「南薩型鉱山の資源量評価と最適操業計画の策定に関する共同スタディ」報告書(公開版). 石油天然ガス・金属鉱物資源機構金属資源技術部, 39pp.
  11. 志賀美英(2015), 写真集 原色金属鉱石―金属の原料とはどのようなものか―. 南日本新聞開発センター, 122pp.
  12. 浦島幸世(1975), 日本の金銀鉱床. 日本鉱業会金銀鉱石研究委員会編「日本の金銀鉱石 第一集」, p.1-42.
  13. 浦島幸世(1993), 金山 : 鹿児島は日本一. かごしま文庫, 春苑堂出版, 227pp.
  14. (), . , Vol., No., p..
  15. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



初出日:2016/10/10
更新日:2020/11/27