黄砂

 黄砂とは

 気象庁では黄砂Yellow dust, Asian dustを「東アジアの砂漠域から強風により大気中に舞い上がった鉱物粒子」と定義しています。一般には、タクラマカン砂漠・ゴビ砂漠・黄土高原などから、春の強い低気圧通過に伴う砂塵嵐によって巻き上げられ、偏西風に乗って、わが国に到来します。風成ですから、当然飛来距離によって大きさも変わります。わが国では1µm~30µm(平均4µm)程度ですから、地質学でいう砂の粒径ではなく、シルトの範ちゅうに入ります。鉱物としては、石英、長石、雲母、緑泥石、カオリナイト、方解石、石膏などが含まれます。途中、中国の工業地帯を通過しますので、煤煙など土壌起源ではない物質が付着していることも多々あります。細菌やカビなども付着しているケースもあるとか。
全球黄砂モデルによる春季の黄砂分布図(気象庁)ゴビ砂漠の移動するバルハン砂丘(轍が覆われている)黄砂と付着した煤煙の電顕写真(田崎,1991)

 鹿児島と黄砂

鹿児島市役所におけるPM2.5の成分分析(鹿児島市,2014)
黄砂にけむる西之谷ダム
 鹿児島には桜島の火山灰が降ります。真っ黒くて東風に乗り桜島のほうから来ますので、すぐ分かります。硫黄臭がすることもあります。ところが、春先にもっと細かくて黄褐色の靄状のものに覆われることがあります。大陸からやって来た黄砂です。最近は何でもPM2.5にされることもありますが。
 PM2.5とは大気浮遊塵のうち、粒子の大きさが2.5µm以下の微小粒子状物質Particulate Matterのことを言います。環境基準では、1年平均値が15µg/m3以下で、かつ、1日平均値が35µg/m3以下とされています。今年2017年夏には2日だけ35µg/m3を超す日がありました。観測値は毎日そらまめ君などで公表されていますから、濃度の高い日には、呼吸器系や循環器系疾患をもつ方は注意しましょう。

 なぜ遺蹟は土に埋もれているの

 指宿の橋牟礼川遺跡のように、火山灰や火砕流で遺蹟が埋まるのは分かりやすいのですが、近畿地方のように火山がないところでも、遺蹟は土中に埋もれています。基岩が風化したのなら、遺蹟は残らないはずです。植物が作り出したにしては厚すぎる気もします。遺蹟を覆う土はどこから来たのでしょうか。不思議です。そこで、今まで古土壌paleosolとかロームloamとかと言われてきたもの中には、どうも火山と関係ない物も含まれているのではないか、かなりの程度広域風成塵aeolian dustと呼ばれるものが含まれているのではないか、との説が登場してきました。
 レスLöß, loess(黄土)とは、砂漠や氷河で生成された岩粉が風に運ばれ堆積したものを言います。元々がドイツ語ですから、氷河起源のものを指しましたが、日本では砂漠起源の黄砂が堆積したものを意味します。日本周辺における広域風成塵の堆積速度は、おおむね100~10-1mgcm-2y-1のオーダーだそうです(吉永,1998)。また、寒冷期には堆積速度が3~5倍程度増加する傾向が認められるそうです。それは次のような理由によります。氷期には海洋面積が縮小するため、海面から蒸発する水蒸気量が減少し、大陸では乾燥化が進行、砂漠が拡大します。黄砂の供給量が増えるのです。乾燥化に伴いシベリア高気圧も発達、そこから吹き出す北西季節風によって、大量の黄砂が飛来するからです(成瀬,2014)。
松浦玄武岩上の土層断面
(溝田ほか,1992)
シラス台地上における風成塵の堆積量変化
(成瀬ほか,1994)
 具体的に九州地方を見てみましょう。溝田ほか(1992)は、北部九州の花崗岩および玄武岩上の土壌を対象として、石英の粒径組成、酸素およびSr同位体比、火山ガラスの屈折率を測定しました。対象地点は、水系からは完全に切り離された尾根状の緩傾斜面とし、河川性のものが入り込まない環境です。土壌中の石英粒子の粒径分布は、著しく均一で福岡市内に降る黄砂と一致したそうです。また、酸素およびSr同位体比は、基盤岩とは著しく異なり、中国黄土高原の黄土によく似ていたとのことです。つまり、細粒質土層の主要部分は風成塵由来と結論づけ、その平均的堆積速度を0.027m/103年と見積もりました。
 成瀬ほか(1994)は、シラス台地上の土壌について研究しました。シラスとこれを被覆する火山灰層の間に、上下2層のレス質古土壌を見出しています。下部は1.6~1.8万年前の最終氷期最盛期とその直後、上部は1.1~1.3万年前に生成された古土壌だそうです。これらの構成鉱物を調べた結果、シラスの風化物ではなく、広域風成塵起源だったそうです。その堆積量は、下部層で10.5g/10cm3、上部層で6.6g/10cm3と見積もられるそうです。
文献:
  1. 福沢仁之・小泉 格・岡村 真・安田喜憲(1995), 水月湖細粒堆積物に認められる過去2,000年間の風成塵・海水準・降水変動の記録. 地学雑誌, Vol.104, No.1, p.69-81.
  2. 雁沢好博・渡辺友東子・伴かおり・橋本哲夫(1995), 石英粒子の天然熱蛍光を利用したテフラ起源と風成塵起源堆積物の識別方法―上北平野,天狗岱面上の中期更新世の段丘堆積物を例として―. 地質学雑誌, Vol.101, No.9, p.705-716.
  3. 井上克弘・佐竹英樹・若松善彦・溝田智俊・日下部実(1993), 南西諸島における赤黄色土壌群母材の広域風成塵起源, 基岩および海底堆積物中の石英, 雲母, 方解石の酸素および炭素同位体比-. 第四紀研究, Vol.32, No.3, p.139-155.
  4. 岩坂泰信・西川雅高・山田 丸・洪 天祥(編)(2009), 黄砂. 古今書院, 342pp.
  5. 岩坂泰信(2006), 黄砂―その謎を追う. 紀伊國屋書店, 228pp.
  6. 黄砂解析鹿児島グループ(編)(2001), 黄砂の衛星画像解析. 鹿児島大学教育学部, 159pp.
  7. 甲斐憲次(2007), 黄砂の科学. 成山堂書店, 150pp.
  8. 溝田智俊・下山正一・窪田正和・竹村恵二・磯 望 ・小林 茂 (1992), 北部九州の緩斜面上に発達する風成塵起源の細粒質土層. 第四紀研究, Vol.31, No.2, p.101-111.
  9. 名古屋大学水圏科学研究所(編)(1991), 黄砂―大気水圏の科学. 古今書院, 328pp.
  10. 成瀬敏郎(2014), 第四紀の風成塵・レスについて. 第四紀研究, Vol.53, No.2, p.75-93.
  11. 成瀬敏郎(2007), 世界の黄砂・風成塵. 築地書館, 174pp.
  12. 成瀬敏郎(2006), 風成塵とレス. 朝倉書店, 208pp.
  13. 成瀬敏郎(2003), 風成塵・レスからみた最終間氷期以降のモンスーン変動. 地学雑誌, Vol.112, No.5, p.794-799.
  14. 成瀬敏郎・横山勝三・柳 清司(1994), シラス台地上のレス質土壌とその堆積環境. 地理科学, Vol.49, No.2, p.76-84.
  15. Naruse, T., Sakai, H. & Inoue, K.(1986), Eolian Dust Origin of Fine Quartz in Selected Soils, Japan. Quaternary Res., Vol.24, No.4, p.295-300.
  16. 杉山真二・渡邊眞紀子・山元希里(2002), 最終氷期以降の九州南部における黒ボク土発達史. 第四紀研究, Vol.41, No.5, p.361-373.
  17. 田崎和江(1991), 粘土と環境地質. 粘土科学, Vol.31, No.2, p.82-90.
  18. 鳥取大学乾燥地研究センター 監修、黒崎泰典・黒沢洋一・篠田雅人・山中典和(編)(2016), 黄砂―健康・生活環境への影響と対策. 丸善出版, 150pp.
  19. 吉永秀一郎(1998), 日本周辺における第四紀後期の広域風成塵の堆積速度. 第四紀研究, Vol.37, No.3, p.205-210.
  20. 吉永秀一郎(1995), 風化火山灰土の母材の起源. 火山, Vol.40, No.3, p.153-166.
  21. (), . , Vol., No., p..
  22. (), . , Vol., No., p..
  23. (), . , Vol., No., p..
  24. (), . , Vol., No., p..
  25. (), . , Vol., No., p..

参考サイト:



更新日:2017/08/27
更新日:2017/09/06